うねうね ( 2001/07/24 )
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作者
すず、華音、かけい
登場キャラクター
ティカ、アイリーン、ロキ、ガイア、ユクナル



アイリーン:世間知らずだけど、一生懸命な精霊使いの女の子。
ガイア:腕の立つ剣士兼魔術師。黒ずくめの美丈夫。
ティカ:水色のリボンが目印の、明るく元気な歌謡い。
ロキ:好奇心旺盛で愉快なグラスランナー。
ユクナル:変わったしゃべり方をする傀儡師の女性。剣士兼魔術師。

<第一章>

 待ち合わせ場所は行きつけの酒場前。
 朝の真新しい風が吹くなか、これから暑くなる気合いを込めた日差しを浴びている旅装の4人。
「もう一人くるという話ですが」
 黒い鎧に黒マントを纏ったガイアが、すぐ横にいるティカに尋ねる。
「うん。昨日ユクナルおねいさんも来てくれるって言ってたよ〜」
 水色のリボンが、彼女の赤い髪の上で蝶のように風に揺れる。
「そうですか・・・」
 ガイアは目の前にいるティカから、横で笑いながら話をしているアイリーン、ロキに目を移す。そして、このメンバーで自分についてこれるのはユクナルくらいかと心の中で呟いた。
 ここから曙光と落日をパダに向かって1日、そこから南へ1日ほど行った村にある周辺の森でうねうねしたものに村人が襲われ、命辛々逃げてきたという。その「うねうね」を探し、駆除するのが今回の仕事。
 しかし、「うねうね」の正体が分からない今、グラスランナーは未知数としても、少女2人は足手まといになりかねない。
 そんなわけで只今、黒い剣士ガイアは耳掻き一杯分の不安を持っている。
「あ、あれユクナルさんじゃないかな?」
 そう言いながらロキが大通りの方に指をさす。そこには黒髪の女性がこちらに向かってくる姿が。その姿見に向かい、アイリーンが華奢な体を精一杯伸ばし大きく手を振った。

 村までの道のりはほとんどを街道を使うため、安全にたどり着くことが出来た。
 5人が村に着くと、直ぐに村長の家に連れて行かれた。家の中では、雪のように白い髪を綺麗に分けた老人が、手招きをしながら唇を動かし聞き取れない声で5人を中へと招き入れた。
 村長は掠れた声で「よう来て下さった。さっそくで悪いが」といいながら、この村で起きたうねうね騒ぎについて話し始めた。話の内容自体は、ティカが仕事を受けた酒場の主人が言っていたことと変わらなかったが、うねうねに襲われた男は今、そのときの傷が元で寝込んでいることを教えられた。
「体調の悪いところ申し訳ないけれど、後でその人からも話を聞いた方がいいですよね?」
 軽く握った手を口に当ててアイリーンが小声で尋ねた。
「そうじゃな。話が出来る状態ならばよいが・・・」
 ユクナルがそれを受ける。
「じゃが、そのうねうねなるものの正体、ただの蛇や蔦という事も考えられよう。それなのに村を上げて態々我らを呼んだのじゃ。その男、よほど信用されておるのじゃな」
 その言葉に、村長は濁った目をしばたたかせ、溜息一つ。
「これは今から話そうと思っておったことじゃが、あの森には前から色々とあってな・・・」
 実は、と村長は話を始めた。年寄りのせいか話が長く、脱線することが多かったが要約すると、あの森で1ヶ月前にも子供がいなくなるという出来事があり、村人で森を捜索したところ捜索隊の一人が消えてしまったという。しかも、おびただしい血痕を残していなくなったのだ。このときは森に住む動物(たとえば狼)にやられたものと思っていたが、今思うとあれも「うねうね」が関係しているのかもしれない。ということだった。
 話し終わり一息ついている村長に、ロキが身を乗り出す。
「ねー☆いなくなった子供はどうなったの?」
 ロキの言葉に、村長は疲れたように首を横に振っただけだった。 

 村長との話し合いが終わり、外へ出ると家の前は大勢の村人達でごった返していた。
 この村では生活と森とが密接している。森の中を流れる川で魚を捕り、水を汲む。薬草を摘み、樹から蜜を採る。その大事な森に入ることが出来ない今の事態は村の存亡にも関わってくる。自分たちを助けてくれる(かもしれない)冒険者を一目見ようと押し掛けてきたのも無理はない。
 が、彼らの中に明らかにこちらを睨んでいる者が数名いた。
 ロキに服を引っ張られアイリーンが身をかがめた。
「どうかしたの?」
「ねー。なんであの人達おこってるのかな?」
「・・・さあ? こんな状態だから不安なだけなんじゃないかしら・・・」
 自信なく答えるアイリーン。
「もしかして、冒険者が嫌いなんじゃないかな〜?」
 ぽつりとティカが言う。
「えっとぉ〜、ほら。たまにあるよ〜。ならず者は村に入れるな、とか」
 ティカの言葉を聞きユクナルが苦笑を漏らす。
「村に平和を取り戻して欲しい。なれど、それ以上関って欲しくない。と言ったところじゃうろて」

 村の外れにある「うねうね」に襲われた男の家に行ってはみたが、ユクナルの心配通りほとんど話らしい話が出来なかった。聞けたのは既に知っている事だけで、襲われたのは木を切り出しに森には行った夕暮れ時で、よくは見えなかったがうねうねしたものがいきなり足にからみつき、恐ろしいほどの力で引きずられ、持っていた手斧を振り回し逃げてきたということだった。

「これから森に行くのかな〜?」
 愛用の長弓の弦を張りながらティカが言った。
「結局村の人に聞いてもうねうねがなんだかわからなかったです」
 アイリーンが口を尖らせた。「ちょっと不安です・・・」
「森の中なら僕もティカも得意だから平気だよー☆」
「不安はあれど我らは雇われた身じゃ。正体を見極め、分が悪ければ退くだけの事」
 ロキとユクナルがアイリーンに微笑む。
「で、結局行くのかな〜?」
 全く緊張感のない声で、再度ティカが誰にともなく質問する。
「そうだな・・・」
 ガイアが口を開きかけると、一同の視線が彼に集まった。今回最年長で実力も経験もあるガイアがなんとなく、このパーティのリーダーの様な存在になっていた。
 みんながガイアの次の言葉を待っていたとき、村人の青年がものすごい形相で彼らの元へ駆け込んできた。
「大変だ〜!! レイラが・・・家の姪っ子がいなくなった、森に入ったらしいんだ!!」
「「「え〜〜〜っっっ!!!」」」
 アイリーン、ティカ、ロキの声がハモった。
「まずは落ち着いて、詳しい話を聞かせてくれ…先ずはどこでだ?」
 落ち着いた声でガイアが村人の肩に触れる。
「あ、ああ。あの子、レイラはあの「うねうね」に襲われた奴の14になる娘なんだが、どうやら親父の為に薬草を取りに森には行ったらしいんだ」
「森に入ったのは確かなの〜?」
 小首を傾げながらティカが尋ねる。
「ああ、あの子がいつも使う薬草駕篭を持って、森の方に歩いていったのを子供達が見ているんだ。あんた達には、着いたそうそうで悪いんだがあの子を連れ戻してくれ!」
 そう言って男は必死の形相で、ガイアに縋るような視線を向ける。
 5人はそれぞれ身につけている武器の重さを感じつつ、頷きあった。

<第二章>

森の中を歩く、5人の冒険者。
「うねうね」に連れさらわれたという、村の青年の姪っ子を探しているのだ。
まとわり付く草木を払い、森の奥へと進んでいく。
「うねうねっていったい何なのかな〜?」
進みながら質問をしたのは、長弓を持った歌謳いのティカだ。
彼女は行く手を遮る木の枝を圧し折ろうとする。
「ダメ。できるだけ木を傷つけないでください」
それを制したのは、精霊使いであるアイリーン。
すべての植物には、植物の精霊が宿っているから、傷つけて欲しくないのだろう。
「ご、ごめん。で・・・」
「おそらく、怪奇植物か大蛇の類でござろう」
ティカの質問に答えたのは、傀儡子のユクナルだった。
妙な言葉遣いの傀儡師兼魔術師だ。
「うん、その可能性は高いな・・・。森の奥だし」
全身黒尽くめのガイアが其れに同意する。
彼は腰に魔法の波動を放つ剣を携えた、魔法が使える剣士らしい。
このパーティのリーダーを担っている。
「ねーねー、僕がおばーちゃんから聞いた話に、「すきゅら」ってゆー、うねうねした魔物の話があったよー☆」
能天気な声が、パーティの足元から聞こえる。
歌謳いで盗賊の技能が少し使える、草原妖精のロキだ。
「こんなところにそんな魔物は居ないと思うぞ」
「うむ、スキュラは森の中ではなく、沼に居るものでござろう」
ロキはおばーちゃんの話で、いろいろな魔物の名前だけ知っているようだ。
現れる場所までは理解していなかったらしく、ガイアとユクナルにつっこまれる。
「うにゅー☆そーだったのか〜・・・」
意気消沈するロキ。だが、3歩歩けばすぐにまたやかましくなる。
「ロキ君、ちょっと静かにして・・・」
やかましくなったロキを、アイリーンがたしなめた。
「にょ?どーした・・・・もごもご☆」
「どーしたの、リィンちゃん?」
ロキの口を塞いで、ティカが代わりに尋ねた。
ガイアはすでに空気を呼んだのか、腰の剣に手をかけている。
「私たちのほかに、生命の精霊の気配がするの・・・」
アイリーンが目を閉じて、周囲の精霊力を感知し始める。
そして、藪ががさっと動いた。
「う、うねうね!?」
ティカが反応したが・・・・・・出てきたのは小さな蛇だった。
「・・・人騒がせな」
剣から手を離し、つかつかと蛇に近寄ったガイアが、その尻尾を掴んで茂みの奥へ投げ捨てた。
「今のは流石に違うよね・・・」
「あんなの僕でも大丈夫だよー☆」
ため息をつくティカに、ロキが同意するように手にした小剣を笑いながら腰に戻す。
「だが、もうそろそろ出てきても良い頃合で……ん?これは薬草ではないのか?」
ユクナルがしゃがみ込んで、薬草っぽい草を指さす。
そこに薬草の知識があるティカとロキがちょろちょろ割り込んでくる。
「これはねー☆」
『傷に効く薬草だね♪』
ティカとロキの声がハモる。
「へ〜・・・二人とも凄いんですねぇ〜」
ちょっと離れていた所から、とことこと近づいてきたアイリーン。
そのとき、ティカとロキが異様な気配を感じ取った。
「リィンちゃん、そこから離れてっ」
ティカの鋭い叫び。
「えーいっ☆」
珍しく真面目な顔でアイリーンにタックルをかますロキ。
刹那、アイリーンが突き飛ばされ、身代わりになったロキの脚に、うねうねした触手のようなものが絡みつく。
「何か居るぞ!」
刀身が薄く輝く剣を引き抜き、触手が延びている茂みに目をやるガイア。
「む!アレは・・・」
ユクナルの目に飛び込んだのは、長い6本の触手、大きく口を開けた袋のような物・・・。
「エスノアとかいったか」
ガイアの問いに頷くユクナル。
突き飛ばされたアイリーンが起き上がり、絡みつかれたロキに駆け寄ろうとする。
「ろ、ロキ君・・・!」
しかし、一歩間に合わずずるずると引きずられるロキ。
「にょおおおーーー☆」
「ロキ!」
「だじげで〜☆」
今にもエスノアの袋に放り込まれそうなロキ。
手を出すに出せないパーティ。
「うー、僕に構わずやっっちゃってよー」
必死に抵抗しながら叫ぶロキ。
一瞬の沈黙。
『よし、じゃあ行くぞ!』
その言葉を待っていたと言わんばかりの、全員のハモり声。
ガイアが剣を構え、
ユクナルが魔法の詠唱にかかり、
ティカが弓に矢を番え、
アイリーンが控えめに精霊とコンタクトを取りはじめる。
「・・・・・・・・・・・・本気?」
そして、戦いの火蓋が切って落とされた。

<第三章>

 夏の日差しは強い。けれど森の中では、深い色の葉に遮られて、元々の強烈な光が地面に降り注ぐことは少ない。
 その場所は近くにある村から2時間程森の奥へ入ったところで、付近には傷に効くものや熱冷ましの効果を持つものなど、何種類かの薬草が生えている。そしてそこに、活動を停止したうねうね(と思われるもの)ことエスノアと、その周りを囲むように5人の冒険者がいた。

 冒険者達は丁度、エスノアと呼ばれる食虫植物を倒したところである。

「ロキくん、大丈夫ですか!?」
「うん☆でもちょっと焦げちゃったかもー」
 駆け寄ってきたアイリーンに、ロキがまだ絡みついている触手を小剣で切り取りながら、それ程気にした風でもなくにこっと笑う。
「ご、ごめんなさい……」
 放った火の精霊をロキにかすらせてしまった張本人ことアイリーンは、しゅんとした様子で肩を落とした。
 ロキが無事だった事に少なからずほっとしながら、ユクナルは魔法の発動体をはめた方の手で漆黒の髪をかきあげた。剣士でもある彼女は、けれどすぐに腕を優雅に組んで考え込む。
「妙じゃな……」
「妙って?」
 その呟きを聞きつけて、長弓を背負いなおしていたティカが、不思議そうな顔をしてユクナルを見上げた。
 その間にガイアはエスノアの袋に近づき、鋭い輝きを持つ剣でそれを切り裂いた。中からは消化液と思われる透明の液体と駕篭のようなものが出てきたが、それだけだった。
「これは……」
「レイラって女の子が持ってた駕篭かな〜?」
 そちらに興味が移ったらしく、ティカが出来た水たまりを覗き込んで首を傾げる。
「その可能性は高いじゃろうて」
 近づいて確認したユクナルがそれに首肯し、微笑みを浮かべた。
「となれば、逃げ切って何処かで迷っておるのやもしれぬな」
「じゃ、急がないとねっ☆」
 ようやく触手を全部取ったロキが、勢いよく立ち上がって拳を空へと突き出した。


 ティカとロキが辺りの足跡を調べた結果、少女のものらしい足跡を追ってエスノアが森の更に奥の方へと移動していった形跡があった。
 二人の先導でパーティは注意深く森を進んで行く。

「これがエスノア、の……足跡ですか?」
 アイリーンはティカとロキのすぐ後ろを歩きながら、草の上に刻まれた足跡とやらを見ていた。
 その声に不思議そうな響きを感じ取ったのか、ティカが後ろを振り向いて、
「そうだよ〜。ホラ、何本かうねうねしたものが通った跡があるでしょ〜」
 地面に残る跡を指さして教えるが、アイリーンは見分けがつかなかったらしく、首を傾げた。
 エスノアが歩いた跡は草が倒されてはいるが、一見獣道と変わらないように見え
る。ティカとロキがその跡を正確に辿って行けるのは、野外で活動する術に長けているからである。
「……どうかしたか?」
 先程から何か考え込んでいる様子のユクナルに、その隣を行くガイアが視線を向ける。
「いや、村人の言ううねうねとやらがエスノアの事なら、捜索隊の一人が行方不明になった説明がつかぬと思ってな」
「それは私も気になっていた。エスノアに襲われて大量の血痕が残るとは考えにくいしな」
 うむ、と頷き、ユクナルは警戒するように周りを見回す。
「大蛇か獣か――今はまだ何も判断できぬな」
「……用心するに越したことはない。それに、これだけ他の動物に出会わない森も何か不気味だ」
 後ろの方でされている深刻な会話は知らず、先を行く三人の話題はもうすぐオランである祭りの事へと移っていっていた。

 森を進むこと30分、木々が少し途切れたそこには、分厚いといった表現がぴったりくる程に草が茂っている。 
「雨が降ってきそうな空ですね……」
 灰色の雲が増えてきた空を見上げて、アイリーンが呟く。
「うーん、今雨が降るとちょっと困るかなぁ〜」
「足跡消えちゃうかもー」
 エスノアの進行した跡を辿りながらティカ。ロキもそれに同意する。
「それにしても急に足跡が消えているとはな……」
 ガイアが溜息をついた。
 今、彼らがそこに留まっているのはまさにその問題のせいだった。
 木々の間を通り抜け、少し広い草地に出たところで足跡が無くなってしまったの
だ。元々少女の足跡はエスノアのそれに消されていたので、エスノアの足跡を辿ってきていたのだが、それも途絶えていた。
「うーん、消えてるってよりは何て言うか〜」
「ココでそのエスノアがね、」
 ティカは首を傾げて足跡を見ながら、ロキはガイアを見上げて、
「「Uターンして戻っていった感じだよ〜」」
 二人の声がハモった。
「獲物を諦めたということであろうか……」
「でも、レイラちゃんの足跡も見つからなくて〜」
 訳が分からないというように、ティカは溜息をひとつ。
「こっちの方に、向かってたンですよね?」
 自分たちが来た方とは反対方向の森を覗こうと、アイリーンが草を踏んで歩き出
す。
「あまり遠くへ行くと危ないぞ」
「――きゃ!?」
 ガイアの言葉が終わらない内に、短い悲鳴を残してアイリーンの姿が消えた。
「「!?」」
 慌てて、けれど注意深く駆け寄る4人。

 よく見ると、そこは草に巧妙に隠された地面の裂け目だった。
「リィン、大丈夫か……?」
 暗い裂け目を覗き込んで、ユクナルがそっと問いかける。
 思いがけず近くから返事があった。
「大丈夫、です……。結構広いみたいで、後、少しだけですが風の精霊さんが動いてるです……。もしかしたら、どこかに繋がっているのかも……」
 アイリーンの言葉に、裂け目の縁にいた4人は顔を見合わせた。


つづく…




  


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