4年前… 〜509年7の月、18日 メリエルの部屋にて〜( 2001/09/12)
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作者
高迫 由汰
登場キャラクター
ルギー、メリエル




「ルギーったら、剣忘れて いったのね」
テーブルの所に立てかけてあった剣を見て、先ほどまでここで歌の練習をしていた弟子を思いだし、くすりと笑うとその剣を扉の方に置きなおした。
取りにきたらすぐに持っていけるようにだ。
下の酒場で歌うには、まだ時間がある、彼女は部屋の奥にある机に向かった。
机の上には地図とランプが乗っていた。
(東の方に向かう前に、西をまわって見たいって言っていたから…旅に出るとしたら、目的地はザーンね)
そんな事を考えながら地図を見る。
7年ぶりの旅は、それこそ彼女の心を躍らせた。
「多分、ルギーより私の方が楽しみにしてるわよね」
そう、一人呟きながら苦笑する。

コンコン

メリエルの耳に、ノックの音が聞こえた。
「ルギーでしょう?鍵空いてるから入っていいわよ」
振り向きもせず、メリエルは部屋に入るよう催促した。
「あんたの忘れた剣なら、扉の所にあるわよ」
扉の開く音を聞きながら、メリエルはあくまで視線を地図から離していなかった。
が、あまりにも沈黙が続くので、いい加減振り向いてみた。
「ルギー?…!」
そこには愛弟子ではなく、中年の女性が、壁に立てかけてあった剣を鞘から抜いて突っ立っていた。
一度だけ会った事がある。この人は間違いなく……。
「……………ルギーの、お母さん」
虚ろな瞳で、彼女はメリエルを見つめていた。
その姿を見ながら、ゆっくりとメリエルは立ちあがる。
「貴方さえいなければ、ファトランはあんな事を言い出さなかったわ」
「ファトラン?あの子はルギエルでしょう?彼方の息子の」
「ファトランは、立派な魔術師になる為に頑張っていたのよ?」
彼女の目を見て、メリエルはこの7年間ルギエルが、家族を自分と会わせたがらなかったのかがわかった。
この人は、自分の死んだ息子と、ルギエルが混合しているのだ。
「違います!あの子はルギエルです!死んだ息子さんじゃない!」
「あの子の邪魔をしないで」
「ルギエル自信を見てあげて!」
「あの子は立派な魔術師になる為に頑張っていたのに」
「ルギーは魔術になんてなりたがっていない!あの子は……………」
言いかけて、自分の体に冷たい感触が感じられた。
それからすぐ強烈な痛みと、酷い熱さ。
「……………………………………」
自分の腹部から、血が流れている。
剣が、体にのめりこんでいた。
剣が引きぬかれると同時に、メリエルは倒れた。

(馬鹿な私、剣を抜いてるんだから…これくらい想像ついたのに)

「ファトランの邪魔をしないで」

(つい、頭にきて………)

ドンドン

「師匠、師匠?」
扉の向こうから、ルギエルの声が聞こえる。
剣を取りに戻ってきたのだろう。

(全く……間の悪い子)

心の中で毒付きながら、メリエルは白濁していく意識の中、扉が開かれるのを見た。






  


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