小さな配達屋( 2001/12/09)
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作者
高迫 由汰
登場キャラクター
キア




オランの街中、日も高くなってきた時間に、人込みの中を小さな影が縫うようにして通りすぎて行く。
その影の手にはいくつかの手紙と、小さな小包が抱えられていて、走る事で巻き起こる風に、不揃いに切られた茶色い髪がなびいていた。
郵便配達を主な仕事としている草原妖精で、名前をキアと言う。
目的の場所に向かってキアは、器用に人にぶつからず走っていく。
今手元にある、配達しないといけない手紙は、別に走らなくても十分に今日中に終わる量なのだが、元気の象徴のような草原妖精、知らず知らずについ走ってし まうようだ。
既に冬といってもいい季節、冷えた空気に目を細め、心なしか楽しそうに走り抜けて行く中、ふと余所見をした瞬間、
「はにゃ!?」
と、一言わめくと、急いでその場に止まろうとした。
勢いがついていたために、すぐには止まれなくて、少し滑りこんでしまい、石道路の上にかかっていた砂埃が軽く舞う。
「ふみゅう、いっけないいっけない、ついお届け先を通りすぎるところだったん★」
誰に言うでもなく照れくさそうに呟くと、キアは目の前の家の戸をどんどんと叩いた。
その音に初老の男が顔を出す。
「なんだい?坊主…いや、嬢ちゃんか?」
「うにゅ、嬢ちゃんのほうなん、こんれ、おっちゃん当ての小包ん★」
「あぁ、配達屋か、すまねぇなぁ」
「うみゅ、んじゃ、これにサインをお願いするん」
そう言ってキアは一枚の伝票を差し出した、その伝票を見て、サインをしようとしていた男の手が止まる。
「嬢ちゃん、どうやらこれは儂当てではないようだぞ?」
「ふにゃぁ?だて、この通りに住んでるん白いおカミのまじった、黒いおカミお人ん聞いたんよぉ?」
「あぁ、いや確かに嬢ちゃんの言うとおり俺も白髪混じりの黒髪だがな、伝票に書いてある名前が儂の名前じゃない、たぶん嬢ちゃんが届けなきゃいけない相手 は、この先の家の奴だよ」
「はにゃ!?んじゃこんの小包ん、ほんにおっちゃん当てとちがうんかぁ?おいらまた間違えちったんねぃ」
「また?なんだ今回が始めてじゃないのかい、良くそれでクビにならないもんだ、まぁ、皆がちゃんと教えてくれるんだろうなぁ」
けたけたと愉快そうに男は笑うと、キアの頭を撫でくり回した。
頭を撫でられてる当の本人は、にーっと目を細めて笑う。
「うにゃ、んじゃおいらんこの小包お届に行くんよぉ、おジャマしましたん、おっちゃん」
「あぁちょっと待てや嬢ちゃん、折角だ、これを持って行けや」
そういって男は何かを小さ目の麻の袋に詰めて、キアに差し出した、口を開けて覗いて見ると、中身は胡桃。
「ふみゅう?いただいちっていいんかぁ?」
「あぁ、かみさんが胡桃のクッキー作るって買って来た奴なんだがな、少し買い過ぎたらしく余ってたのよ、そうだ、クッキーも持っていくか?」
「うみゃ!持ってくん!」
キアの元気すぎる返事に男は笑い、もう一度キアの頭を撫でると、家のテーブルに置いてあった籠からクッキーを取り、これをさっきの袋より大き目の袋に詰め て渡した。
それと同時に一枚、キアの口のほおりこむ。
「はみゅ、うまう〜♪」
クッキーの美味しさにじたばたしたのち、貰った胡桃とクッキーを腰のポーチにしまって男に一礼すると、キアはその家を後にした。


「はにゅ、ここんか?」
先ほど教えてもらった家の前に突っ立ちながら、こんどこそ間違っていませんようにと心の中で祈りつつ、キアは戸を叩いた。
「はい?どなた?」
声がしてから少ししたのち、戸が開く、今度現れたのは、先ほどの男より年上であろう女性。
「うみゅ、この小包んをお届に来ましたん」
そういって、先ほど間違って男に渡した小さな小包を、改めてその女性に手渡した。
「まぁ、ありがとう、一体誰からなのかしら」
キアに礼を述べると、小包に添えてあった手紙をちらりと見て一人呟き、宛先人の名を女性は眺める。
そしてそのまま一瞬止まると、女性はその瞳に涙を浮かべ始めた。
「はにゃ?なしたん?おばちゃん」
「いえ…なんでもないの……えぇ、なんでもないのよ」
そういながら、女性は涙を止められなかった。

キアが届けてきたものは、ずっと音信不通だった、冒険者となって家を飛び出した女性の息子からのものだった。
生きていてくれたことが嬉しくて、彼女はつい、涙を流したのだが、届けた本人はもちろん全くわかっていなくて、涙を流しつづける女性を困惑の目で見続け た。

「お嬢ちゃん、ありがとうね、貴女が届けてくれたものは、私への最大のプレゼントだったわ」
ひとしきり涙を流した後、落ちついたらしくて、女性はやっと顔を上げると、キアにそう声をかける。
「おいらんにはその小包んがどしてサイダイのプレゼントか、ちーとよくわからんけど、でも喜んでもらたんは嬉しいんよぉ、だから、泣かんでねぃ」
言われた本人はまだ少し困惑の表情を浮かべたまま頭を掻きつつ言って、最後のほうにはにぱぁと笑って見せた。
そのキアの言葉に、かすかに微笑むと、女性は目じりの涙を軽く拭いて、
「そうね、嬉しいんだもの、泣いてはいけないわよね」
そう言って、今度は一目見てわかるほどはっきりと、キアに微笑んだ。
「うにゅ、そうなんよぉ〜、んじゃ、おいら次のお届け先にいくんね、ばいばいなんよ」
「えぇ、よかったら今度は遊びにいらっしゃい、スコーンを焼いて、紅茶を入れて待っているから」
「うにゃ、ほんと〜♪絶対遊びにくるんよ★」
元気よく頷くと、キアはまた次の届け先に向かって走り出した。
「ふふふ、まるで突風ね」
女性は姿が見えなくなるまで見送ると、涙を改めて拭いて、嬉しそうな微笑を浮かべつつ、家の中に入っていった。

暫くして、夕日が街並みを照らす頃……………………
「はにゃぁ〜!!あのおばちゃんにデンピョウにサインしてもらうん忘れたん〜!!!」
昼頃に走り去っていった道を逆に走る、キアの姿。

焼き立てのスコーンを頂くのは、案外早くに訪れたようだ。






  


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