穴から這い上 がってきて( 2001/11/25)
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作者
三月兎
登場キャラクター
“形見屋”ブーレイ、アンクランス、グレアム・コール、ララ、ヨハン、ミュレーン




大きく深呼吸をし、気を取り 直した俺に、ヨハンが隠し通路を見つけたと言ってきた。どうやら、俺が下に降りていた間に、ララが見つけだしたらしい。
 誰も入ったことのない通路に入るのは抵抗があったが、ざっと見たところ危険も少なさそうだったので、とりあえず、調べるだけ調べてみることにした。
 グレアムがいまだにメモを片手に穴を覗きこんでぐずぐずしてたので、「早くきやがれ」とケツを蹴り飛ばしてやったら、危うくグレアムが穴に落ちかけた。 遺跡の中では、いつでもどこでも油断禁物という良い教訓になっただろう(爆)

 中に入ると真っ直ぐの廊下と、その両脇に幾つもの扉が並んでいた。
 皆の興奮の度合いが高まるのを感じる。ミュレーンが、珍しく辺りを調べてみたいと言ってきた。無理もない。レックスの外縁部の遺跡とは言え、誰にも踏み いられたことのない場所が目の前に広がっているんだ。魔術師なら興奮して当たり前だ。
 俺が罠などがないか調べ終えると、続いてミュレーンが扉にはめ込まれたプレート等を解読し始める。何度も遺跡潜りを経験しているだけあって、その作業は 手慣れている。
 魔術の腕も良いし、遺跡慣れもしている。素直だし頭も切れる。なにより良い女だ。相棒に欲しくなってくる。もし、そうなったらジッカ達がさぞ羨ましがる ことだろう。いい気味だ。

 ミュレーンだけじゃない。他の連中も一見そうは見えないが大したものだ。
 アンクランスは多少大ざっぱで暴走しがちな危なっぽさはあるが、“剣”としては一流といっていいだろう。肝も据わっているし、いざって時に頼りになるタ イプだ。なにより、あの真っ直ぐで豪快な性格が、俺のようなひねくれ者には心地が良い。
 ヨハンも精霊の扱いには長けているし弓の腕も大したものだ。それに森妖精にしては親しみやすい所が良い。まぁ、たまに嫌みったらしい口もきくが、ジッカ やラスに比べれば可愛いもんだ。
  ララは草妖精だけあって考え方が根本的に違うのか、俺とまったく違う視点で遺跡を見ている。そのせいか、俺の思いもしない所から新しい発見をもたらしてく れる。この通路だって、ララだからこそ見つけられたんだろう。ただ、なにかと俺の肩によじ登り、頭をてしてし叩くのはやめてもらいたい……。あと、俺が本 気で怒ると、捨てられた子犬みたいに目潤ませて見上げてくるのも卑怯だ(謎)
 グレアムは……(グレアムを見ると、やたらと興奮しながら一心不乱 にメモをとっている)……まぁ、あんなだが(滅)。口うるさいし、やたらと蘊蓄をたれたがるものの、知識量はかなりのものだ。特に石造建築に関して言え ば、オランでも5指に入ると言っても過言ではないかもしれない。初めはバカにしてたが、あいつの知識は、遺跡の中で予想以上に役に立つことが今回の仕事で 分かった。年代の特定だけでなく、構造的な見地から隠し扉や罠の存在を見破ったのも、一度や二度ではなかった。
 オランで急ぎでかき集めたわりには、臨時パーティーにしとくのはもったいなく思えてくる連中がそろった。同じ面子で何度もつるむのは好きじゃないが、こ いつらなら考えても良いと思えてくる。

 俺がそんなとりとめもないことを考えているうちに、ミュレーンの調べも終わったらしい。
 どうやらここは、この地下墓地の中でも特に身分の高い者が埋葬されているとのことだった。しかも、奥の扉からは魔法の力も感じられると言う。
 高まる期待と好奇心。おそらく、皆が感じていることだろう。だが、俺の答えは、皆の期待を裏切るものだった。
 すなわち『ここは無視して、残りの2人の形見を回収。その後、とっとと街へ帰る』。

 この扉の向こうには財宝や失われた知識の類が、俺達に運び出されるのを待ちかまえてことだろう。だが、ここは、誰も踏み行ったことのない場所、だれも開 けたことのない扉だ。それを開けることは“形見屋”としての俺のポリシーに反する。
 そう、俺は遺跡荒らしではなく、形見屋なのだ。遺跡の中で誰に看取られるでもなく死んでいった者達の遺品を持ち帰り、残された者達に届ける事が……死ん だ者達の無念を、残された者達の未練を、形見を持ち帰ることで断ち切ってやる事が俺の仕事なのだ。
 だから、俺は必ず生きて帰らなければならない。避けられる危険は、目の前に差し出された財宝に唾を吐きかけてでも、回避しなければならない。それが俺の スタイル……在り方だ。
 周りの連中の不平不満誹謗中傷は覚悟の上だった。「臆病者」と誹られても、笑って受け止めるつもりでいた。
 だが、意外なことに、俺が無視して街へ帰ると言い放った後、一通り残念そうな表情を浮かべはしたものの、皆、俺の考えに賛同してくれた。
「しょうがないの」
 アンクランスはそう言って、笑っていた。
「ま、そんなことだろうと思ったさ」
 ヨハンはそう言って、にやけてみせた。
「ブーレイ兄ぃがそう言うなら、オレはそれでいいよ♪」
 ララはそう言って、屈託のない笑顔でにぱっと笑いかけてきた。
「私はもう、十分すぎるくらい報酬をいただいておりますので」
 グレアムはそう言って、メモ帳をひらひらさせた。
 ミュレーンは黙って俺の袖を引っ張ると、優しく微笑みかけてきた。
 嫌みったらしくもなく、恩着せがましくもなく……ただ、それが当たり前であるかのように……。

 改めて、臨時パーティーにしとくのはもったいないと思った。



 その後は、順調なものだった。通路の突き当たりで、大量の骸骨と共に倒れ伏していた残り2人の『駆け登る者達』の形見を回収し(ついでにそいつらの金目 のものも回収し)帰路についた。
 予定通りの行程だった。明日の土曜の夜にはパダに到着できるだろう。
 つまらねぇ仕事になるかと思ったが…………久々に、美味い酒にありつけそうだった。






  


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