イベント:貴族の館 ( 2001/08/02 )
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作者
ともりん
登場キャラクター
メリープ・ブルー



「あれ……?どこだろ、歌声が聞こえてくる……」
新王国暦512年、11の月。とても寒い一日。時刻はそろそろ夕刻になろうとしている。
メリープは、ふと聞こえてきた歌声の出所を探ろうとして、人通りの多い大通りの真ん中でふと立ち止まる。
おかげで他の通行人にはかなり迷惑になったが、メリープは構わず、声の出所を探して、人並みに逆らい歩きはじめる。
やがて、メリープの耳に、歌声と伴奏のリュートの音が聞こえてきた。物悲しい旋律を奏でるリュートの音。重なる歌声は男の声だ。


俺は大事なものを失った 手の届かぬ彼方に
俺は大事なものを失った 時の女神の悪戯で
俺はもう失うものは何もない 貴女を失った今となっては
俺の生命でさえもういらない 貴女のいない世界では

だけど俺は今ここにいる
何をすればいいのだろう どこへ行けばいいのだろう
貴女という道標をなくした今 俺は……


そこでふいに声が途切れた。
メリープは声の出所だった場所を探して、もう一度周りを見まわす。
街の中の、小さな公園。その、一本の大樹の陰に、リュートを抱えた男が一人。
今まで切ない歌声をしぼりだしていた男が、膝を抱えて、泣いていた。


メリープは衝動的に、歌っていた男に近づいた。
「……失ったものを取り戻すことはできないけど……でも、新しく大事なものを得ることは、できると思う……。
どんな哀しみが、あなたを襲ったのかは分からないけど、でも……だからって自分もいらないって歌うのは、悲しすぎるよ……」


男は、いつの間にか近くにいた少女を見上げた。
少女は、自分の代わりに涙を流していた。
自分の涙は既に止まっている。勿論流れた跡はあるのだけれど。
「……ありがとよ、嬢ちゃん。」
少女の銀髪に手を置くと、男はリュートを抱え直して立ち上がる。
「今度会ったときには、ちゃんとした恋歌を歌ってやる。だから、また……近いうちにここに来いよ。俺は、気が向けばここで歌ってるから。
……そうだ。俺はブルーって言うんだが、嬢ちゃんの名は?」
「私、ですか?私はメリープですぅ」
「メリープ、か。分かった。ここで歌ってないときは、俺は歌を歌いたい奴に歌や楽器を教えている。もし、そう言うことに興味があったら、俺に言ってくれよ。
俺が、教えてやるから。」


こうして、寒空の中、メリープとブルーは出会ったのだった。




  


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