生きるか死ぬかのTurnin’ Point ( 2001/07/06 )
MENUHOME
作者
登場キャラクター
ルイン、ピルカ、サムソン、メリープ、シムズ、ユーリ



遅い。俺たち5人――サムソン、ユーリ、シムズ、メリープ、そして俺(ルイン)――は、偵察に向かったピルカを待っていた。
だが、一向に帰ってくる気配がない。心配したユーリが、様子を見てくることになった。
「よし、じゃあ少し遅れて俺も見てくるぞ」
俺も愛用のグレートソードを手に取る。ずっしりとした重量感。柄に巻かれた布越しに伝わってくる触感。長年使ってきた俺の相棒、ベリィだ。(この剣の名前については、エピソード「騎士になれないYoung Person」を参照)
「分かったよ。じゃ、俺は先に行くぜ」
ユーリが腰の剣を確かめてから、歩き出す。直ぐに見えなくなってしまう。
俺も数分してから、見に行く準備を済ませる。
「サムソン。メリープを頼んだぞ」
メリープは、肺を悪くしているらしく、先の長旅で疲労しきったのか死んだように眠っている。本人は、「これくらい大丈夫ですよぉ・・・」とか言って笑っていたが、疲労が取れるまでは無理をしないようにとピルカに釘をさされて、眠っているのだった。
「ああ、まかせておけ。メリープさんには狼一匹たりとも近づけさせねーぜ!」
意気込むサムソンに安心して、俺は立ち上がる。
「シムズ、あんたは俺たちの帰りが遅すぎたら、救援に来てくれ」
「まかせておいてください」
夜風に黒髪をなびかせ、シムズがこくりと頷く。彼は魔術師なので、頼りになるだろう。
俺はプレートメイルをがちゃがちゃ音を鳴らしながら、夜道に消えていく。
しかし・・・まったくうるさい。俺の格好は、巨大なグレートソードにプレートメイル。これだけでも十分うるさいのに、腰には無骨なフレイル。さらにはダガー。ついでに腕にはガントレット、脚にはグリープという完全武装。歩くたびにがちゃがちゃと無用心なまでに音が鳴る。ピルカには、「たかがコボルト相手に、なによその重武装は。オーガーとでもやりあう気なの?」と毒舌を吐かれたものだ。
そして、この音に気付いたのか、一匹の狼が飛び出してきた。口からはよだれが垂れ、心なしか頬が痩せこけている。たぶん、腹ペコなのだろう。
「ほう・・・これが噂に聞く一匹狼ってやつか・・・」
俺はくだらないことに感心して、剣を下ろして、腰からフレイルを取り出し振り上げる。
振り下ろすと、足元にあった人の顔程度の大きさの岩が、音を立てて砕け散った。
「きゃいん!」
まるで犬のような悲鳴をあげて、狼が逃げていく。無駄な殺生はいかんからな。
しばらく歩くと、木はまばらになり、岩肌が多くなってくる。そろそろピルカたちに出会ってもいいはずなんだが。
「おーーーーーい、ピルカーーー?」
俺は無用心にも大声を張り上げていた。

そのころピルカは。
「うー、ヤバイなー。早く誰か来てよー・・・」
ザルム鉱山入り口付近の茂みに隠れていた。数十メートル先には、コボルトが2匹うろついている。
「おい、ピルカ」
ガサガサと茂みをかきわけ、顔を出したのはユーリだった。
「あ、よかったー・・・。他の皆は?」
ピルカが安堵の息を吐き、あたりを見てみる。一見したところ、ユーリしか居ない。
「ああ、この後からルインが来ている。他の3人は待機している。シムズは、こちらの帰りが遅ければ救援に来るはずだが・・・」
と、そこまでユーリが説明した次の瞬間。
「おーーーーーーい!!」
大きなルインの声。ふたりは茂みの中でびくっと震え、顔を見合わせる。
茂みの向こうにはコボルト2匹。その手前には、大きな欠伸をかましてるルインがいた。
『あのバカ・・・』
見事にピルカとユーリの呟きがハモった。
その声が聞こえたわけでもないが、ルインは「やば・・・」っと呟き、近くの茂みにダイブした。ダイブして、ピルカたちに気付いたらしく、ほふく前進で近づいてきた。

「・・・悪い」
俺は苦笑を浮かべ、ピルカとユーリに謝る。
「悪いじゃないっ!」
ピルカの小声のツッコミとチョップが俺の脳天に炸裂する。大ボケをかましているが、事態は悪くなる一方だった。
俺がダイブし、ほふく前進した音に気付いたコボルトが、こちらに近づいてくる。
「俺が先陣を切るか?」
「ううん、わたしが牽制するわ。ルインは矢を合図に出て」
おれは指でOKをして、剣を下段に構えて待機する。ユーリもいつでも出れる状態だ。
コボルトが近づき、ピルカが狙いを定める。俺とユーリが剣を構える。
数瞬の間。そして、矢が放たれる。狙いは寸分違わずコボルトの肩に命中。
「よし、行ってルインっ!」
けたたましい絶叫を上げるコボルトを目標に、俺は剣を構えて飛び出した。
「うっりゃああああああ!唸れ、ベリィっ!!」
絶妙な位置に立っていたコボルトの下腹部を目掛けて、剣を横一文字にフルスイングする。
「○×××□△!!!」
ゴブリン語で断末魔の悲鳴をあげ、コボルトの上半身が下半身を離れて宙を舞う。吹き上がる血液が俺の顔を濡らし、銀の刀身が血糊を弾く。
「おい、ルイン!バカ!大声あげて・・・」
ユーリが抗議の声をあげるが、俺は体制を立て直しつつ、
「バレた以上かんけーないっ!」
と、鉱山の入り口を指差す。そこからは、矢を受けた時の悲鳴で集まってきたコボルトが3匹ほど見えている。
「ええい、俺も出る!」
ユーリが腰から、巨大な波打つ刃を持った剣、フランベルジュを抜き放つ。珍しい武器を持っているものだと感心する。この刃は傷口を広げるのに適した形だ、と傭兵の両親から教わったことがある・・・って、んなこと思い出している場合じゃない。
気がつくと、コボルトが直ぐ目の前でダガーらしき小剣を振り上げていた。
「おっと、危ねー」
俺は遅いその動作に、余裕のよっちゃんでガントレットをはめた腕で、顔をガードする。
が、それは罠だった。コボルトの腕が、瞬時に下へ向けられ、その剣が俺のわき腹を狙って突き出された。
俺のプレートメイルは、俺が不快だと感じた部分を外してある。まず、喉元。次いで上腕から下のすべての腕パーツ、太ももから下、そしてわき腹部分のプレートがないわけだ。
「こいつ、一端にフェイントか・・・っ!・・うぐ」
俺は身体をよじり、なんとかプレートの部分でその剣を弾く。
「お返しだっ!」
俺は接近しすぎたコボルトの顔面を、剣の柄で強かに殴ってやった。クリーンヒットしたその打撃で、声も無く沈むコボルト。
「あたし、みんなを呼んでくる!
「応、頼むぞ!」
ピルカが駆け出すのを確認して、俺は剣を構えなおす。すぐそこに、コボルトと切り結んでいるユーリの姿が。
コボルトの棍棒を切り刻み、胴体に一閃。
「おりゃああ!」
気合一発、ユーリの放った斬撃でコボルトが絶命。
しかし、後ろががら空きになったユーリに、別のコボルトが迫った。
「危ないユーリ!偉大なるマイリー神よ、汝が奇跡を持て邪悪なる者を撃て!フォースッ!」
「・・・!ていやー!」
俺の声に気付き、振り返りざまに剣を一閃。後ろから迫っていたコボルトは、ユーリの剣と俺の放った《フォース》を同時食らって倒れる。
「さんきゅ、ルイン!」
「ああ!」
グッと指でサインする。あらかた数は減ってきている。それでも、後から後から沸いてくるコボルトたち。
「おーい!みなさん!」
その時、手に杖を持った一人の人影。もちろん、遅くなったら救援に来てくれと頼んだシムズの姿だった。
だが、敵の方にもついにボスクラスに見て取れるコボルトが現れた。片耳のコボルトだ。
奴はゴブリン語で部下(?)に何事かを命令する。
「おいおい、さしずめホブコボルトってか?」
ユーリが苦笑混じりに呟く。俺は剣を突き出す形で構え、ユーリに振り向く。
「どうする、奴は俺が相手をしてこようか?」
いつでも飛び出せる。
「いや、まて」
あっさり断られてしまう。ちょっと悲しいかもしれない。
見ると、ホブコボルト(仮)は仲間を鉱山内に呼び戻しているようだった。
「シムズ、あの逃げてるコボルトに魔法を!」
「承知しました!」
シムズは杖を翳し、何事か呟き始める。コレが魔術師が唱える魔法語か。やっぱり、神聖語とは違った響きがある。
「光の輝きをもて、闇を打ち砕かん。マナよ放て大いなる霹靂を!」
最後に締めくくって、杖を入り口付近に逃げ延びていたコボルトに向ける。刹那、強烈な光を纏った魔力の矢が一直線に飛んでいく。
どごーーーーん!!!
魔法の矢は、洞窟の入り口を半分以上巻き込んで、コボルトに炸裂。ガラガラと落盤が入り口をふさぐ。
「おーい!・・・って、なんか増えてるわね・・・」
その時、ピルカが戻ってきた。まわりに累々と広がるコボルトの死体、今だ活動しているコボルト2体を見て呟く。
「ま、増えた物は仕方がない!」
俺は、ちょうど向かってきたコボルトの腹にグリープをつけた足でキックを入れる。口から何かを吐いてもんどりうつコボルトに、止めをさそうとするがあえなく逃げられた。
「・・・はっ!シムズ危ない!」
ピルカが声を張り上げる。俺とユーリが振り返ると、シムズの後ろには棍棒を振り上げようとしているコボルトが。
「えいっ!」
素早く反応した俺とユーリが剣を構えて走り出す。だが、遠く離れていたので、まったく間に合わない。
「・・うぅ!」
強かに頭部を殴られたシムズは、その場に昏倒してしまう。どうやら当たり所が悪かったらしい。
「えいっ!」
少し遅れて、ピルカがダークを投げる。次いで、追いついたユーリがコボルトを切りつける。ダークが頭部に、ユーリの剣で背中を傷つけられたコボルトが、どさっと倒れる。
「お、おいシムズ!」
倒れたシムズを回収すると、俺は手を掲げて祈りを捧げる。
「偉大なるマイリー神よ。このものが戦にて負いし傷を癒したまえ。《癒し》!」
神の奇跡で、シムズのキズがふさがっていく。
これで鉱山の外に出てきたすべてのコボルトは退治したはず。ユーリが剣を収め、ピルカもナイフを仕舞ってこちらに向かってくる。
「シムズ、大丈夫なの?」
ピルカがシムズを覗き込む。ユーリも其れに習って、シムズの顔色を見ている。
「ああ。傷はふさがったし、血も止まった。後は本人しだいだな・・・」
「いやぁ・・・すみませんでした」
・・・言った途端に復活した。
その後、破壊された入り口を見て呆然。が、鉱物の精錬所があることが判明。翌日はそこから鉱山に侵入することにした。
が、またもや襲撃。次はムカデだった。ピルカが話をしてみるが、空腹のために逆にピルカが襲われた。だが、俺のフレイルがその頭を砕き、ユーリの剣がムカデを真っ二つにする。
「はは・・・・やらなきゃ、私が食べられてたんだよね・・・」
ピルカの悲痛な笑い。俺は無意識にムカデの死に聖印を切っていた。
生きるか死ぬか・・・か。このムカデもおとなしく逃げれば死なずに済んだ物を。世の中、うまくいかないものだと痛感した。

鉱山突入1日目。
今日はいよいよ鉱山に突入する日だ。
何はともあれ、今は鉱山の中。ピルカの発案で、2人3パーティーに分かれての行動だ。俺はシムズと行動を取ることにした。あと、ピルカから地図を書き写したのも貰っておいた。
「いや、悪いなシムズ、魔法使わせて」
俺は松明の温存のため、シムズにライトの魔法を頼んだ。
「いえいえ、気にしないでください」
持ち前の人のいい笑みを浮かべ、ライトの魔法の灯りを灯す。ぴか〜っと坑道内を照らし出す魔法の灯り。
「やっぱ魔法って便利なんだなー」
俺は灯りを見上げて、呟く。
「はは・・・そうですか?便利でも、魔術師に向けられる目はまだ痛いものですよ」
と、他愛もない会話をしながら歩いていると、遠くの方で落盤のような音が聞こえる。
結構遠くから聞こえるので、余裕で俺は先を急いでいた。
「あ、待ってくださいよ」
シムズも歩くスピードを速めようとしたその時。
ごごごごごごご!!!!
「・・・は?」
俺のすぐ真上から、嫌な音。次の瞬間には、天井が崩れてきた。
「ぬああああああ!!!!???」
「ルインさん!」
ごろごろと転がって、シムズが居る方とは反対側へと回避する。落ちてきた岩の向こうからはシムズの声。すでに向こう側へ戻るには、岩の山を破壊するか回り込んでみるかしかない。
「うーん・・・」
俺が思考していると、もっと酷い事態になった。
がら・・・・がらがらがら!!
「・・・ウソ」
足元が崩れ落ちた。勿論、引力に逆らえるわけでもなく、俺の身体は漆黒の闇へまっ逆さま。
「のわああああああああああ!!!!」
内臓が浮き上がるような嫌な感触。そして、背中に激痛と一瞬の呼吸困難。落ちた。地面に激突。
俺はいたむ身体を起こし、身体の異常を調べる。骨は・・・無事だ。だが、打ち身や切り傷擦り傷は酷いし、骨折までは行かないがヒビくらいは入っただろう。
ヒビ程度なら、《癒し》をかければ大丈夫だろうと思い、神聖語で祈りを捧げる。
淡い光が俺を包み、痛みが少し和らぐ。後2,3回の《癒し》で完治とまでは言わないが、何とか支障なく動けるかな。
再び神聖語を呟きかけたが、やはり現実はそう甘くない。
「・・・本気かよ」
俺の周りには、いつのまにかコボルトが群れていた。奥の方で卑劣な笑みを浮かべているのは、片耳のホブコボルト(仮)だった。奴は部下5匹に命令を出すと、笑い声を上げたまま坑道の奥へと引き返していった。
「・・・くそっ・・・。やられてたまるかよ!」
俺は傍に落ちていた剣を杖代わりに立ち上がり、腰から重量感のあるフレイルを取り出した。ここでは狭すぎてグレートソードなんて振り回せたものではない。
「さぁ・・・かかって来い!」
前身を走る激痛を押し込め、力いっぱい叫ぶ。手に思い思いの得物を持ったコボルトがいっせいに飛び掛ってくる。
「せりゃっ!」
一匹目の棍棒をフレイルの柄で受け、2匹目のダガーを篭手で受ける。残りの攻撃はすべて鎧で貰う。棍棒の衝撃が、鎧を越えて満身創痍の身体に激痛を与える。
「ええい!うざったい!」
まとわりつく一匹の脳天にフレイルを叩きつける。しかし、傷の痛みで鈍ったその攻撃は、頭をかすって肩を砕いたに過ぎなかった。そのコボルトは、武器を失ったが牙で噛み付いてくる。
消耗しきった俺が、フレイルを取り落としたのは間もなくのことだった。
俺は肉体攻撃でコボルトを振り切り、壁際に逃れる。その時、うかつにもコボルトのダガーが俺の太ももを深く抉った。
「ぐあ・・・・」
崩れ落ち、壁にもたれかかる。
「万事休すか・・・」
昨日は死ぬか生きるか、なんていってたが、その運命が今は俺に迫っている。
ふと、これまで生きてきたことが頭に巡ってきた。親父に剣技を教わったこと。母から小剣の使い方を仕込まれたこと。騎士試験に落ちたこと。神の声が聞こえたこと。神殿で打撃武器の特訓をしたこと・・・。
「・・・ん」
「ああ・・・そういえば、ベリィを無理して作ってもらったんだよなー・・・」
「・・・さん」
「そうだったな。あの名匠はまだ鍛冶師してるのかなー・・・」
「・・・インさん」
俺は聞こえてくる声も聞かず、走馬灯を眺めていた(謎)。
「ルインさん!」
「おわっ!!??」
気がつくと、俺の周りのコボルトはいなくなっていて、代わりに俺の顔を覗き込む2人の人影が。
バスタードソードを片手に持ったサムソンと、メリープ。
「大丈夫ですかぁ、ルインさん・・・?」
のほほんとした声で、俺の身体のキズを見つめるメリープ。
「お、お前ら・・・?」
「俺たちのパーティーが坑道内をうろついていたら、穴の中からルインさんの声が聞こえたから、ロープをおろして・・・」
なるほど、穴の上から一本のロープが下がっている。
「そしたらルインさんがコボルトに囲まれてたから、メリープさんが魔法で動きを止めて、俺が一体ずつやっつけた、ってこと」
よくよく見れば、コボルトの死体の足には岩がぐるぐると巻きついて掴んでいるようだった。確か、ホールドとかいう精霊魔法だったかな。
「ともかく、ありがとう2人とも・・・。うぐ・・・」
俺は立ち上がろうにも、足の傷が深くて立ち上がれない。
「だ、だいじょうーぶですかぁ、ルインさん?」
先ほどと、ほぼ同じようなセリフで俺を抱えるメリープ。横からサムソンも肩を貸してくれて、なんとか立ち上がる。
「そのまま支えててくれ。・・・・・・《癒し》!」
俺は再度《癒し》の魔法をかけて、傷をふさぐ。なんとか立ち上がれるようになってから、メリープとサムソンを連れて、ピルカたちとの合流地点へ急ぐのだった。
シムズ、一人で大丈夫かな・・・。

鉱山突入2日目。

一人にならないように気をつけたかったが、結局またはぐれてしまった。
サムソンとメリープがいつのまにか居ない。困った。俺の身体はまだ完治していない。
ろくに休憩もしてないから、精神力もそろそろ乏しくなってきた。
そして、俺が休んでいるとついに死神の鎌が迫ってきたようだ。向こうから、コボルトが歩いてきた。
身を潜める。その時、後ろから不意に声。もちろん後ろまで警戒していなかった俺は、思いっきりおどろいて鎧がけたたましい音を上げる。
「きゃ!」
「こぼ!!?」
声をあげたのは、後ろから声をかけたメリープと、巡回していたコボルト。
すでに、戦いは避けられない。俺はメリープに踊りかかってきたコボルト(しかも2匹に増えていた)を応戦する。1匹は篭手で攻撃を防げたが、もう1匹がメリープに向かって小剣を振り下ろす。
「きゃあああ!」
メリープの小剣が、コボルトの小剣を受けて手からすっぽ抜ける。だが、メリープは剣を拾いに行こうともせず、何事かを呟く。
「・・・炎の精霊、私の声が聞こえる?あなたたちの炎の力、私に貸して!」
メリープが置いておいた松明が燃え盛り、中から精霊の力を得た《炎の矢》がコボルト目掛けて飛んでいく。しかも2発。コボルトの肩が燃え、さらに顔面に命中して重傷を負わせる。
俺のほうは、明らかに怪我のため怯んでいると思ったコボルトが、何度も棍棒でボカボカ殴ってくる。それらをガントレットで何とか防ぎ、隙を待つ。
そして、一瞬の隙、俺は攻撃を弾き上げ、鋭く殴りを入れてやる。
「俺を・・・馬鹿にするんじゃねー!!」
俺の殴りは、顔面にヒットし、ふらつくコボルト。そして、満身創痍の仲間の姿を見て、とっとと逃げていく。メリープに向かっていくコボルトに向けて投げたダガーは、かすりもしないで壁に当たる。
「メリープっ!」
俺は落としたフレイルを拾って、振り上げて殴りかかった。その攻撃はクリーンヒット。コボルトの脳天を叩き割り、即死させた。
「だぁー!」
俺はコボルトが絶命したのを確認し、その場に倒れこむ。鎧が大きな音を立てるが、もう近くにはいないだろう。
「・・・・大丈夫、ですかぁ?」
「なんとかな・・・。そっちは無事か、メリープ?」
俺は体中から激痛がするが、なんとか起き上がる。確かメリープは、コボルトの爪で腕を切られたはずだ。案の定、左腕にサックリと裂傷が走っている。
俺は手短に祈りを捧げ、マイリー神の奇跡を請う。淡い光に包まれたメリープの裂傷はすぐにふさがっていく。
「あ、ありがとぉ・・・・・・。ルインさん・・・わたしにもう少し力があれば癒しができたのに・・・」
泣きそうな声で俺の傷を見つめてくる。
「・・・ありがとな。今は好意だけ貰っておく・・・うぐ」
すでに俺の身体は限界か?穴に落ちた時の傷が疼きだした。俺はたまらずうめきだした。
「と、とりあえず少し休んで」
とまどいながら俺を座らせるメリープ。素直に従って、俺はその場に座り込む。
「すまないが、俺の剣を持ってきてくれないか?」
俺がグレソを指さすと、こくりと頷き、重そうにずるずると剣を引きずってきてくれる。
(まったく、俺ともあろう者がコボルト程度でこのザマか・・・)
自虐的に笑い、メリープから剣を受けとる。
身体も精神力も限界が近い。少し休めば、また戦えるだろう。俺は、ピルカが近づいてきているのにも気付かず、深い眠りに落ちた。
数分後、ピルカの悪戯で俺は目を覚ましてしまったが・・・。
そのピルカも、今は仲間を探しに行ってもう居ない。俺とメリープ2人きりだ。
「また2人か・・・次に襲撃されたら、辛いな・・・」
俺は壁によりかかって座り込む。
「あ・・・ごめんなさい・・・その怪我、半分以上はわたしのせいなのに・・・」
またか・・・。メリープは自分を責めすぎているような気がするのは、俺だけだろうか?
俺はメリープの言葉を遮って、その頭に手を置く。
「もう気にするな。俺のほうが丈夫に出来てるんだし。それ以上言うと、このままぐりぐりだぞ」
笑いながら、髪をわしゃわしゃとかき回してやる。
まったく、信じられんな。あの俺が、女の子にこんなことしてるなんて。
「う、うん、もう言わないよぉ・・・だからその手を離してよぉ・・・」
困った顔で、のんぽりと俺の手を振り解こうとする。・・・ちょっと微笑ましい物を感じてしまったのは気のせいか・・・?
「それでよし」
俺は手を離してやり、代わりにヘアブラシを渡す。それを使って丁寧に髪を梳いて、いつもの髪飾りをつけている。
思い出の品なのだろうか・・・。俺は詳しく聞かないまま、自分の髪を梳き始める。腰まで伸びた金髪が、煤と土ぼこりで薄汚れてきていた。帰ったら髪、洗わないとな。
その後、疲労困憊のシムズが辿り着き、3人になったところで俺たちは休息することにした。
現状で、一番見張りに適している俺が見張ることにした。といっても、怪我が完治したわけでもないが、疲労している人や女の子に危険な真似をさせるわけにはいかない。俺は剣を構えて焚き火の前に座る。
そして短くマイリーに祈る。我等に汝の加護を与えんことを、と。

鉱山突入4日目

ぎんっ、ざんっ!!
俺はコボルトと切り結んでいた。メリープの《炎の矢》の援護もあって、2匹目のコボルトを切り倒す。一匹目のコボルトも、俺に心臓を貫かれて絶命している。
だが、仲間を呼んで数で押しかけるコボルトたち。醜悪な存在を討つという使命。
俺の顔にはコボルトの返り血。その形相は、鬼神の如く凶悪な顔になっているだろうと、自分でもわかるくらいだ。神官戦士たるものがこんな顔で魔物を切り捨てているなんて、本人も俄かに信じられない。
俺が剣の血糊を払ったとき、奴は姿をあらわした。片耳のコボルト、後に分かった話だが、コボルトチーフという上位種のようだ。
奴は長剣を構え、俺を牽制してくる。奴の仲間は、俺たちを逃がさないように囲んでくる。
「鉱山に蔓延る悪の根源。その御魂を頂戴仕る!」
俺は奴を睨みつけ、顔の返り血を拭う。そして、双方が飛び出す。
激しい斬撃の嵐。俺の剣が奴に弾かれ、奴の剣を俺が受け流す。
相当の手馴れのようだ。
「・・・忌々しいニンゲンが!」
「何っ!?人語を喋った!?」
そう、片耳の奴は人語を話した。コボルトにしては恐ろしく高い知性を持ち合わせているようだ。
そして繰り広げられる、人語を喋るコボルトとの激しい言い争い。
「コチラにもそれなりのリユウがあるのでな」
そういって片耳が取り出したのは、紛れも無いピルカの髪飾りだった。
次の瞬間、俺たちは驚愕した。
「そ、それは・・・っ!」
「・・・ピルカに、ピルカになにをしたのー!?」
「サーバントよ・・・そ、それは!」
俺の脳裏に不吉な予感がよぎり、それを想像して怒りで思わず片耳を切り捨てそうになったが、思いとどまる。
シムズも召喚したサーバントに命令を与えることもせず絶句している。
メリープにあたっては混乱して騒ぎ立てている。
「・・・思わぬヒロイモノをしてしまってな」
卑しく笑うと、俺たちを睨みつける。
「少しオトナシクしてもらうぞ。・・・ニンゲンは信用できぬ、特にオマエのようなのはな・・・」
コボルトの死体と俺を交互に見やって言う。確かに、道理が通っているので反論は出来ない。しかし、悪を討つのが俺の使命だ。しかし、理由があるとは一体なんだ。
この戦いは悪を討つものではないのか?これが意味の無い殺し合いなのならば、俺は神に見放されてしまうのか。
片方が生き残り、そしてもう片方は死滅する。
それしか道はないのだろうか。
それとも、双方が生き残り和解する道はあるのだろうか。
すべての選択の分岐点は、これからの俺たちの行動しだいってことか・・・。
生きるか死ぬか・・・か。戦いとは非情なものだな、我が仕えし戦神マイリーよ。
「キサマたちに教えてやる。忌々しいニンゲンの事をな・・・」
マイリーよ。我に事の真相と進むべき道を啓示したまえ・・・。

タイトル未定EP(コボルト退治関係ですが)に続く




  


(C) 2004 グループSNE. All Rights Reserved.
(C) 2004 きままに亭運営委員会. All Rights Reserved.