波のまにまに ( 2001/07/01 )
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作者
 
登場キャラクター
ティカ



 音楽は紡ぎ出す音
 軽やかに、弾けて、はねて、踊るように
 緩やかに、よせては返す波のように繰り返す…


 
 彼女はまだ6歳。
 幼子には分からなかったが、一家離散の憂き目にあい両親は泣く泣く9人の娘を手放すことに。
 上の大きな娘たちは、なんとか自分を食べさせていけるだけの職についたり、または持参金のない娘を受け入れてくれる家へ、ごとごと馬車に乗りお嫁入り。
 働けるほど大きくない娘たちは、それぞれ親戚の家に里子に出されることに。
 最後に残ったのは一番小さな彼女。幼すぎて家の手伝いをさせることも出来ない彼女は、引き取り手のないまま3番目の姉さんに連れられ、プリシスを離れ遙か遠くにある親戚の家に向かうことに。

 迷子の猫、迷子の猫どこにいく?
 遠くにやられてしまうのよ 父さん母さん姉さんたちとさようなら 遠くにやられてしまうのよ


 はじまりは、親戚の家まではまた遠いオランの街。
 幸運神のお祭りで、街は色めきだち溢れんばかりの人、人、人。
 3番目の姉さんは妹の手を強く握る。離れちゃダメよ、こんな所で離れたら一生逢えなくなってしまうのよ。
 けれど人の波に押され、離れてしまった白い手と小さな手。小さな手はつないでくれる手を探して、石畳の迷路を歩き回る。
 伸ばした手を掴んだのは知らないおじいさん。横にいるのは茶色くて大きな犬。彼女をを見つめ、小首を傾げる。

 こりゃまた、随分かわった毛色の子猫だ 髪は暁や夕焼け空 瞳は晴れた空の色
 これはきっと、独りぼっちの老人に幸運神よりの賜り物


 それからはずっと旅の空。老人は旅をしながら歌い続ける吟遊詩人。
 北から南へ、歌をうたってどこまでも。
 南から北へ、リュートを弾いていつまでも。
 大きな犬と赤毛の子供が旅の共。
 老人の隣で見ているだけだった彼女もいつの間にか、音楽に合わせ踊ったり歌ったり。

 彼女はまだ10歳。
 拙いけれどリュートを抱えいくつかの曲を弾く。まだ客は足を止めない、側で静聴してくれるのは大きな犬だけ。

 彼女は14歳。
 北の街の寒い冬。おじさんは体調を崩し、少しの時間でずっと年を取り咳ばかり。
 ある朝、おじいさんは冷たくなって二度と目を覚まさない。氷のように冷たい体。魂はすでにヴェーナの元へ。
 小さな手では土を掘ることも叶わない。
 おじいさんが去ってから7日目の朝、大きな犬も静かに目を閉じ、老人の後を追った。最後まで忠実な犬だった。
 そして、彼女は一人ぼっち。

 人生は長く短く儚くて けれど詩には果てがない
 今日も歌うは 素敵な歌 悲しい歌 滑稽な歌 愛の歌
 儚い命が終わるまで 歌え 金糸雀 鶯 時鳥


 それからもずっと旅の空。
 おじいさんが残してくれたリュートと歌で僅かな路銀を稼ぎながら。
 西へ東へ、歌をうたってどこまでも。
 東へ西へ、リュートを弾いていつまでも。
 歌と人生は寄せては返す波のようなもの、繰り返し、繰り返し。何度も、何度も。
 何を残して、何を運んでくるのかもわからない。

 彼女は15歳。
 たどり着いたのは出会いの街オラン。

 大きな街 綺麗な街 古い街 何がいっぱい詰まってる?

  
 出会いは絡み合う糸
 笑って、泣いて、歌うように、踊るように
 緩やかに、よせては返す波のように繰り返す、繰り返す…




  


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