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「ほぉ……そんな話があったのか……嬢ちゃん、その話は本当なのかい?」
初夏の陽ざしが降り注ぐ公園の、一番大きい木の影で、ブルーはメリープの話を、多分に疑いを込めて聞いていた。 「ここからパダの方へ歩いて一日くらいの距離の所に、そう都合良く未発掘の遺跡なんざあるわけねぇだろうが……」 「でも、あるって言ってたんだよ……冒険者風の人がね、そんな話を聞いたよって。信頼できるところから話を聞いたよって……」 メリープの言い方に、ブルーは本気で頭を抱えた。きょとんとしているメリープに呟く。 「あのなぁ、お嬢……そう言う情報、鵜呑みにし過ぎてると、いつか痛い目見るぞ。商人にとって、正確な情報が大事だってコト、分かってないだろ?」 「…………んじゃぁ、私が聞いた話、ホントの話じゃないって言いたいの?」 「そうとは言ってねぇよ、だけど自分で見てきた話じゃない限り、完璧には信じられねぇ、ただそれだけだ。」 メリープの、まだ腑に落ちないような表情を見て、ブルーは溜息をついた。 「……まぁ……その話は俺が白黒ハッキリさせてやるよ。だから、お嬢は自分の仕事に専念してくれ。本当に遺跡があったならお嬢も一緒に行こうや。もし、ガセネタだったら、そんときは諦めてくれよ。」 「……うん、分かった。その時はよろしくね。」
ブルーは、その夜、笛の生徒でもある草原妖精パムルに同じ話を繰り返した。 「……どう考えても、怪しい話やんか〜。姉ちゃん、本気で信じてたんやなぁ、その話。」 「ま、あの嬢ちゃんが本当の情報を仕入れたのか、それともガセをつかまされただけなのか、それだけでもハッキリさせたいと思ってな。 どうだ、俺と一緒に確かめに行かないか?場所の詳しい話も、嬢ちゃんから聞いてるからよ。」 パムルは二つ返事で頷いた。 「うみゅ、もちろん行くのや〜。ガセネタだったとしてもいいやんか〜、そう言うこともあるさ、ってカンジやし〜♪」 「ただ単に確かめに行くだけだからな、万一遺跡があったとしても、俺達はその事実を公表しない。メリープ嬢に報告してからだ。何もなければそれで片が付く。 んじゃ、よ……そう言うことは急いだ方がいいだろ、パムル、明後日の正午にもう一度ここに来れるか?明後日の午後、出発しようぜ。」 「分かったよ〜♪んじゃまた、明後日の正午に〜♪」 そう言って踊り狂うパムルを、ブルーは呆れたように見つめていた。笛を吹き出さないだけまだマシかもな、とか思いつつ。
そして二日後の正午、ブルーとパムルは遺跡のあると言われたところへ出発した。 「……うーん、いい天気やなぁ」 「ああ……いい天気だ。お前がそんなに騒がなきゃ、俺ももう少しこのいい気分を満喫できると思うんだがなぁ……」 もうそろそろ夏本番、といわんばかりに、大陽がさんさんと輝いている。ただ単なる偵察だけだ、と言う意識から、二人の装備はかなり軽い。 ブルーの反駁に、パムルが抗議の声を上げる。 「兄ちゃん、オイラのどこが騒がしいんだよ〜!」 「全部。」 「ひどいにゅぅ〜!オイラ、こんなに静かにしてるのに、どこがやかましいんだよぉ!」 「だからその存在全部が騒がしいと言ってるじゃねぇか!」 「ひどいにゅぅひどいにゅぅ!!」 冷たく言い放つブルーに、ますます騒がしくパムルは反論する。 「オイラ、そんなに騒がしくしてないにゅぅ!ブルー兄ちゃんが喧しくしたからオイラも負けずにやかましくしたんよ〜!!」 「だあぁあっ!!やかましいっ!!」 どこまで行ってもやかましい二人だった。この二人の場合は、この程度の騒がしさは日常茶飯事であるのだが。
次の日。二人は、メリープに示された場所へとたどりつく。 「…………やーっぱ、何にもないやんか〜♪」 そこにあるのは、ただ小高い丘だけ。パムルが一通り調べては見たものの、やはり遺跡の影すらない。 「ま、いいさ。これであのお嬢も、ちっとは反省するだろうからな。」 「……性懲りもなく同じコト繰り返す方が、確率高いとオイラ思うけどなぁ……」
パムルの呟きが真実かどうかは、謎である。
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