|
その日は浅く霧が立ち込めていました。
言い出しっぺが遅刻すると格好悪いことこの上ないんで、前日は荷物なんかの準備だけはしてからお店に顔を出さずにさっさと寝ちゃいました。 お陰で寝坊もせずにしっかり起きることが出来たんです。 身支度を整えて裏門に行くと、まだ皆さん到着してはいませんでした。まぁ、集合場所の関係上、私が一番早く到着できるんですけど。 私が到着するのに一歩遅れてイルムさんが着きました。起きたのは私より早かったそうですが、マイリー神殿でお祈りしてきたんだそうです。 結局、ビエネッタさん、モルドさん、ギグスさんも程なくしてやって来て、私の予想よりも早く遺跡に潜る事になったんです。
学院の地下にその遺跡はありました。 もっとも遺跡といっても「枯れた遺跡」と呼ばれる類のもので、既に内部は探索し尽くされ、何のお宝も残ってない…。 それが遺跡調査を導師様に命じられたときに聞かされたこの遺跡の事実だったのですが、この調査の話を持ちかけた際、モルドさんが気になることを教えてくれたんです。 「その遺跡の中に、魔法の力を付与された石が隠されている」 単なる定期調査だと考えていただけに、この話を聞いた時、私は胸にこみ上げてくるものがあるのを感じました。 なぜですって? だって、いかにも冒険者の仕事っぽいじゃないですか。 確かに契約上では見つかったアイテムは全て学院に引き取ってもらわなければいけません。けど、どうせやるなら定期調査(雑務)よりも遺跡でお宝捜し(冒険)と考えたほうがわくわくしますし。ロマンというか…、とにかくそういうものを感じたんですよ。 学院の建物の高さに驚いていたビエネッタさんやギグスさんを宥めて、とりあえず皆さんを学院の中に招きいれました。 学院の中はまだ解放時間ではなく、中にいるのは学院生たちだけだったので、いかにも冒険者然とした私たちの格好にすれ違う人は皆、奇異の目を向けていましたね。 まぁ、この調査自体が公にしていない類のものですから、それもやむなしなんですが、ビエネッタさんがそれにいちいち反応して感情的になっていたのには困りました…。(はぁ…) もっとも、正魔術師以上の地位を持っている人たちの中には理解しているという風な感じの人もいましたけど、それらの人はきっと去年以前の調査に参加していた人なんでしょう。 そんなこんなで地下への入り口までたどり着くと、導師様が脇に最重量の蛮刀を携え、顔に不安の色を浮かべて立っておられました。 何事かと思って問うてみますと、案の定自分もついていくというのです。 極度の心配性&過保護で、剣の稽古をつけるとき以外は始終この調子の方ですから、ある意味予想はしていたんですが、魔術師とは思えない熟練の戦士然とした顔つきを見事に崩して、さも心配そうに言われると、自分の中に張り詰めていた緊張感か何かが途切れて、思わず大きなため息とともに脱力しちゃいました。 結局、頼れる仲間がいますから、ということで丁重にお断りして、前金を各々がもらい地下に潜ったんです。
遺跡の入り口には扉があり合言葉を言わなければ入る事は出来ません。 しかし、当たり前といえば当たり前なんですが、私は合言葉を教えてもらっていましたので、難なく遺跡の中に入る事が出来ました。 遺跡の調査については省きますよ。だって、渡された過去の資料を元に、各ポイントが以前調査時と変わりないかどうか調べていく過程なんて話しても面白くも何ともないでしょう?それに、すでに明らかになっている部分には怪物一匹いなかったんですから。 一つ補足するなら、調査は私、ギグスさん、モルドさん、イルムさんの四人で行い、ビエネッタさんにはずっと隠し扉を探してもらってたことくらいですね。
私たちの調査がほぼ終った頃、ビエネッタさんの歓喜の声が聞こえてきました。 あわてて駆けつけると、案の定、というか予想通りというか、ビエネッタさんが隠し扉を発見したところでした。 扉を開けて見ると、長さ十五メートルくらいの比較的幅広(p:二人くらいが横に並んで余裕で戦闘できる)通路が延びており、その先にはまたもう一つの扉がありました。 私たちは縦隊を組んで進んでいったんですが、私は初めて盗賊(ビエネッタさんの場合は「穴熊」ですか…)の凄さを知ったんです。 その十五メートルの通路の中には実に十を超える罠があったのですが、ビエネッタさんはそれをことごとく発見、解除してしまったんですから!。因みに私はその罠の内、ただの一つも見つけられませんでした。 通路の奥の扉を開けると、こじんまりとした部屋に出ました(p:学校の教室よりすこし大きいくらい)。 その部屋には入ってきた所以外に扉は見あたらず、部屋の向かって奥には台に乗せられた箱があったんです。 それだけであれば全く問題はないんですが、やはりお宝には番人が付き物なんでしょうか…、骨の体を持つ円形の盾と曲刀で武装した魔法人形…。私やモルドさんの様な魔術師には間違えようもない怪物…「竜牙兵」が(扉を開けた存在を襲えとでも命令されていたんでしょうね…きっと)まっしぐらに我々に向かってきたんです。 ビエネッタさんが後ろに下がり、イルムさん、ギグスさんが前衛、私とモルドさんが後衛で戦闘は開始されました。私は「エンチャント・ウェポン」や「プロテクション」、「オーク」の呪文を使い援護、モルドさんはギグスさんやイルムさんの傷を癒す役目を果たしましたし、ギグスさん、イルムさんの前衛コンビは共に大剣を巧みに操って苦戦こそしましたが、結果的に竜牙兵を無力化することに成功しました。
竜牙兵亡き後の部屋には台に乗せられた箱だけが残ったんです。 一応他に隠し扉が無いかどうか調べましたが、残念なことに隠し扉は見つかりませんでした。 ということで、箱の中身を調べることになりました。ここでもビエネッタさんが罠の存在を発見し、かけられていた鍵も簡単に開けてしまいました。 中には、一見魔晶石のような色、形の石が大小さまざま合計二十個近くありました。 モルドさんのレポートによると魔晶石の限定版らしく、魔法の宝物を稼動させる為に必要な精神点のみを肩代わりするものらしいのです。 私たちはそれを箱から小袋に移しかえると、遺跡を後にしました。
{この括弧の内容は冒険仲間、もしくは宝物の価値を尋ねた者のみの情報です
結果、発見した限定型魔晶石の定価は通常の魔晶石の半分とされました(限定がつく為、0.5掛け)。内訳は2点が九つ、4点が二つ、5点が二つ、6点が三つ、8点が一つ、10点が二つでしたので(限定型魔晶石の)定価に換算すると、
100 ×9 =900 1800×3 =5400 800 ×2 =1600 3200×1 =3200 1250×2 =2500 5000×2 =10000
これらを合計し、買い取り価格の三分の二にすると
900+1600+2500+5400+3200+10000=24000 24000×2/3=16000
それを、五人で人数割りして
16000÷5=3200
3200ガメルが宝物の売却代金(一人頭)となります。
遺跡調査の報酬も含めると、前金含めて4800ガメル(一人頭)です}
|