ウェディング・クライシス(前編) ( 2001/07/24 )
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作者
HAL
登場キャラクター
シムズ



久しぶりのベットで気持ちよさそうに熟睡するシムズ。
日差しがきつくなっているこの時間だと言うのにいっこうに起きる気配はない。
と、そこにノックの乾いた音が響く。
その音に反射的に反応したシムズは飛び起き、訪問者を招き入れる。

「どうぞ・・・扉は開いてますよ。」
「すみませんね起こしてしまって。」

そういってシムズの部屋を訪ねた訪問者は静かに部屋に入る。

「あ、先生でしたかすみませんこんな格好で」
「いえ、構いませんよ。実はちょっと頼みごとがありましてね、それで訪ねたのです。」
「何ですか、私にできることなら何でも引き受けますよ。」

居候の身であるシムズにとって、家主である人の頼みを断れるわけもなく
ましてや、断る理由もないので軽く二つ返事で引き受ける。
実のところ一仕事終え、何もすることがなくなっていたシムズにとって
家主が持ってきてくれたこの仕事は、よい暇つぶしになると考えていた。

「助かります。実は結婚式に出席してほしいのです。」

一瞬、家主の顔にすまなそうな表情が表れるがシムズはまったく気づかない。

「結婚式?先生の代わりに結婚式へですか?
 ・・・構いませんが結婚式に出席できるような服なんて持ってませんよ。」
「ああ、構いません結婚式で着るものはこちらで用意しましたから・・・。」
「そうですか、それなら問題ないですね。で、その結婚式にはいつ行けばいいのですか?」
「結婚式は明日です。とりあえず今日は後なにもしなくても大丈夫です。」
「そうですか、では私はもう一眠りさせて頂きますよ。」
「ええ、どうぞ。それでは失礼しました。」

一通り話し終えると家主は足早にシムズの部屋を後にする。
そして、部屋を出た家主はシムズの部屋の扉を背に呟く。

「すみません・・・・・・シムズさん。」

そう呟き、立ち去ろうとする家主。しかしその背後から唐突に現れた男が話しかけてる。
その声に振りかえり、男の顔を確かめると複雑な表情を浮かべる家主。

「お手数をおかけしました。」
「・・・・・・あなたでしたか。しかし何の為にこんなことを・・・・」
「はぁ・・・しいていえばささやかなプレゼントですかね。」

怪訝な顔をしながらも、油断無くその男を見据える家主。

「プレゼントですか・・・・・・。」
「ええ、プレゼントです。そうそうプレゼントと言えばこれも渡してください。」

そういうと男は懐から一つの指輪を取り出すとそれを家主に渡す。
それを受け取りまじまじと観察する家主。

「・・・・・これは」

何かに気づき事情を聞こうと男のいる方を見る。
しかしそこには既に誰もいない。

「まったく・・・油断のならない人だ・・・・・・逃げたくなる気持ちも分からないでもないですね。」


翌日、家主は豪華な装飾を施された銀製の鎧とサーベルを持ってシムズの部屋を訪れる。

「あの、これって鎧ですよね。まさかこれを着て結婚式に出ろということですか?」
「ええ、これを着ていってくださいお願いします。」

さらりと答える家主。
困ったふうにしながらも、すでに乗り気のシムズ。

「ですが私は騎士でもなんでもないのにこんなの着ていいんでしょうか?」
「大丈夫です。何ら問題はありません。」
「はぁ・・・・もしかして私は他の誰かの変わりなのですか?」

唐突に核心を突いてきたシムズの質問に
少し驚いた表情をしながらも感心したように家主が答える。
しかしこれは演技。もちろんシムズは気づかない。

「・・・・・・さすがですね。ええ、そうです。ちょっと知人の変わりに行ってもらいたいんですよ。」
「そう・・・ですか・・・・。結婚式に出席するだけなのでしょう?なら問題はないでしょう。」
「・・・・・・ええ、そう言って頂けると助かります。」

何ら不信を抱くこともなく鎧に着替え、
家主が用意した馬車に上機嫌な様子で乗りこむ。
どうやら今まで着たこともなかった豪華な金属鎧を着ていることが嬉しいようだ。
そうこうしていると、近くにいた家主が馬車の窓越しにシムズに一個の指輪を渡す。

「発動体です。持っていてください役に立つかもしれません。」
「高価なものなのではないのですか?いただけませんよ。」
「いいんです。もっていてください。」
「そうですか・・・ではありがたく。ですがこの格好では魔法なんて使えませんがね。
 それに魔法を使 わなければならない事態が結婚式で起こるなんて考えられませんし。」
「・・・そうですね。では、いってらっしゃい・・・。」

馬車を見送る家主。その顔にはやはり申し訳なさそうな表情が浮かんでいる。
しかし、そんなことなど知るはずもなく、ましてや先ほど家主から発動体を譲ってもらった
嬉しさに舞い上がり、鼻歌まで歌う始末。
そんな嬉しそうにしているシムズに声をかける御者。

「ご機嫌ですねぇ。いいことでもありましたか?」
「ええ、まあそうですかね。」
「羨ましいかぎりですね。私もあやかりたいものですよ。」
「しかし、幸運なんてそう続くものではないですからね。」
「違いね・・・おっと、そうですね。そう長くは続かないでしょうよ。」

そう言うと、意味ありげな笑みをこぼす御者。

「いいますね。あははは・・・」

しかし、シムズから見て取ることはできない。そのため呑気に答えるシムズ。
御者もそれを知った上での行動だったのだろう。
そんな様子を伺いながら御者は思っていた。

・・・呑気すぎる。少しは疑えよおまえ・・・・。

しかしシムズを責めてはいけない・・・。
彼、いや普通の人間にはこれから起こることなど知ることはできない・・・・・。

だが今回に限っては違う。
すべては完全なる計画のもとに進んでいるのだから・・・・・・。




  


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