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僕はカゾフの街外れの砂浜でぼーっとしていた。
すると沖の方に小さな影を見つけた。 なんだろうと目を凝らしてみる。 人だ! 「ネラード!あれ人だよ!」 「なんだって!?」 ネラードは素っ頓狂な声を上げて、その人らしき影に視線を向ける。 「助けないと!」 「……あ……そうだね」 僕はなんかかったるい。 ネラードはすぐに漁師のおじさんを連れてくると、僕たちは小船で海に出た。 そして、海面を漂うその人影みたいなのに近づく。 男の子だ。 男の子が板切れに引っかかる感じで漂っていた。 でも僕たちは男の子に近づけなかった。 男の子が浮かんでいる所は、潮が急に早くなっていて近づけないという。 でもなんで男の子は流されず、あそこに浮かんでいるんだろう…… 僕はそんな疑問が一瞬浮かんだ。 ……ま、いっか……僕がどうなるワケじゃないし…… だけど、そんな僕の横では、ネラードとおじさんが苛立った顔をして、男の子を見ている。 僕は船の端っこで、興味なさげにそのやり取りを見ていた。
”……他人事なのに……バッカみたい……”
――でも僕はその男の子の顔を見る事が出来なかった。
”――でも――”
その時だった。
『……た……す……けて……』
何の声か確認できなかったが、僕は思わず声がした方を振り向いた。
”あの男の子?”
でも、その声は、ネラードたちには、聞こえてないような気がする。 じゃ、精霊さん? 僕は何かに取り付かれたように、海に落っこちるんじゃないかというくらい、前のめりになって男の子の顔をギョーシした。 その顔は真っ青で唇も紫色。今にも死んでしまいそうな……いや、もう死んでしまっているんじゃないかという顔だった。 カットー――
”……でも、他人事だよ。僕が死ぬんじゃない……でもでも……”
”助けなくちゃ……”
僕は何かを振り払うかのように頭を振ると、後先考えずそのまま海に飛び込んだ。 僕は村一番の泳ぎ手なんだ。 あんな男の子の一人や二人すぐに助けられ…………うっ……しょっぱい! 海の水ってこんなにしょっぱかったの!? 目が痛くて前が見えない。 僕は、目を瞑りながら頑張って男の子の所まで泳いだ。 「しっかりて!」 返事はない。 死んじゃってるの!? いや、死んでない。 男の子の中の精霊さんが僕はまだ生きているよって、教えてくれている。 僕は男の子を抱えて船に戻ろうとする。 でも、なんかが引っかかっている感じがした。 僕は、目が痛いのを我慢して、水の中に顔を突っ込んだ。 すると男の子の足に、大きな海藻が絡まっていた。 なるほど、これでこの子が流されなかったんだ。 こんな時なのに、ヘンに納得。 僕は太股に忍ばせていたダガーを取り出すと、その海藻を切り離した。 さあ、船に戻るぞ。 でも、服に水が絡みつくようで思うように泳げなかった。 くそぅ……海の水がしょっぱくなかったら……もっと上手く泳げるのに…… その時だった。 僕の右足に激痛が走のは―― 「いたっ!」
”足つった!”
僕は悲鳴を上げると、一瞬、僕は男の子と一緒に海の中に沈みこんだ。 僕は完全に溺れた。 その後の僕は、海面から顔を出しては潜っての繰り返すだけ。 苦しい!(海の)水が咽に入って、咽が痛いよ! ネラード助けてよ! 咳をしているのか、息をしているのか僕ですらわからない。 あっぷあっぷと、口をあけて空気が入っているコトだけはわかるといった感じ。 船の上からネラードが僕に叫んでいる。 なに!?聞こえないよ。 僕は必死にもがいた。 もがいてもがいてもがきまくった。 でも、僕は次第に意識が遠のいていった。 でもはっきり覚えている。 ネラードも海に飛び込んだ姿だけは……
目が覚めると、僕はベッドの上だった。 ネラードが助けてくれたんだとすぐにわかった。 僕はまだ少しぼーっとした頭でベッドから起き上がる。 「目が覚めたようですね」 ネラードがノックもせずに部屋に入ってきた。 僕は黙ってネラードの顔を見る。 ネラードも僕の顔を見る。 なんだか少しほっとした気がした。 僕はとりあえずネラードにお礼を言って、それから、ちょっとおしゃべりをした。 ネラードは僕を心配して、顔を見せにきたらしい。 あの男の子は無事らしい。 よかったよかった…… 僕はカッコよかった? ……あれ? ネラードの口元が緩んだ気がした。 笑ったな。 でも、ヘンなんだ。ネラードと喋っていると、今までより落ち着くんだ。けど、落ち着かないところも…… あと、よくは説明できないけど、前よりネラードが大きく感じる。 なんでだろう…… そんな違和感を感じながら僕はネラードに一言声を掛けた。 「遺跡行く前にどっか遊びいこ。奢るからさ」
ネラードは優しく微笑んで、一回頷いた。
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