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(*この話は、アイリーンが昔聞いた歌の歌詞を書き留めたものです)
船乗りになった訳?そうだな……。 そういって男は杯を傾ける。 浅黒い肌に灰色の髪の男だった。彼は腰に差した綺麗な装飾が入った刀に振れ、話し出す。
水平ってのは青いだろ、あの境はどこか、考えたことはあるか? 海と空の境には宝が眠っている、俺は昔聞いたことがあるのさ。 昼には蒼く、夕刻には紅に染まるだろ、水平線ってヤツは。 あの同じ色に見える境に、俺は行ってみたかったのさ。
あぁ?で、どうだったかって?せかすんじゃねぇよ、今から話してやるさ。
初めは雑用だったか、船に乗せて貰った。それから20年ほどして船を一つ、任せてもらってな? 何回目かの航海の後、仲間と相談して決めたのさ。 ずっと大陸にそって移動して、西の大陸の端、ベルダインから船を出した。 やっと夢が叶う、絶対にその境を見つけてやるって意気込んでな。 何も無い海の上をただひたすら西に進んだ。 10回太陽と月が沈んだ。 けど水平はずっと遠く、少しも近づかないままだ。 近くに見えるのにな、何日行っても境には着かないのさ。 10日って言ったら往復考えてギリギリの日程だ。 仲間は大丈夫だ、まだ行けるって言ってくれたがな、俺は12日目に決断した。 陸へ戻ろう、とな。
あのまま行っていたら辿り着けたかもしれねぇ、だが着けたという保証もねぇ。
あ?なんだ結局宝は見つからなかったのかって?そうだな…けどそこは重要じゃねぇさ。 分からねぇのか?お前みたいな子供には難しかったかな。
からかうような口調で男は言って、杯を干すと立ち上がる。 ちょっと酔ったみたいだ、こんな話をしちまうなんて、と。
これは月が綺麗なある夜、とある港町の酒場での話。
(*この話は、アイリーンが昔聞いた歌の歌詞を書き留めたものです)
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