ピルカの日記
( 2001/09/25)
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作者
やまだ
登場キャラクター
なし
薄暗い部屋の隅で、少女は膝 を抱えてうずくまっていた。
その小さな体をさらに小さくうずめ、時が過ぎるのを待った。
こんな場所には場違いなほど幼い少女、だがその耳は人間のそれより微かに尖っている。
彼女はグラスランナーなのだ。幼く見えるが、立派に成人している。
妖魔が巣食う鉱山の一室。かつてそこは鉱夫たちの休憩所だったのだろう。
一通り休む設備は整っていた。だが、とても休む気になどなれなかった。
「あたし達は鉱山にコボルドを退治しに来た・・・ハズなのに・・・なんでこんな事になっちゃったんだろ・・・?」
膝を抱えたまま視線を床に移し、誰にともなく呟く。
だが、部屋の中に彼女の呟きを聞く者はいなかった。
所々切り出され、ごつごつとささくれ立った岩肌。寒い、と彼女は思った。
する事もなく、身体を動かす事すら気だるい。
うずくまりながら床の亀裂を目で追っていくと、何かを書き付けた羊皮紙の束が目に入った。
それは日記だった。鉱山に入った時に書き始めた日記。
妖魔に捕えられ、武器は全て奪われてしまったが、日記だけは書くことを許された。
もっとも、妖魔にはそれが何であるかは分からなかったのだろう。
だから日記だけが手元に残った、と言ったほうが正しいのかもしれない。
「・・・いつまで書いてたんだっけ・・・?」
まだ鉱山に入って数日しか経っていないのに、何故だかとても懐かしい事のように感じられ、
彼女は日記に手を伸ばし、ぱらぱらとページをめくった・・・・・・。
七の月 五の日
コボルド退治の依頼でエストン南部のザルム鉱山に来た
ルイン、シムズ、ユーリ、メリープ、サムソン、それからあたしの6人。
コボルド達をやっつけて、依頼の方も順調順調♪
でも、鉱山が意外と複雑な地形だったから、ユーリとサムソンが皆とはぐれちゃって大変な事に。
二人を探しに行く途中、あたしも地震の落盤で穴に落っこちちゃってみんなと離れ離れ。
傷を負って気を失ってたみたい。足も挫いちゃって動けなかった。
そんなあたしを助けてくれたのは、片耳がちぎれたコボルドだった。
最初はあたしも信じられなかったけど、このコボルドは他でもないコボルド達のリーダーで、
東方の言葉が少し分かるみたい。どうやらオルガっていう名前みたいだけど・・・。
七の月 六の日
鉱山の奥には小さなコボルドの集落があって、あたしはそこの一室に入るように言われた。
仕方がないから部屋の中で大人しくしてると、オルガが入って来てあたしと話したいって。
あたしはオルガにベルダインで習った子守り歌を歌ってあげた。
歌い終わると、今度はオルガが昔話にと、自分の主を殺し、目的のためにコボルド達を使役する
一人の魔術師の事を話してくれた。
そして捕らえたあたしの解放を条件に、その魔術師の命を奪うよう仲間達に頼むつもりだってことも。
でもどうして、あたしにそんな事話してくれるの?
七の月 七の日
ルイン達がこのコボルドの集落に連れて来られたみたいで騒がしかった。
オルガがちょっとだけみんなに会わせてくれたから、少し元気が出てきた。
みんな意外と元気そうだったからホッとしたけど、やっぱりユーリとサムソンがいないのが気になった。
今日はメリープと一緒に眠った。あったかくて、少しだけミラルゴの母さんを思い出した。
母さん、今ごろどうしてるかな・・・?
七の月 八の日
・・・ここに閉じ込められて3日経った。狭い部屋ってホントに退屈。
クーナじゃないけど、これじゃ狭いところキライになっちゃう。
お昼近く、コボルド達がなんだか騒がしかった。なんだろ?
身を乗り出して覗いてみる。
良く見ると、ルインとメリープとシムズが、戦いの支度をしてた。
そっか、もう出発するんだ・・・。
もしかしたら途中でユーリとサムソンにも合流できるかも知れない。
オルガを見たら、二人はビックリするだろうけど。
あたしも一緒に行きたいけど、そーゆーワケにもいかないみたい。
相手は、コボルド達を脅えさせて、服従させるほどの力を持った魔術師なんでしょ?
みんな、本当に気をつけてね・・・。絶対戻ってきてよ。
ユーリ・・・サムソン・・・。どうか無事でいて。
日記はここで終わっていた。彼女は全て読み終わると、深いため息をついた。
何かをしたくても、何も出来ない。ただ待つことしか出来ない事が苛立たしかった。
だが、信じようと思った。自分のために必死に戦っている仲間を、
そして鉱山のどこかで自分の身を案じ、探してくれている仲間を。
彼女はおもむろに散乱していた羽根ペンとインクを拾い上げ、日記に何かを書きつけようとした。
その手が、不意に止まる。
この日記の続きは、みんなで無事に帰れたときに書こう。
そう決めると、羽根ペンをそっと日記の最後のページに挟んだ。
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