妖魔退治・前編
( 2001/10/25)
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作者
ともりん
登場キャラクター
ポンザ・メリルアネス・アルファーンズ、デ リュージャン他
オランの街郊外に、大量のゴ ブリンが出現した、と噂が流れてきたのは、今年の9の月半ばのこと。
エー セルの勤めるラーダ神殿にも噂は舞い込んできていた。癒しを求め神殿に来る人、特に東からの旅人の中に、ゴブリンの集団を見たと証言する者もあり、噂はま すます信憑性を増していった。その上、9の月下旬には、衛視からのゴブリン退治依頼が各酒場に張りだされ、それぞれの神殿にも正式に依頼が来た。
「ゴブリンの群れ、ですか……街まで来なければ良いのですが……」
その日の勤めが終わり、軽く身体を伸ばしながら呟く。時間は夕刻から宵の口に差しかかろうという頃だ。気の早い者は、そろそろ酒場に繰り出して飲みはじめ る時間である。エーセルもまた、人波に沿って家路を急いだ。
<まずは仲間さがしから>
その夜、エーセルは酒場に顔を出した。この酒場にも、やはり妖魔退治依頼の貼り紙が貼ってある。内容は神殿で聞いたものとほとんど同じ、ただ報酬が追記し てある位の違いしかない。思案顔をしてカウンターに座ると、同じく妖魔退治の話をしている人達がいた。
「あの……妖魔退治の話をされているのですか?」
「うん、まーね。危険だけど報酬も良いし、受けよっかなって話してたところなんだけどね。」と、サークレットを額に当てた黒髪の少女がエーセルに答える。
「うん、あたいはやる気なのね」
と、これは女ドワーフが呟いた言葉。
「俺もやるぜ。せっかくの仕事だ、受けなきゃ損だろう?な、メリル?」
金髪の少年が、黒髪の少女にそう言って笑いかけた。
「わたくしも、その話に混ぜていただいてもよろしいでしょうか?」
こうして、ゴブリン退治を目指す冒険者のパーティーが一つ誕生した。自己紹介や自分の技能などを話しあい、自分達の力のより方とその対策を練る。
「やっぱり、魔法使いが少ねぇよな。俺も、古代語は分かるけど魔法はさっぱりだからなぁ……」
少年・アルファーンズがそう問題提起する。メリルとアルファーンズに呼ばれていたメリルアネスも、その意見には頷く。
「魔法使いがエーセルしかいないのが痛いね。誰も精霊を使えないのも、いざというとき辛いだろうし……」
「数が多すぎるのね。数匹だけだったら、あたいが軽くやっつけちゃうのね♪」
ドワーフの女戦士ポンザがそう言って、逞しい胸をぽんと叩いた。
とにかく、魔法を使えるのがエーセル一人、と言うのは、どれくらい数がいるか分からない上に相手はゴブリンだけとは限らない状況においては不安の種でしか ない。だから魔法を使える仲間を増やそう、と言う一致した見解に辿り着いた。
<仲間を増やそう>
衛視の出した冒険者募集の期限は、9の月末日までだった。彼等がパーティーを組んだのは9の月半ば、ならばまだ期間はある。
冒険者を捜すのなら、やはり冒険者の集まる酒場が一番いい。彼等はほとんど毎日、自分の事情の許す限り酒場に顔を出し、妖魔退治に興味のある冒険者を仲間 に加えようと動き始めた。
そんなある日のこと。いつものように酒場で飲んでいたメリルアネスは、銀髪碧眼のエルフ、ノヴァに会う。今まで話してきた人より手ごたえがある……そう 判断したメリルアネスは、事情を話し仲間に加わってくれるようそのエルフに頼んだ。
「……分かった。野伏としてなら、参加しよう。」
こうしてまず、エルフの野伏ノヴァが仲間に加わった。
ノヴァが仲間に加わってから2〜3日して、とある酒場のテーブル席で世間話をしていたポンザは、たまたま同席したクリスという精霊使いの少年を仲間に加 えることに成功した。
時をほぼ同じくして、別の酒場に行っていたアルファーンズは、かつて偶然隣に座り同じ種類の酒を好んだことで意気投合したデリュージャンと再会し、彼をを 仲間にした。彼は他にメンバーがいるなどと言っていたが、他のメンバーが依頼を辞退してしまい、途方に暮れていたという。
もうそろそろ日付が10の月に変わる頃、神殿で勤めに精を出していたエーセルは、たまたま神殿に来ていたレオンと接触し、同行を願った。「久しぶりに面 白そうな話があったな」と、レオンは二つ返事で同行を承諾した。
<依頼請け負いと顔合わせ>
9の月末日近くの昼下がり。エーセルとポンザは衛視の詰め所にいた。ようやく集まった仲間達を、ゴブリン退治を請け負う者として登録しなければならない からだ。
「ほぉ、ゴブリン退治を受けてくれる冒険者がいるとは……冒険者は腑抜け共ばかりだと思っていたが、中には骨のある奴もいたんだな」
ぶしつけにポンザとエーセルを見、あからさまな嘲笑の響きを隠そうともせずに受けつけの衛視はそう言い放った。額に青筋の立ちかけたポンザを制し、エーセ ルはただひたすら無表情で事務処理を続ける。
「総勢8人、代表者エーセル。われわれ衛視の出した依頼にて、ゴブリン退治を引き受ける者、と。
さて、これで契約は成立した。あとは、大体かたづいた頃にもう一度だけ顔を出すように……その時の受けつけが、俺じゃないことを祈っているぜ。」
吐き捨てるように衛視が言い、手で二人を追い払う仕種を見せた。ポンザは、心境がそのまま現れたかのような歩調でずんずんと詰め所を出ていく。エーセルは 一応、形だけの礼を施してからポンザの後を追った。
その後、二人はまっすぐ酒場に向かった。
「ひどいと思わないのね、エーセル?!あたいたち、あーんな奴等の道具にしか見られてないのね!?」
「仕方のないことでしょう?わたくしの勤めるラーダ神殿内でも、冒険者は良い扱いを受けておりませんから……」
ポンザは相当頭に来ていたらしく、さっきの衛視への不満を並べたてる。が、思い付くままの悪口を吐きだしてしまうとすっきりしたようで、好物の酒をあおっ たのも手伝ってか、酒場から出る頃にはすっかり陽気なポンザに戻っていた。
「あ……ポンザさん、わたくし今日は酒場に行かれそうもありませんから……今日は顔合わせの日でしたよね?事務処理は終わったとみなさんにお伝えいただけ ませんか?」
「分かったのね♪……神官さんは大変なのね。」
しみじみとそう言ってポンザはエーセルの肩をポンと叩き、伝言を確かに承ったと約束した。
その日の夜の酒場に、ゴブリン退治を受けた冒険者の大体が顔を合わせた。初期メンバーの4人が、それぞれ知りあった仲間に、そのように声を掛けていたか らである。まずポンザが、衛視詰め所にてひと通りの手続きを済ませたことを告げる。
「そうか、エーセルは来れないのか。仕方ないな、仕事なんだし」
ポンザからエーセル欠席の話を聞いたアルファーンズがそう呟いた。
「エーセル……片目を隠したハーフエルフが、確かそのような名前だったが……?」
「うん、そう。なーんだ、エーセルのこと知ってたんだノヴァ。」
ちょっと悔しそうにしながらも、顔を知ってるなら紹介する手間が省けるわね、とメリルアネスは続けて、上機嫌な様子でラキスをあおった。
「そのエーセルってやつ、ハーフエルフなのか?それで神殿勤めか、珍しいやつもいたもんだな。」
デリュージャンが感想を述べる。
「いや、生い立ちを聞いてみた。魔術師の家に生まれて、勉強をしていたら神の声が聞こえてきたそうだ。」
ぽそりとレオンが付け足す。この場にいるレオン以外の全員が誰ともなく顔を見合わせたのを見て、レオンは慌てて付け足した。
「悪い、俺の発音、ちょっと聞き取りにくいかもしれない。」
「いや、聞き慣れない訛りだったものだから、どこの出身なのかと思って。大丈夫だ、十分分かるって」
アルファーンズが慰めるように言って、自分より上背の高いレオンの肩に手を乗せる。
などと話している間じゅう、クリスは戸惑ったようにそれぞれの顔を見回していた。気づいたポンザが気遣わしげに声を掛ける。
「あれ、どしたのね?気分悪いのね?」
「いいえ、そうじゃなくて……あの、こんなにたくさん人がいるなんて、思わなかったから……」
「あ、そんなこと心配してたのね?だいじょぶだって、みんな優しいはずなのね♪」
こっそり耳打ちしてウィンクを返したポンザに、クリスはぎこちなく微笑みを返した。
<出発>
9/30深夜、もう10月にさしかかろうとする時間に、彼等8人は再び酒場に集まった。なるべく早めに現地に着きたいという心の現れである。
「さーて、全員集まったようだな。」
デリュージャンの言葉に、全員が頷く。
「道中の道案内は任せてなのね♪んじゃー、そろそろ出発するのねー☆」
ポンザの号令に否を唱える者はなく、こうして冒険者8人はゴブリン退治に向けて出発したのであった。
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