「在る物」「無 い物」( 2001/09/02)
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作者
執筆:magisi、おまけの加筆:ほっしー
登場キャラクター
ターレス=アトム、ライニッツ=トラム




(賢者の学院にある蔵書室の 一つにて、見習いに成り立ての若人であったライニッツをひっつかまえた初老の研究者の語り)

まま、座りたまえライニッツ君。立ったままと言うのも疲れるだろう?君はまだまだ若いだろうが、私なぞ立ったままで暫く居ると腰に来るものでねぇ、まった くもって如何ともし難い。満足に私の話を聞いてくれる若者も近頃をめっきり減って……、うーん、小五月蝿いのかなぁ?
と、そんなことはどうでも良いな、すまんね。
(椅子にライニッツが座るのを見て)さて、話を始めようか。

「充実体」と「虚空」とが万物の「構成素」であり、前者は存在であり、後者は非存在である。
しかし、「虚空」が存在するというのは、「充実体」が存在するということに劣らない。
また、「充実体」は非常に微小であり、もはや分割不可能な物であり、「不可分体」とも呼ばれる。
そう、即ちこれが存在世界の構成素たる「マナ」と呼ばれるものだ。
日の光の中にただよう塵のように、「虚空」の中にただようさまざまな「マナ」のランダムな運動だけがあったのであるが、それらが互に衝突しあい、しだいに 渦流を生じて、さまざまに結集し、多様な物質が出来て来たのだよ。
そして、すべての存在は、この「マナ」の種類や配列、向きの違いによってのみ区別される。
たとえば、AとNとは種類により、ANとNAとは配列により、Hとエとは向きにより区別される。
この理論を通すなら、始原の巨人とてその例に漏れるものでは無い筈さ。5柱を成す神も、あまたの力を司るといわれる精霊たちにしても、また、然り。
何故なら、それらは決して非存在ではないのだから―――


―――というのが私がマナ・ライ最高導師の書から学び取っている理論だ。人によってはかなり解釈も違うのだろうけど。

「……え……と………ん……?(難しい顔であれこれ考えている)」

おやライニッツ君、頭を抱えてしまったね?無理も無い、私だって君ぐらいの年頃には何言われてるのだかさっぱり………という所だったよ。最高導師様の書に ならって言葉と動きを真似るのが関の山で、自分の意見を纏めるなどと言う事は殆ど無かったものなぁ……。
―――いや、実は齢40を数えても殆どはそうなんだがね?(笑)

(励ますように)さぁ、もう少し簡単に考えてみよう。
此処に一枚の紙切れがある。こいつを半分に切って、それをまた半分に切ってまた更に…、目に見えなくなってもまだずっと切りつづけていくことができるとし たら、どうなると思うかい?

「(やや難しい顔で)ええと……、無くなってしまうのでは……?」

―――ああやっぱりそう思うよね。それは仕方ないんだ。
何せ、目に見えなくなった時点で私たちには「無くなっちゃった」としか取れないものだしね。
…ところがどっこいだ。「無」に「無」を足してみてごらん?何かでてくるかい?
ほら、何かひとかけらでも「有」が無い限り、無は永遠に無のままだ。
もし、存在である紙切れの最小単位が「無」だったら、どんなにそれが集まったところで
非存在―つまり紙は存在し得ない―こうなると思わないかい?

「(何と無く解って来た様な…微妙な表情で恐る恐る)……つまり、幾ら細かく見えない位まで切っても、紙は紙として存在している……と?」

(頷いて)その通り。世の中の「存在」あるものは全て何かしらの最小単位の寄り添いで出来ているんだよ。
その最小単位の総称を、発見者のマナ・ライ最高導師の御名で呼んでいるっていう訳だ。
ここまでは良いかな?

「(何かを考えていた様子だったが、聞かれているのに気付き)………あ、はい」

ああ、それは良かった。かなり大雑把だけれど私はどうも相手に自分の考えを伝えるのが苦手でねぇ…。あぁ、こんな事はどうでもいいんだった。さっさと次に 行こうかね。

「存在」について分かったなら勿論今度は「非存在」についてだなと言うのは予想もつくね?
この世界の中で、むしろ存在し得ない物の方が大きな役割を果たす事も在るって言うのは解るかな?
例えば、先ほどの『マナ』に働きかける時の事を考えてごらん。
「言葉」「精神」「動き」 ほら、どれも形を成さないものだ。目に見えないものだ。

「(真剣に聞いていたが、ふと思いついたような感じに)…でも、「動き」って見えるものじゃないんですか?例えば………、(椅子から立ち上がって)ほら、 こうやって歩いたら動いている事が解りますよ?」

―――うん、これはなかなか鋭く突っ込んでくるね。興味を示してくれたようで嬉しいものだなぁ(嬉しそうに一つ頷き)
ほら、座りなさい。また話をはじめるから(微笑)

「動き」の一つ一つは確かに目に見えるものなのかもしれないけれど、その「動き」全てを一度に表す事は出来ないだろう?過ぎ行く「時間」というものに縛ら れている限りそれは在り得ないんだ。
だから、これは「非存在」に分類されているんだね。…これも、否と唱える人間も多いけれど私はそう解釈させてもらっているよ。
有名な言葉もあるよね、君も知っているだろう?教本に良く載っているあれだ。
”to me den to den”《ないものは、あるものにおとらず、ある》
これを忘れちゃぁ、マナの編成を変えて魔法を行使する事は出来やしない。
「存在」の構成を変化させるほど働きかけられるのは実は”非存在”なのだから。
「存 在」であるマナに働きかけてその組換えを行ってやる時、私たちの「不存在」である精神は酷く消耗するね?大きな力を紡ぎだそうとすればするほど如実に披露 困憊する。これが何よりの証拠じゃぁないかなぁ…と、この辺りはまだ君には実感ではないのだったね。まぁ、もうちょっとすれば身にしみるよ。(笑)

(気を取り直した風に)そうだ、ちょっと訪ねても良いかな?君は「光」って言うのは「存在」と「非存在」のどちらに分類すると思う?

「……(少し考えて)……目には見えますよね……。……でも形が解らない……。…………どっち………だ………?(考え込む)」

―――そうだよね、目には見えるけれど決して形としては無い。とても、迷う所だよねぇ。でも、私はこれを「存在」に区分しているんだ。
似たような物に「水」とか「空気」がある。「水」は「存在」という事はもちろん解ってくれるね?
あれは明らかに形があるからねぇ。凍らせてしまえば一発だ。
だったら「空気」は?というとね、これも案外簡単なんだ。水を通さないような皮袋を思い切り
振って、入り口を手で抑えて御覧?しっかりと膨らむよね?もちろん、開けたって何もでてきやしない。
その中身は他でもない、空気なんだ。(当たり前じゃないか…と言う顔のライニッツ)………はは、馬鹿にしてる訳じゃ無いって(笑)。
とっても重要な箇所なんだからそんな眉をひそめないで聞いておくれなさい。

「(ターレスを不思議そうに見ながら)…………はい」

(一つ頷き)よし、続けるよ?……こう言うふうにして、どんな形であっても「見える」ものは全て「存在」なんだよ。
「光」にしたって壁でさえぎる事もできれば分厚いガラスで集める事も出来るだろう?そして、「存在」である限り『マナ』の集積であると思うんだ。
現実に『ライト』の呪文は存在しているし、私が「光」の研究に執心した原因の古代の玩具もまだ立派に動いている。
(立ち上がって懐から黒い物体を取り出し)この玩具みたいに、「光」の色を自在に操る事が私の大目標なんだ。
昨日かかっていたような見事な虹が自分の手で作り出せたら―――ほら、憧れちゃわないかい、ライニッツ君?

「(素 直な瞳を輝かせ、ターレスを見上げながら、悪意の感じられない口調で)ええと、私には経過……つまり、マナの研究の為……と言うのにはとても意義があるよ うに思えます。師も似たような事を言っていましたから。ですが一つ疑問が……。結果……つまり、虹の作成……と言うのには意義があるように思えません。何 で『そんな事』なんですか?それが憧れの持つ部分なのですか?何か他の……別の題材ではいけないのでしょうか?」

―――そ、そんな、そんな事って。(『そんな事』の辺りで既に多大なショックを受け、その場に立ち尽くす)

「(呆然とするターレスに近づき不信そうに)……あれ?ターレスさん?(体を手で揺すりながら)ターレスさん?
(困り顔で)……如何しよう。もうそろそろ魔術の講義が始まるのに……。………(意を決して)いいや、行こう!導師様に小突かれたく無いし」
(ライニッツは部屋を去り、後には立ち尽くすターレス一人)



(研究室の窓から、ぼんやり空を見上げながら)うん、ライニッツ君はマナの重要性については理解してるんだな………、さっきの話を理解できていたのだか ら。…彼の師はキチンと彼にその辺りを教えたようだねぇ。
(ふと)でも彼には、研究者の心境について教授はしなかったのかなぁ…?(段々落ち込み気味に)此処の研究者なんて、結構こんなものなのに……(暫くぶち ぶち呟き続ける)。
(更に時間が経過後、何かに気付きハッとして)……ひょっとしていい加減なのは私だけ―――?(愕然とした表情)

(虚ろな目で見上げるオランの空は、何時に無く青々としていた……)






  


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