|
俺たちは扉を蹴破り、薄暗い部屋の中で椅子に座った猫背の男と対立していた。メリープ、シムズの顔にも緊張の色が見えている。
俺は幾分慣れているものの、人とやりあうのは初めてだ。まったく緊張していないといったらウソになる。 しかし・・・コボルトを退治しに来て、いつのまにかコボルトと一緒に、裏で悪事を働いていた人間を討つことになるとは。 だが、それも今だけだ。コボルトたちに、妖魔に味方してやるのも今だけだ。 苦しめられているコボルトを助ける、神官として矛盾したような、今一度だけの誓い。 「他を犠牲にして生きていく。人間はそういう生き物なのだ、愚かしい愚かしい。そう思わんかね?」 椅子に座った男、ランズワードはにぃっと笑う。刹那、その顔が老人の物へと変化した。 そして、脇に控えていた骨の従者が前に進み出る。 「気をつけろ!あれは際限なく出てくるぞ!・・・それと、炎だ。あれに多くの同胞が焼かれた・・・」 オルガの声。なるほど、確かにあんなやつらが限りなく出てこられたら、大変だ。それに炎・・・噂に聞く、魔術師が使う破壊の炎とやらか? 先ほどから話し合いをしてみているが、どうやら荒事は避けられそうにも無いか。 「容赦は・・・しないぞ」 俺は背中に担いだ大剣を地に下ろし、オルガから預かった長剣を構える。よほどのことがない限り、大剣を人切りには使いたくないという俺のプライドを聞き届けて、貸してくれた長剣だ。 「カクゴしろ、ランズワード!」 細剣を片手に切り込むオルガ。が、骨の従者に邪魔をされ、それを応戦している。 「マイリーよ・・・我が行いを見届けよ。・・・・我等に希望を」 短く祈りを捧げてから長剣を構え、俺もそれに続く。 メリープは、十分に間を取っていつでも呪文を仕えるように待機している。 シムズは早くも、杖を構えて難解な言語を呟きながら印を結んでいる。 「万物の根源たるマナに活力を与えられし原始より生まれしものよ。仮初の生命を受け、我が命に従え!《石の従者》!」 シムズのその言葉に、そばにあった石が人の形をとって、シムズに従う。それに先頭命令を出したシムズは改めて距離をとって待機している。 「うりゃああああ!!!!」 俺の長剣が、骨の従者の持った新月刀とぶつかり合い、火花を散らす。・・・こいつ、凄い力だ・・・。俺は骨の従者の新月刀を弾きあげて胴体に一閃見舞うが、まったく動じない。流石は魔法生物というわけか。 「火蜥蜴さん、力を貸して!」 俺と竜牙兵に間合いが出来た隙を見て、メリープが《炎の矢》を放つ。その足元には、いつのまにか松明が置いてある。 骨の従者の顔面に炎が炸裂し、よろめく。 「ありがと、メリープっ!」 よろけた胸に、長剣の一閃。しかし、やっぱりこれといったダメージを与えてないようだ。 「ナニをしている!」 「へ、お前だって梃子摺ってるじゃねーか!」 オルガも細剣で応戦しているが、やはり骨の従者の数は減っていない。 ただ、シムズのサーバントに殴られている骨の従者は、だんだんと攻撃のスピードが落ちてきている。 「ルインさん、骨の従者に刃物はあまり効果は出しませんよ!」 シムズの指摘。 「そうだったのか!もっと早く言ってくれ!」 俺は振り下ろされた攻撃を篭手で受け、剣を鞘に戻してフレイルを抜く。・・・腕が痛い。かなりのバカ力だと痛感した。 「神の鉄槌を!」 気合の声を上げ、フレイルを振り下ろす。 ガギィンッ! 耳を劈く激しい音をたて、フレイルは骨の従者の構えた盾ごと、その腕を粉砕した。 我ながら感心するほどの痛恨の一撃だった。 再度、脳天にフレイルを叩き込んで骨の従者を粉砕するのと、サーバントがもうひとつの骨の従者と総崩れしたのは同時だった。 「オルガ、そいつはまかせてお前は奴を叩け!」 オルガの応戦している骨の従者を横からフレイルで殴ってから、俺は促す。 しばらく骨の従者と俺を見比べてから、 「スマナイ!」 オルガはランズワードに向かって駆け出す。 その後姿を見送ってから、俺の背中に鈍い痛みが走る。 「ぐ・・・!」 骨の従者の新月刀が、俺の背中のプレートを叩いていた。傷はないが、強力な衝撃が全身を駆け巡る。 振り向きざまの一撃は、難なく盾で防がれてしまう。 「くそ・・・!喰らえッ!!」 フレイルを叩きつける。それを剣で受ける骨の従者。 分が悪い。ギリギリと押されていく。 「死ね、ランズワード!」 その頃、オルガはランズワードが作った《石の従者》を破壊して、ランズワードに突っ込んでいくところだった。 「やれやれ・・・力バカですねぇ、くくく。万物の根源たるマナよ。紅蓮に燃え盛る破壊の力となれ。《火炎の球》!!」 ランズワードが生み出した、紅き光を放つ球体は、オルガの目の前で炸裂した。 「グオオオオオオ!!!!」 オルガの絶叫、吹き上がる炎。 煙が晴れると、倒れたオルガの姿が。 「くそ・・・っ!メリープ、シムズ!俺に当たっても構わないから、魔法でこいつを吹っ飛ばせ!!」 俺は向こうで、惨状を見て愕然としていた2人に叫んでから、自分も魔法の詠唱に入る。 「で、でも・・・」 メリープがうろたえる。 「ルインさんがそう言っているんです。・・・大丈夫、彼はこれくらいでは死にはしませんよ」 先に詠唱をはじめたのはシムズ。少しの間を空けて、メリープも詠唱に入った。 「偉大なるマイリー神よ、汝が従者たる我に、悪しき者を討つ大いなる奇跡を与えたまえ!《気弾》!!」 「万物の根源たるマナよ光の矢となりて疾れ!」 ほぼ同時に放たれる、俺の《気弾》とシムズの《光の矢》。二つの魔法に直撃された骨の従者がふらつく。 「火蜥蜴さん、もう一度力を貸して!《炎の矢》!」 次いでメリープの魔法が炸裂。よし、止めだ。 「滅せよ!自然のならざる者よ!!」 フレイルの一撃、それで骨の従者の頭を粉砕させる。 俺は竜牙塀が崩れ落ちるのを確認し、オルガに駆け寄り、祈りを捧げる。 「偉大なるマイリーよ。汝が奇跡を持て、かのものが負いし傷を癒したまえ。《癒し》!」 淡い光がオルガを包み、なんとか身を起こす。 「次は俺だ!」 俺は再びフレイルを戻し、長剣を構えて走り出す。 メリープたちが俺に追いつく。 「2人はオルガの介抱を!」 俺はそれだけを叫び、剣を振り上げる。 距離が詰まっていく。 「ふぅ・・・愚かな奴ばかりだねぇ、くくくく。万物の根源たるマナよ。紅蓮に燃え盛る破壊の力となれ。《火炎の球》!!」 何っ!俺は咄嗟に両腕で顔を覆う。 そして眼前ではじける破壊のエネルギー。俺は直撃を受け、吹き飛ばされた。 「ぐああああっ!!」 地面に叩きつけられる。バウンドし、途中でフレイルが腰から落ちる。数回転がって、服を焦がす炎を消す。 ガントレットのベルトが焼け切れ、右腕から外れ落ちる。グリープのベルトも炭化して、脚からガチャリと落ちる。 「ぐ・・・あ・・・」 立ち上がろうとして、また地に伏せる。 このままでは、止めを刺されてしまう・・・。 が、駆け寄って、俺に肩を貸してくれる影があった。 「ルインさん、大丈夫ですか!?」 泣きそうなメリープの顔。 「なんとか、対魔の魔法が間に合いましたか・・・」 疲労を伴ったシムズの顔。 俺は二人の肩を借りて、立ち上がる。 「馬鹿な・・・直撃のはずだ・・・」 驚愕のランズワードの顔。確かに、シムズの援護があったとはいえ、身体は悲鳴を上げている。しかし、俺たちはこんなところで倒れている場合じゃない。 「わたしたちは負けないよ。オルガさんたちに、希望を教えるんだもん・・・」 銀色の光沢を放つショートソードを構えるメリープ。傍らには、彼女が呼び出したのだろう光の精霊が居る。 「つまらぬ真実を見つけるだけにコボルトを使役するお前を、同輩のわたしは許さない」 杖の紅い発動体を煌かせキッと睨みつけるシムズ。彼の傍らにも、新たなサーバントが居る。 「ニンゲンのシンカンセンシよ。言ったはずだな、ワレラに「キボウ」を見せてやると。その約束は忘れていないだろうな」 にぃっと笑って、主の形見だという細剣を構えているオルガ。そして、俺に大剣を投げてよこす。 「ふ・・・つまらん拘りは辞めだ。一緒に、希望を見つけよう・・・ベリィ」 俺は銀色に輝く、美麗なグレートソードの鞘の留め金を外した。 鞘が外れ、室内の灯りに照らされる銀色の刀身。 「行くぞ、みんな。マイリーよ、我等の未来に輝く希望を!」 俺とオルガが剣を構え、シムズが杖を翳してサーバントに命を与え、メリープが剣を片手に光の精霊を飛ばし新たな魔法を。 勝負は、これからだ。
つづく(はず)
|