4年前…(前編)( 2001/09/12)
MENUHOME
作者
高迫 由汰
登場キャラクター
ルギー、メリエル




その日は、酷い雨だった。


剣を習うようになって一年、最近になって学院を辞め、少しずつではあるが旅の仕度を整え始めていた。
師匠であるメリエルとも、旅先の打ち合わせなんかが進んでいて、後は両親が許してくれるがどうかだった。
未熟ではあるが剣も扱えるようになった、自分の夢は邪魔させない。
これでもまだ反対するのなら、飛び出す覚悟も出来ていた。
「あれ?」
雨避けのフード付きのマントを羽織って、いろいろ考えながら帰路についている時、ふと、自分の腰が軽いのに気付いた。
剣を習うようになってから、いつも下げていたショートソードがないのだ。
「…師匠の所にでも忘れてきたかな?」
先ほどまで、メリエルの所で歌の練習をしていたのを振り返り、考えてみる。
「思いつく所、あそこしかないもんなぁ」
ポツリとそう呟くと、ルギエルは元来た道を逆走した。

「師匠、師匠?」
どんどんと戸を叩きながら、呼んでみるが返事はない。
ノックをしても返事がなかったので、ルギエルはとりあえずとドアノブに手をかけてみた。
鍵はかかっていないらしく、ノブは簡単に回る。
かけてないのなら、勝手に入っても大丈夫だろうと、ルギエルは戸を空けた。
「師匠、俺ここに剣忘れていか…………!!」
言葉は、途中で遮られてしまった。
ルギエルの目に入ってきたのは、血まみれになって倒れているメリエルと、同じく血まみれになり、剣を持って座りこんでいる自分の母親だった。
「……なんで?」
どうしてこうなったのか、ルギエルには理解できない。
「…ファトラン…邪魔は消えたわよ…さぁ、家族三人で静かに暮らしましょうね」
血まみれのまま、自分を兄の名前で呼び、静かに微笑む母。
「母さん…なんで…」
何もかも、今目の前にある光景が夢であれと、必死に呟いていた。
「あなた、魔術の研究は上手くいってる?母さん応援してるのよ」
「何言ってんだよ、俺はファト兄じゃねぇ…それよりも、師匠を殺したのか!?」
殆ど発狂寸前の中、母親に詰め寄ると、
「馬鹿ね…まだ死んじゃいないわよ……」
聞こえてきた擦れたような声に、ルギエルはメリエルの方を見た。
まだ微かにだが、息があるようだ。
「…ルギー…」
母親から離れて、メリエルの元にかけより、抱き上げる。
一目見てわかるほどに出血が酷い。
それでもまだ、生きている。
「師匠?良かった……」
「ねぇ、ルギー…私がいなくなっても……歌いつづけなさいね………」
「何言ってんだよ…死ぬような事言って、待ってろよ、今医者呼んで来るから」
メリエルの元を立ちあがり、外へ飛び出そうとしたその瞬間、左足が異様に重くなる。
母親が、ルギエルの足にしがみついたのだ。
「何やってんだよ!!離せ!師匠が死んじまうだろうが!」
必死に振りほどこうとしても、信じられないような力でしがみついて離さない。
こんな親でも自分の母親だから、蹴る事も出来ない。
「何処へ行こうというの?折角あなたの邪魔をするこの女を殺したのに、あなたは何処へ行こうというの?」
「いいから離せ!!師匠が…」
「この女が悪いのよね、だからあなたは髪なんか伸ばして、歌なんか歌い出して、剣まで習い出して…魔術の研究がおそろかになってしまったのよね」
「俺は魔術師じゃねぇ!それは死んだファト兄じゃねぇか!俺はあんたの息子のルギエル…」
「何を言ってるの、私の息子はファトラン、あなたしかいないわ」
「………………………………………………」
完璧な、自分という存在の否定だった。
この人にとって、兄が死んだ瞬間、自分という存在は少しずつ消えていったのだ。
頭の中が真っ白になる中、メリエルの微かな息遣いで必死に現実に戻る。
そう、それどころじゃない。
「……………離せ!……っ……離してくれェ!!!!!!!!!!


その日は、酷い雨だった。






  


(C) 2004 グ ループSNE. All Rights Reserved.
(C) 2004 きままに亭運営委員会. All Rights Reserved.