剣の国の剣( 2001/10/25)
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作者
SSS(TRIes)
登場キャラクター
ロッソ




ここはオーファン。別名剣の 国。さらに言うなら、その剣の国のとある工房の入り口。三十歳を少しすぎたと思われる無精ひげを生やした男が、入り口を訪れた。その背には曲刀、腰には小 剣。そして、上着の下に見えるのはおそらく皮鎧。


「こりゃまたずいぶん使い込んだようだねえ。こんな痩せ刀そうそうお目にかかれ
ないよ。どれくらい使ったんだい?」
この工房の主・・の自称一番弟子という男が聞いてきた。私と同年代くらいであろうか?
「おおよそ8年ほどであるかな?といっても本格的に使い込んだのは、5年ほどだ
が」
おもえば、よく8年間も持ったものだ。何気なく買い求めたものだったのだが。
「ふんふん。腰が曲がってないのがさすがだよ、あんたわかってるねえ〜」
曲刀の反りを見ながら感心している。
「だてに長生きはしていないのでな。それより、この仕事受けてくれるかな?」
引き受けてもらえねば、ここまで来た意味がないのだが・・
「ああ、まかせな。とびきりよく切れる一本をあんたのために打ってみせるぜ!」
「それを聞いて安心した。感謝する。形状はそれと同じでいい。可能ならばより長く、反りは浅く・・。」
旅の間考え続けた形状を思い浮かべながら、説明する。
「了解だ。材質は銀なんかどうだい?俺は銀細工も得意なんだぜ」
むぅ、そうきたか。
「いや、良質の鉄でよい、細工も結構だ。」
悪いが・・・路銀が持たぬ。
「そうかい?あんたならそれくらい持ってもおかしかぁねえだろうに・・。」
残念そうにぼやく・・。許せ。
「武器に頼るうちは一流とはいえぬよ。真の剣士は武器を選ばぬのだよ」
半分本気だが・・・やはり武器は大事だ。
「そうかい?まあ、嫌でも頼りたくなるようなのを作るから期待して待ってな!」
「期待しておるよ」
心からそう思う。
「おっと、あわてるなよ。あんたの名前聞いてないぜ?」
おっと、そういえば・・
「これは失礼。私はロッソ。」
軽く会釈しておく。
「ロッソ?OK!覚えたよ。俺はウオードってんだ。二週間後にとりにきてくんな!」
・・二週間。ここまでの長さに比べれば、どうと言うことはない。
「・・・楽しみにさせてもらうよ。では・・・」
・・・工房内では今も多くの職人が働いておる。ここならば・・・期待できる。ルイン殿には感謝せねばな・・。
「じゃあな、ルッソの旦那!」
・・・期待していいのだろうか?いや・・冗談だろう。うん、そう思おう。
不安だ・・・。二週間・・・・長くなりそうだ・・。


そしてあっという間の二週間がすぎた。


「2週間きっかりにくるたぁ、旦那も心配性だ。心配しなくても三日も前にできてるって」
ウオードが陽気な声で告げる
「・・・そうか。ありがたい」
なればなぜ三日前に伝えなかったのかは、あえて問うまい。
「おい!カーキ!旦那の剣をもってきな!」
ウオードが工房の弟子に声をかける
「旦那の剣って・・・ロッツの旦那ですか?ちょっと待ってください!」
そういって少年は奥へと消えた。
ロッツ・・・腐敗物かなにかか?私は・・。
「馬鹿野郎!ロッツたぁなんだ!失礼にもほどがあるぞ!」
カーキと呼ばれた少年を怒鳴りつけ。鞘に収まった剣をとる・・。
「・・そのラベル作ったのウオードさんですよ!」
カーキが反論する
「いやいや・・・気にはしておらぬよ。」
本当は気にしておるのだが・・・。それよりも剣が気になる。
「ん?そうですかい?いや、旦那がそう言ってくれるなら、俺はいいんですがね」そういってカーキに仕事に就くよう目で合図する
「・・・あれはウオードさんが・・・」
納得いかないようにぶつぶついいながら少年は奥へと消えていった。
「・・全く口のへらねえガキなもんで・・・」
そういいながら刀身を抜く。一瞬光が走った様に見えたほどに・・・その剣は美しかった。
「おお・・これは・・」
思わず感嘆の声が漏れるほど見事なできばえ。まばゆい輝き。鏡面仕上げか!?
いっぺんの曇りもない刀身。長く、反りは緩やかに、柄はやや細く・・。注文を余すところ無く再現した一振りがあった。
「どうだい?こいつは俺の打った曲刀の中でも三本の指にはいるぜ」
三本の指・・さもありなん・・。見事の一言だ。
虚飾を廃した実用的な作りも、気に入った。
「なんせ、曲刀は三本しか打ったことねえんだからよ!ははは・・」
・・・・気のせいか・・・刃に乱れが見えたような気がする・・。いや、気のせいだろうが。
「・・気に入った。文句はない」
軽く振ってみて手応えを確かめる。長さが増していながらも、重さが依然と変わらないとは・・・。これが匠の業というものか。
「こいつはちょっとやそっとじゃあ、手にはいらん逸品だぜ。ま、はるばるここまで来たんだ。期待はずれにさせるようなことはしねえよ」
得意げに話すウオードの弁も、この剣を前にすれば、天の掲示のごとく説得力のある言葉へと変貌を遂げる。オーファンまで来てよかった、いまこの瞬間ほど 思ったことはない。
「そうそう、旦那の名前を刻んどいたぜ。なに、サービスだ。」
・・・名前を刻んだ・・だと?
ルッソだか、ロッツだかしらぬが・・それをこの剣に?
せっかくの剣に間違った名前を刻み込まれようとは・・。喜びも半減ではないか・・・。
「刃の根もとんとこだ。いや〜旦那は名前が短いから楽だったぜ♪」
気持ちが沈んだときは、人の笑顔が憎らしくなるものだな・・。
・・・ん?・・根本に刻まれた文字・・・ぬ?・・ロッソ・・・と刻まれていた。
「・・ふふ・・ははは。これは一本とられたな。」
まったく。からかわれておっただけとは。
普段なら気分を害するであろうが、何故か悪くない気分だ。それだけこの剣のできが、すばらしくよいからだろう。
「お?気にいってもらえたみたいで。いや、そういってもらえると俺もうれしいですぜ」
「うれしいのはお互い様だ。礼を言う。」明日には出発できるな。
「旦那。また来てくださいよ。作ったものの面倒は最後まで見ますからね!」
「ああ・・またくるよ。世話になった。また、会える日を楽しみにしていてくれ」
・・・うむ、やはりこの重さがないとおちつかぬ。二週間ぶりの重量感はただ心地よいばかりであった
いこう、オランへ!皆どうしているであろうか。ほんの短い間であったというのに、とても懐かしい。


翌日、ロッソはオーファンを立った


「馬鹿野郎!名前を間違えて刻んだだとぉ!」
工房内にウオードの叫びが響く。
「すいません・・・。でもわざとじゃ・・」
カーキが怯えながらもこたえる。
「あったりまえだ!わざとやられてたまるか!このくそぼけが!あれほどラッセルっていっただろうが!」
こだまする怒号が工房の空気を振るわせる。
「・・・さっきはロッシって・・・」
小声で反論するも、一にらみで一蹴される。
「・・・・まあ・・いいだろう。何故か旦那はご満悦だった。勘弁しておいてやる・・」
「・・・は・・はい・・。でも・・あの人確かにロッソって・・・・」
「まだいうか!このたこが!さっさと仕事にもどりやがれ!」ひときわ大きく怒鳴ったあと、ふぅ、と息をつく。
「・・は・・・はい・・・」
カーキは再び工房の奥へと消えていった。
(あれ・・・そういえば・・・ロッソ・・だったかな?・・・う〜ん・・・そういわれてみれば・・)
解けない疑問を抱えたまま彼も仕事へと戻っていった。


「ふえっっくしっ!」
秋空のもとロッソが豪快にくしゃみをする。
「・・・オランを出たときはまだ夏の暑さが厳しいときであったが・・・・。季節はすっかり秋か。
そして向こうに着く頃には冬・・・。再びこの地を踏むときは・・・どうなるのであろうな。
ふふふ・・私のことを忘れた者も多いだろうな。そういえば、あのときの店員は・・・」


もはや心はきままに亭のカウンターであった。






  


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