魔導書・2( 2001/09/08)
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作者
そらしど
登場キャラクター
ドロルゴ




オランの街はずれある、周り より少しばかり孤立して立っている古い洋館。
先ほどまでの雨で古いという所が強調されてはいるものの、くずれるなどと言った言葉とは縁のない程の建物である。
その建物の一室では、ドロルゴが机の上におかれている様々な書類に目を通していた。
手に持っていた書類を机の上に戻すと、しばし目を閉じたまま上を向く。
その時、ドアをノックする音が部屋に響く。それから聞き慣れた部下の声。
「ギルドからのお客様です。」
「通せ。」
ドアの開く音のあと、部下以外に2人の気配が部屋の中に増える。
手近にある書類をいくつか裏返した後、近くの椅子に座るよう進める。
ドロルゴは机の上で手を組むと、その2人組に声をかける。
「・・・・今回はやけに早いではないか。私の部下がなにか迷惑をかけるような事でも?」
「きままに亭という酒場をご存じですね。」
ドロルゴはその一言ですべてを悟ったかのような、余裕の笑みを浮かべながら聞き返す。
「それが何か?」
「では単刀直入に言いましょう。あの店から手を引いてください。」
間髪入れずにもう一人が淡々と言う。
「きままに亭は我々ギルドが庇護している店の一つです。それを荒らされてしまうと、我々ギルドの信用に関ります。どうか手を引いていただけないでしょう か。」
シーフギルドに毎月定額を納めることで、盗賊が手を出さないようにしている店がある。
裕福な店や、信用第一の店などがギルドと繋がりをもって、品物や客の財産を守るのである。
そう言う関係をギルドと持つことは、けして容易なことではない。
ギルドの上の方にコネが無くてはいけないし、金銭的にもその他の事柄についても、それなりのものを用意しなければならない。
しかし、万が一庇護している店に盗賊が手を出せば、ギルドが面子をかけて始末してくれるのである。
もちろん、欠点もある。
派閥によってはこの仕組みを快く思ってない者達もおり、彼らにそれなりの物と理由を述べ依頼する事により、この仕組みは確実ではないものとなる。
このとき、ギルド側と依頼側による激しい情報戦が繰り広げられる事となる。
ドロルゴとギルドの情報戦は、この狭い一室で決着が付こうとしている。
「しかし、そう言われましても・・・それなりの金額をつぎ込んでいるので、それなりに見合うものがなければ我々としても・・・」
言葉は濁しても、目は笑ったままのドロルゴ。
見合うものが同等以上と思えなければ、このまま計画を進めるつもりである。

また降り出した雨が今度は風に乗って窓を叩く。

「それなりに見合うものですか・・・我々にそれを決める権利は与えられてません。出来ればこの話はまた後日と言うことで、それまでの間は手出ししないでい ただけないでしょうか。」
「よかろう、1週間後にまた来るがよい。」
「ご配慮、ありがとうございます。」
余裕から、勝ち誇った笑みに変わるドロルゴの口元。
それでもひたすら下手(したて)に出たギルド側の態度には、違和感を感じていた。
「ところで、話は変わりますが。」
そう、ここからが本題だ。
「最近ちょっと面白い物が手に入りましてねぇ。これなんですけど・・・・」
どこからか取り出した一冊の厚い本。
それを横にいる男に渡すと、慣れた手つきで表紙の厚みにナイフを差し込み、器用に表紙側だけをはがしていく。
ドロルゴの頬をつたう一筋の汗。
「いや、本当に良くできていて。よく見つかったなっていうくらいのデキでしてね・・・ここでこうナイフをひねると、裏表紙の方までペロリとはがれるのです よ。どうぞご堪能ください。」
ドロルゴの目の前におかれた表紙と裏表紙を取られたその本には、デカデカとこう書かれていた。
『惑う書  作バリオネス・クルード』
「お気に召したようで。どうぞ、お納めください。」
「それではまた次の時に。」
ドアが開き、そして閉じる。
が、ドロルゴは動かなかった。
目が、離れられない。

『惑う書  作バリオネス・クルード』

しばらくして音を立てて椅子から立ち上がり、窓から外をのぞく。
先ほどまで部屋にいた2人が、雨の中に消えていくのを確認してから。
机の上に置いたままの、その本を辺りの書類ごと手でなぎ払う。
物音に驚いた部下が部屋に飛び込んで来たのを見て、怒鳴りつける。
「アーベントを呼べ!!」
情けない返事をして、部屋に入ってきた時よりも早く動く部下を見送る。
そして床に落ちている本・・・『惑う書  作バリオネス・クルード』
何度も激しく踏みにじり、怒りをぶつける。
「あのクソガキめ・・・・」


数日後のきままに亭の裏庭。
ここで働いている3人の男が、頭を寄せ合って話している。
「おい、上から撤退命令が出ているぞ。」
「いまさらそんな事をいわれてもなあ・・・・従うけれどさ。」
「俺・・・・ここに残るよ。」
瞬間的に残ると言った男の顔に視線が集まる。
「何言ってるんだ!!」
「わかったぞ、お前・・・裏切る気だな!!」
「そ、そそそそそそそそそんなんじゃねぇよ。た、ただまともに働くのもいいかなって思っただけなんだよ。そ、それに3人一度にやめたら怪しまれるだろ う。」
顔を見合わせる2人。
しばらくして、一人が静かに言った。
「わかった。俺から上に掛け合ってやるよ。ただし、定期的にここの情報を流せよ。」
「お、おうよ。」
「お前とはガキの頃からの付き合いだったけどよ・・・お互い進む道は違っても、俺達は心友だよな!!」
「アニキ〜」
泣きながら抱き合う3人。
男3人抱き合う様を偶然にも見たミニアは、悪寒を感じて出るに出られずに困惑していた。

何はともあれ今日もきままに亭は平和であった。






  


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