妖魔退治・中編( 2001/11/22)
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作者
ともりん
登場キャラクター
クリス、ノヴァ、レオン、エーセル他




グロサルム山脈への道中。

山脈までの道を知っているのは、自己申告の上ではポンザのみだったので、一行はポンザを先頭に街道を進んでいった。季節はそろそろ秋まっ盛り、街道沿いに 植えられた広葉樹も、半分くらいが色付き始めている。
「綺麗だなぁ……」
ぽつりと、思い出したようにクリスが呟く。
「……植物の精霊達が、冬支度を始めているよ……」
「そうだな。また、次の春を迎えるための準備というやつだろう。」
パーティーを組んで顔合わせをした後、これだけの人数が集まれば当然なのだが、幾つかのグループができるようになっていた。もの静かなクリスと自ら進んで 語ろうとしないノヴァは、ウマが合うらしい。同じ精霊を感じることができる、と言うのも大きな要因の一つだろう。
「でも、この綺麗な景色のどこかに、大量のゴブリンが潜んでいるかもしれないんでしょ?そう考えると、景色を見て呑気に綺麗だね〜、なんて言ってられない よねぇ。」
「確かに……これだけ木々が密集して生えていると、奴等の姿を見つけにくくなる。」
「景色ばっかに心を奪われていたら、不意打ちだって喰らいかねねぇな。ま、優秀な野伏二人が何の反応も示さないんだから、今の所は大丈夫だと思うけど よ。」
メリルアネスとアルファーンズが口を揃えて、クリス達の感想に反論する。一瞬流れかけた険悪な雰囲気をやわらげるのは、大抵デリュージャンの役割だ。
「それより……ポンザ。グロサルム山脈は本当にこの方角で良いのか?俺は、どうも間違っている気がするんだが。」
先頭をずんずんと歩くポンザに、ふとレオンが声を掛けた。
「……え?どうしてなのね?あたしは間違っちゃいないのね。」
心底不思議そうな顔をしてポンザ。レオンはしばらく考えた後、背負った荷物の中から一枚の羊皮紙を取りだして一行に示した。
「これは……地図でしょうか?グロサルム山脈までの行程が事細かく記されていますわ。」
レオンの後ろを歩いていたエーセルが、羊皮紙を覗き込んで口を開く。
「そうだ。旅支度をしていたら、グロサルム方面に行ったことのある顔馴染みと会ってな。詳細を教えてもらった。そいつの記憶を元に書かれた地図だ、信用し ていいと思うが。」
「え?今、この辺を歩いてるんじゃないのね?」
ポンザが指したあたりを見て、ノヴァとレオンは同時に首を横に振り、同時にある一点を指し示す。
「「多分、このあたりだと思うが。」」
指摘する声すら重なっていた。二人が同時に指し示したのは、グロサルム山脈とは全く見当違いの街道。このまま進んでも、絶対グロサルム山脈には辿り着けな いであろう。
「……この地図が正しければ、我々は確実にこちらにむかっているはずだ。」
と、ノヴァがグロサルム山脈をぐるりと迂回するように伸びる、雲の上の街道方面を指す。レオンもそれに頷いた。
「そういえばよ、ゴブリンの巣穴に近づいているんなら、そろそろ奴等の姿を見かけたっておかしかないよな?全然平和な旅だったからすっかり忘れてたけど よ。」
「んー…………やっぱあたしが間違ってたのね?みんな、ごめんなのね。」
舌を出し、おどけたように謝るポンザ。一行の間になごやかな空気が流れたそのとき。
「気をつけろ、魔物の気配がする。」
そう警告したのはレオン。ほとんど同時にノヴァが鋭く前方に視線を投げかけ、少しの時間差はあったものの全員が魔物の気配を察して臨戦態勢を取る。体制が 整え終わった数瞬後には、4体のゴブリンがそこにいた。
奇怪な叫び声を上げてゴブリン達が一斉に襲い掛かってくる。目標は、レオンの周りにいる中でも弱そうなクリスと、たまたま一番近くにいたメリルアネス。一 行も二手に分かれて、ゴブリン二体ずつを相手する。
「クリス、下がるのね!ここはあたしに任せるのね!」
ポンザがそう叫んでクリスの前に立ちふさがるのと、クリスがポンザの陰に隠れるように後ろに引いたのはほぼ同時だった。攻撃目標を失ったゴブリンは、悔し そうな鳴き声を上げてポンザに襲い掛かろうとする。
一 方では、メリルアネスとアルファーンズがそれぞれ一体ずつのゴブリンを相手にしていた。それぞれの獲物がゴブリンをとらえる。メリルアネスが相手したゴブ リンは一撃のもとに切り伏せられた。倒れ伏したゴブリンに、デリュージャンがとどめを刺す。アルファーンズが相手するゴブリンに切り掛かろうとしたとき、 後ろからひゅっと風を切る音がしたため思わず身を屈める。ゴブリンの左の肩口に、太い矢が突き立っていた。
「無理するな、アルファーンズ。奴等相手にショートソード一本じゃ、体力を消耗するだけだ。」
「レオン、すまねぇ。」
思わぬ飛び道具を受けたゴブリンは、憤怒と当惑がないまぜになったような表情で後ろにいるレオンに襲い掛かろうとするが、その隙を正確についてアルファー ンズがゴブリンの息の根を止めた。
「クリス、伏せてくれ。」
ノヴァの指示通りクリスが身を屈めると、ノヴァもレオンと同じく矢を放った。ポンザにまさに躍り掛かろうとしていたゴブリンの腿のあたりに、ノヴァの放っ た矢が貫通する。クリスは身を屈めたまま小声で精霊に語りかけていた。
「大地の精霊ノームよ、僕に力を貸して。……スネア!」
未だ無傷のゴブリンが、地中から急に出てきた岩に足を取られて見事にすっ転んだ。起き上がろうともがく間に、ポンザのモールがゴブリンを叩きのめす。これ で、残るは手負いのゴブリン一体のみだ。
「おいエーセル、とどめを刺せ!」
レオンに怒鳴られて、エーセルははっと我に返った。申しわけありませんと一言置いて、エーセルは呪文の詠唱に入る。
「万能なるマナよ、光の矢となれ!」
呪文の詠唱が終わると同時に、白い光の矢が手負いのゴブリンの胸部を貫いた。断末魔の叫びを上げることもできず、最後の一体が絶命する。
「これだけ巣穴から離れてるとこでも奴等が出てくるんだ。これから先、気を引き締めていかねぇと。」
デリュージャンの呟きは、一行全員の心境を代弁するものだった。


行き先を修整して、今度こそグロサルム山脈への道を行く一行。そうこうしているうちにあたりが徐々に薄暗くなってくる。適当な水源がすぐに見つかったた め、一行は野営の準備に取りかかることにした。
デリュージャンとレオンで適当な場所にテントを張り、残りの者も水を汲みに行ったり、食事の支度をしたり、薪を集めてきたりと忙しく動きまわる。

「メリル、お前……随分強いんだな。」
「そりゃぁ当たり前でしょ。あんたなんかみたいなエロチビガキと一緒にしないで欲しいね。」
チビ呼ばわりされて本気でムッとするアルファーンズを横目に、メリルアネスはくすくすと笑いだす。
「冗談だよ、冗談。チビって呼んじゃいけないんだよね。ごめんごめん。
 …私だって、一撃でゴブリンが倒れるなんて思ってなかったもん。デリュージャンがちゃんととどめを刺してくれたし、一撃で倒れたのは運が良かっただけ だって。アルだって十分強いよ。」
笑顔を引っこめ、途中からまじめな顔で語るメリルアネス。アルファーンズと一瞬だけ目が合い、気まずそうにどちらからとなく目を反らす。
「……こ、これだけ水があれば十分だろ。そろそろ戻ろうぜ。」
ほんのりと赤くなった顔を見られまいと、先に立ってアルファーンズが歩きだす。メリルアネスもアルファーンズの姿を見失わないよう、小走りで彼について いった。

「どうしてあの時躊躇ったのだ?」
薪を拾っているのはノヴァとエーセル。クリスも同行したのだが、彼は別の場所で細い枯れ枝を拾い集めている。
「あの時……とはいつのことでしょうか?」
「言わずとも分かっているだろう。先程の戦闘時。お前は他の考え事にとらわれているように見えた。」
「そんなことは……」
どう答えたらいいものかとエーセルが考えている間にも、ノヴァは薪を拾い集めている。エーセルもノヴァに倣って枯れ枝を拾い集め、ノヴァの背中に向かって 呟いた。
「……昔、わたくしの村で起こった出来事を、思い出してしまっていただけですわ……。」
そして、少し離れたところで枯れ枝を集めているクリスは、無意識のうちにシルフの力を使っていたのか、そんなエーセルとノヴァの会話を聴いていた。
(……ノヴァさんとエーセルさんて、エルフとハーフエルフだし、本当は仲が悪いのかな……?)

その頃、ポンザは適当な大きさの石を集めてかまどを作り、薪と水が届くのを待っていた。
「今日のごはんは何なのね〜♪」
できあがったばかりのかまどに腰かけ、足をブラブラさせて、あくまで陽気なポンザである。
「おーい、水汲んできたよー!」
遠くからアルファーンズの声。ポンザは急いで駆け出した。水は重たいのだ。二人だけで水汲みに行ったのだから、ここは自分も手伝うべきだろうと思ったの だ。
「アル、メリル、お疲れ様なのね。さ、桶を一個ちょうだいなのね。二人でそんなに持ってたら重くて、せっかくの水をこぼしちゃうのね♪」
等と騒がしくしていると、テントを張り終えたデリュージャンとレオンもメリルアネスとアルファーンズの持つ水桶を一つずつ持っていこうとしている。
「そうやって騒がせとくと、水がホントに無駄になっちまいそうだからな。」
少しして、両手に余るほど沢山の薪を抱えて、残りの三人が帰ってきた。ノヴァは、薪の他にも幾つかの草や茸を袋に詰めている。
「これ、全部食べられるのね?」
ポンザの確認にノヴァは頷いた。ポンザは小躍りしてみんなにこう言う。
「みんなー、一回分の保存食を出すのね。今日はシチューにして温まるのね♪」
そうこうしているうちに日がすっかり落ち、夜の哨戒体勢に入る。
人数が8人なので、4交替にするか2交替にするか、誰と誰とを組みあわせるか、食事の時に話し合いを済ませている。そこで出た結論は、4人ずつ2交替でた くさん寝よう、と言うものだった。
一直目は、メリルアネス・アルファーンズ・デリュージャン・クリス。二直目は残りのメンバーである。今後も、余程の事態が発生しない限りは同じ組合せで夜 を明かそうと決めていた。
そして、特に何事もなくこの夜は過ぎ去ったのだった。

その後の道中、時々ゴブリンの群れに襲われたり、再びポンザが道を間違えそうになったりと多少の波乱はあったものの、無事に目指すゴブリンの巣穴らしき所 に辿り着いた。
「ここ……なの、ね?」
ポンザが心許なさそうに呟く。
「……多分、ここだと思うよ……いっぱい、気配がするから……」
少し怯えたふうに意見を述べるのはクリス。
「ああ、きっとここだ。なぁ?」
ぐるりと全員を見まわしてレオン。視線を受けた全員が、何らかの邪悪な気配を感じて頷いていた。
「あそこに一応見張りがいるな。どうする?とりあえず、ぶちのめしておくか?」
「……そうだね。でも、そのまえにこっちの準備を整えなきゃ。やつらの目に入らないところに、ベースキャンプを張っておかないと、じゃないかな?」
血気にはやるアルファーンズを窘めてメリルアネスが提案する。全員の同意を得たところで、野伏の心得のあるノヴァとレオンがベースキャンプを張れそうな場 所を探しに行く。
程なくして、適当な場所を見つけた一行は、そこにキャンプを張り、ゴブリンとの戦いに備えるのであった。






  


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