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それは、少し小雨の降る夜の出来事だった・・・・・
オランの首都『オラン』の中心部。 エイトサークル城から、川をはさんだ所にあるチャ・ザ神殿。 その近くの大通りに『きままに亭』はあった。
そこでは、今、吟遊詩人のグラスランナーが悲しげな詩を詠ってる最中だった。
そこに、一人の客がやってきたことから物語りは始まる・・・・
カラン♪
その客はフード付のローブを目深に被る、小柄な客だった。 客は、カウンター席に座りエールとトマトジュースそして、予備のグラスと混ぜ棒を注文した。 一通り注文が終わると、フードを外す。 そこには、見た目10代前半に見える少女マリーの姿があった。 きれいな赤毛の髪をポニーテールにしたマリーは、 何かを思いつめてるのか鳶色の眼を曇らせていた。
マリーは、注文した品を受け取ると、予備のグラスにエールを半分注ぎ、 その上にトマトジュースを注いだ後、混ぜ棒で軽く混ぜた。
その出来上がったドリンクを飲みながら「恋の歌かぁ・・・」と、つぶやいた。
ふと、自分を見つめる視線を感じそちらを振り向くと、男と目があった。 男は、うろたえながらも照れながら話し掛けたところへ吟遊詩人のロキがやってきた。
「はじめてだねー♪僕、ロキってゆーの、よろしくー☆」 「カディオス・クライスだ。”カディオス”でいい。こちらこそよろしくな」
マリーはビクッとしながらも「はじめまして・・・」と挨拶を返した。
マリーは吟遊詩人が歌うのは仕事のためだとわかっているので、 ロキに対して10ガメル渡すと、ドリンク一気に飲み干し、 またエールのグラスにトマトジュースを注ぎ軽く混ぜる。 すると、ロキと話をしていた少女リィンが笑顔を見せながらも、 マリーの作っているドリンクを見て顔をひきつらせながら挨拶をしてきた。
マリーがしばらくこの街に滞在することを告げると、 リィンは「街はお祭り前で早く宿を決めないとなくなるよ」と言い、 明日も早いからと、宿を後にした。
先ほどから、ドリンクに興味を持っていたカディオスが マリーに「それ…なんていう飲み物なの?」と尋ねると 少女は遠くを見つめるような眼で 「これは、ブラッディ・マリーって言う名前です」と答えた。
そして、この酒は一般には売られていないと、告げると、 ロキが飲みたそうにしてるので、マリーが飲むか尋ねると ロキはにぱっと笑ってグラスに手を伸ばそうとするが届かないのを見て、 少女は微笑みながら「はい、どうぞ・・・」とグラスを渡した。
そして先ほど微笑んだ少女は一変して今度は悲しそうになり、 自分に言ってるかのように誰とも無く話を続けた。 「父が・・・死んだ父が、あたしのために作ってくれたのです・・・ 多分、父が、航海の途中でどこかの町で、作り方を聞いたのだと思います」
そこに、先ほど出て行ったリィンが慌ててばたばたと戻ってきて、 「あ、もし宿が見つからなかったら、あたし風花亭にいるので…… お祭りが終わる頃くらいまでなら、一緒に泊まれる、ですよ」 と言い、返事も聞かずに慌てて出ていった。
ロキも、大きな欠伸をし「じゃ、僕も帰るねー♪バイバイー☆」と賑やかに帰っていった。
残った二人は、賑やかに出て行く二人を見ながら、話を続けた。 「にぎやかですね・・・」 「ここじゃいつもこんなだよ」 「ここに居ると、元気になれそうな気がします。」 笑顔で話すカディオスにマリーは微笑み返した。
「そういやさっきから思ってたけど、なんか元気ないね?ここに来る途中何かあったの?」 「ここに来る途中・・・というか・・・」 マリーはじっと『ブラッディ・マリー』を見つめながら話を進めた。 「実は、この町へは父の仇を探しに来たのです・・・」 「仇…?」 「そうです・・・父は、殺されたのです・・・」 マリーは涙を一粒落とすしながらそうつぶやいた。 それを見て、カディオスは 「ああ、ごめん。変なこと聞いちゃって」と焦りながら謝るが、 マリーは涙を拭きながら「いえ、気にしないでください」といいグラスに口をつけた。 カディオスはやっぱり女性の涙は苦手だなと思いつつ、もう一度「…ごめん」と謝った。
マリーは小さな声で話し出す。 「仇を・・・取ったところで・・・父は帰ってこないですけど・・・ でも・・・・・許せないんです・・・・・」
マリーは、元部下の顔を思い浮かべながら、ぽつりぽつりと、続けた。
「父親を失ったのは正当な戦いで、かい?」 「いいえ・・・・・父は、元部下だった人に・・・殺されたのです・・・」 「…それはいわゆる『裏切り』と言うことでいいのかな?」 「そう・・・ですね・・・」 「もし本当に裏切りなら仇討ちをする大義名分があるのだから誰も咎めはしないと思うよ。 なんか、説法くさくなっちゃったな。そんな高位の神官でもないのに・・・」 「そうですね。あたし、がんばります」
マリーは少し間を置いて・・・
「この町は長いのですか? 」 「どのくらいいるかな…かれこれ2年半てところかな?」 「この顔、この町で見かけませんでしたか?」
といいつつ出した羊皮紙には『らくがき』のような顔が描かれていた。 カディオスが「どれ…」と顔がかいてある紙を覗くが、何を書いてるのか良くわからず 左頬に傷があるらしいことはだけはわかった。 マリーが「わかります・・・・か?」と、おそるおそる顔を覗き込む中、 カディオスは「左頬にキズ…か」と、つぶやいた。
「この辺じゃ左頬にキズがあるのは俺ぐらいだからな…… 見かけたんだったらすぐわかると思うぞ。目立つからな、顔の傷跡は」
カディオスがそういうとマリーはまた、悲しそうに 「そうですか・・・この町に入ったとの話を聞いたのですが・・・」とつぶやいた。
そこへ薄紫色のブラウスとスカートを着た少女が明るく入ってきた。 カディオスの知り合いらしく神官戦士のケイと紹介された。 ケイは、神官戦士ではなくひよっこ詩人と自己紹介した後、 マリーの飲んでいた「ブラッディ・マリー」に興味を持ち話に入ってきた。
それは、少し小雨の降る夜の出来事だった・・・・・
オランの首都『オラン』の中心部。 エイトサークル城から、川をはさんだ所にあるチャ・ザ神殿。 その近くの大通りに『きままに亭』はあった。
そこに、明るく入ってきた少女の姿から物語りは続く・・・・
カラン♪
カディオスに神官戦士と紹介されたケイは、ひよっこ詩人と自己紹介した後、 マリーの飲んでいた「ブラッディ・マリー」に興味を持ち話に入ってきた。
マリーの話を聞いたケイが 「傷がある人なら、治療院のほうに一杯居るけど…それとは違うみたいだし…… とすると…?」と、考えながらつぶやくのに反応し、 「その、男の左頬の傷は、刀傷です。 でも、古傷なので・・・治療するとも思えないですけど・・・」と、答えた。
そして、マリーはその元部下の事を思い浮かべながら話しつづけた。
マリー達はオラン沖合いの島に住んでいて、父親は船の船長をしているとの事。 そして、父を殺した男というのは、その船で一緒に航海をしていたとの事。 マリー自身は船に乗っておらず、いつも島で父親達の帰りを待っていたそうだ。 父親が殺されたのは、今年の1月頃、ちょうどマリーの誕生日の日だった。 その日から、マリーは元部下の行方を探しながら旅を続けていた。
そんな話をしているとケイが「……あんまり聞きたくないんだけど、 その人が見つかったらどうするつもり?」と、尋ねてきた。 マリーは、ケイを見つめて、少し物憂げな表情になり「父の・・・仇を討ちます」と告げた。 ケイがその事に対して続けた 「その人にも家族の人がいるんですよね? その人達から恨みを買うことも辞さない、と言うことかしら? 」 マリーはうつむいて涙を流しながら 「家族は、居ないです・・・父と、その男と、船の仲間がみんな家族でした・・・」 と、船の仲間を父親と同様に家族と思ってすごしてきた事を話した。
ケイは慌てて「あ、あの、そんなこと聞くつもりじゃ…」と、いいながら謝り、 「でも、それで相手を殺しても解決するのかしら…?」と、続けた。 マリーはぐずりながらも 「仇を取ったところで・・・父が帰ってくるとは思いません・・・ ですが、このままでは・・・・・」と、泣きながらも話しつづけた。
そこへ、店の奥からエルフの女性シンシアが静かにカウンターへ歩いてきた。 「ずいぶん物騒な話ね。愚かしくもあるわ。 憎しみは連鎖するものよ。仇の子供に、いつか同じ仕打ちをされるわ」 シンシアはマリーが泣いてるのを見て店員に温かいミルクを注文してあげた。 マリーはミルクを受け取り「ありがと・・・」と言うと、 シンシアは「めそめそうじうじされてると、こっちも気分悪いからね」と、悪態をついた。 そして、カディオスが出発の準備があるのでと出て行くのと入れ違いに話しに加わってきた。
ケイはマリーをなだめながら話を続けた。 「でもね、別に相手の命を奪わなくっても……罪の償いをさせれば、いいんじゃないのかなっ? 衛視さん達にも相談してみたらどっかな?」 マリーは、街の事を何も知らないため、衛視のことを知らず、衛視の事を聞くと、 「この街の犯罪を取り締まってる人たちよっ」とケイは説明してくれた。 マリーは、涙を拭きながら、「街の・・・犯罪・・・・・・・・・」とつぶやいた。 ケイは「そっきっと何とかしてくれると思うわっ」と言ったが、 マリーは「街・・・以外の事でも、何とかしてもらえるんでしょうか?」と尋ね返した。 そこへ、シンシアが「まず無理ね。衛視たちときたら私たちよそ者は邪魔者、 犯罪者予備軍としか思っていないもの」と、街中の事しか動いてくれない事を告げた。
自分で探すしか無い事を知るとシンシアが組織の力を借りるのも1つの手だと提案するが、 組織のことを知らないマリーは「そ・・・しき?」と尋ねると 「そうよ。この大きな世界、大きな街でたった1人を探そうと思ったら、1人じゃ無理よ。 連携の取れた組織力が必要だわ」と、シンシアは答えてくれたが マリーは「時間は、あります・・・しばらく、この町に住みます・・・」と、一人で探すつもりだった。
シンシアはその事にはそれ以上追求せずに「で、仇を討ってどうするつもりなの? たとえそれが成功しても、殺人は大罪ではなくて?」と仇を討った後のことについて尋ねた。 マリーは「仇が討てれば・・・それだけでいいです・・・」と言ったが、 ケイはマリーのことを心配し「そーよぉ マリーさんがこの街で人を殺しちゃったら、 ずーーーーっと牢屋で過ごさなきゃならないのよ?」とまで言われたが、 マリーは父の仇を討った後は死ぬ気でいるので「それでも・・・かまいません・・・・・」と言った。 ケイはマリーの両肩を掴んで「ほんっとにそれでいいのっ??マリーさんの気持ちは分かるわっ でもねっ、自らを貶めるようなことをさせることは出来ないわっ ねっ? だから考えなおそ? きっとそれであなたの気は晴れるかも知れないけど… 今までにあなたにあった人たちや、あなたの知人が悲しむわよ?」 マリーには悲しんでもらえるような知人は居ないのか、 「う・・・ん・・・・・でも・・・あたしには、もう・・・」と、仇を討つことしか考えてなかった。
それでも、シンシアはマリーの仇討ちを止めようと話を続けたが、 すでに、母親の居ないマリーは父親を殺された事で天涯孤独となったので 自分が仇討ちをする事によって罪を犯し牢に入れられたとしても心配する人も悲しむ人も居ないと話した。 シンシアはマリーに何を言っても無駄だと知りケイに小声で何かをささやいた。
ケイは「そだ、私とお友達になりません?」とマリーに聞いた。 「私、こんな格好してるけどチャザの神殿でご厄介になってたことがあるのっ それでね、新しくあった人と積極的にお友達になりなさいって神官長様によーーーっく言われたわっ ねっ? どおかしら?」 マリーはそう言ってくれるケイに対し嬉しいと思う反面、これからのことを考え 「でも・・・あたしはこれから人を殺すのよ・・・それでもいいの?」と、言ったが ケイは微笑みながら「ううん、そんなの関係ないわっ。 だって、ここでこうしてあったのもチャザ神さまの思し召しなのよっ 私は後悔しないわっ 」と、言ってくれた。 マリーは嬉しさのあまり涙目になり「ありがと。 あたし・・・女の子の友達・・・今まで居なかったから・・・嬉しい」と、心底喜んだ。
シンシアの方はマリーに対し一つのお願いをした。 それは、シンシアの妹のアムラエルを探す事だ。 マリーは一人探すのも二人探すのも一緒だからと、妹探しを請け負った。 そしてシンシアは、妹の事をお願いすると「ここの2階に泊まっているから」と言い、 お休みの挨拶をして、2階に上がっていった。
それと、入れ違いのように、ぼさぼさ頭の小柄な男性マニックと、 バスタードソードを腰に下げた20歳位の女性アレクが入ってきた。 二人はケイの知り合いらしく、入ってきた後、ケイと談笑を始めた。 しばらくしてマリーに気づいたアレクがケイにマリーのことを尋ねた。 ケイがマリーはついさっき友達になった事を言いそれに対し、 アレクは笑いながらケイの頭をくしゃくしゃにした。 マリーはそんなやり取りを見て少し微笑んでいるようだった。
すると突然ケイが「マリーさんも一緒に行きません?」と言ったので、 マリーは、何の事かわからず、戸惑いながら「何処へですか?」と尋ねると、 ケイがチャザの神殿の話だと言うのでマリーは連れてって下さいと答えた。 ケイは翌日の朝に神殿かここがいいかマリーに尋ねてきたが、 マリーは宿も決めてなく神殿も何処にあるのかわからないと言った。 ケイが「神殿はここ出て道をまっすぐ行くとすぐに見つかるわっ んー……差し出がましいかも知れないけど、私のお家に来る?」と言ってくれたので マリーはお邪魔させてもらう事にした。
アレクも一緒に泊まる事になり自己紹介を始めた。 自己紹介の後、何処からきたのかを尋ねるてきたので、 マリーはオラン沖合いの何も無い辺鄙な小島に住んでた事を話した。 そして、島を出てきた理由を聞かれたので、 父の仇討ちのためにエレミアを経由してこの街に来た事を言った。
「そっか。でも、仇って相手は父親を手に掛けたヤツでしょ?討てる自信はあるの?」 アレクはそう尋ねてきたが、マリーは何も考えていなかったらしく何も言えずに居ると、 アレクは、剣や魔法が使えるか聞いてきたが、 マリーは剣は使えるが、魔法の事となると何もわからず何も知らなかった。
そこへマニックが「島には司祭様とかいなかったんですか?」とマリーに聞いてきた。 マリーは司祭様もわからず逆に尋ねたので、アレクがケイを指しつつ言った。 「えっと〜、ここに丁度神官がいるので、魔法について聞いてみましょう」 ケイは戸惑いつつも「司祭様って言うのはねっ、神官さん達をまとめるえらーい人のコトなのっ 神様の声が他の神官さんより聞こえるんですって」と、言ってくれたので、 マリーにもおぼろげながら神官司祭の事を神様の声が聞こえる人と知った。 でも、島には神官も司祭様もいなかったなぁと考えていると、 マニックが「うろ覚えだけど、魔法は確か”不可識な現象を起こせる”だったきがするな〜。」と、 魔法に関することもマリーはなんとなくだがわかったような気がした。 マリーはうつらうつらしながら「へぇ・・・・」とつぶやくと、
アレクやケイが心配してくれているのがわかったが、なんだかぼ〜っとしているマリーは ばたんとカウンターに倒れこんだ。
アレクは倒れたマリーの顔をのぞき込むながら「マリー?大丈夫か? 」と言い、 ケイがマリーをゆさゆさしながら「ちょ、ちょっと?? だいじょうぶ??」と言ったが、 マリーは「す〜〜、す〜〜」と寝息を立てて寝てしまっていた。
それまでの、長い旅、そして、張り詰めていた緊張が解け、 マリーは疲れがたまっていたのか、話しながら寝てしまったのだった。
「なんだ、眠っちゃったのか。こんな時間だし、無理ないか。」 「……寝ちゃったみたいねっ。それじゃ、連れて帰ろっかな? 」 「うん、そうだね。こんなところじゃいくら夏でも風邪ひいちゃうかもしれないし」 「よいしょ、っと」 「私、おぶってくよ」 「大丈夫よぉ。私も結構なれてるモン♪」 「・・・そうだね、私も前にもケイにおぶられたことあったっけ」
アレクとケイがそんなマリーを見ながらこんな話をしてるのを、マリーは夢うつつの中で聞いていた・・・
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