4年前…(後 編)( 2001/09/12)
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作者
高迫 由汰
登場キャラクター
ルギー、ウィニー




「私、あの子をあの悪い女か ら助けたかったんです。ねぇ衛視さん?私、何も悪い事してませんよねぇ?」
降りしきる雨の中、くすくすと笑いながら、衛視に連れていかれる自分の母親を見ながら、ルギエルは呆然と立ち尽くしていた。
あの後店の店主が、ルギエルの叫び声に気付き、医者と衛視を呼びに行ったのだ。
「…………」
騒ぎを聞きつけて、野次馬達が集まり出していた。
学院で、唯一仲の良かったウィニーが、ルギエルの肩を軽く叩く。
かける言葉は…みつからなかったらしい。
メリエルは、結局助からなかった。
「なぁ…どうしてこんな事になっちまったのかなぁ」
暫らく呆然としていたルギエルが、重い口をやっと開いた。
本当はルギエルも、状況説明とかで衛視と一緒に行かなければならなかったのだが、店主とウィニーがそれを許さなかった。
衛視の方も、ルギエルの心境を察し、無理強いをしなかった。
ルギエルの言葉を聞いて、ウィニーは、なんとも言えない表情になる。
「師匠の所に、剣を忘れていかなければこんなことには……いや、……旅に出ようなんてしなければ、大人しく兄貴と同じ道をたどれば………そもそも7年前、 無理やり弟子入りしなければ!!」
「落ちつけルギー!自分を責めるな!」
「俺が……師匠を殺したようなもんだ……」
「!!おい!ルギー」
その言葉を最後に、ルギエルは倒れた。
あまりにも、衝撃的な夜だった。

この7年間、ベルダインに住んでいたのに、メリエルは自分の生国を人に話していなかった。
仕方なく、亡骸を故郷に帰す事を諦め、共同墓地に埋葬される事になった。
彼女の愛用していた古い小型のハープは、弟子であるルギエルに託された。

「やっぱりな、お前の考えてる事なんざお見通しだっつーの」
夜、ベルダインの外門の近くで待っていたウィニーは、近づいてきた人影に声をかけた。
近づいてきたのは、旅装束姿のルギエル。
「ウィニー、引止めに来たんなら…」
「引き止めるかよ、今のお前には、このベルダインの街は酷過ぎる」
「……ありがとう」
ウィニーの言葉に力なく微笑し、ルギエルは外に出ようとする。
ルギエルの小脇に、小型のハープを見つけ、
「お前、吟遊詩人で生活するのか?」
と、ウィニーは素朴な疑問を問い掛けた。
「いや、時々一人の時に歌うのに持ってきたんだ。人前では歌わない」
「まだ、修行中だからか?」
「贖罪だよ…師匠への…。絶対に人前では歌わない…もしかして自分が許せる時がきたら、その時は歌い出すかも知れねぇけど」
「……許せるか?」
「さぁね」
はぐらかしたようなルギエルの返事に、ウィニーはため息をついた。
この様子では、そう簡単に自分を許しそうにもないなと、そう感じたからだ。
「そのハープは、メリエルさんのか?」
「いや、俺のだ。師匠のは…しまってきた」
「そうか」
どうにも、会話が続かない。
「ルギー、落ちついたら、手紙ぐらい出せよな」
「…あぁ………」
短く返事をすると、またルギエルは歩き出した。
「なぁ、ルギエル…」
「その名前では呼ばないでくれ、俺は『ルギー』だ。これから、ずっとな…」
そう言って、去っていく彼の姿を、ウィニーはひたすら見送った。

それから4年後、彼はオランに到着する。






  


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