遍くものは我等の手の中に( 2002/01/11 )
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作者
霧牙
登場キャラクター
アルファーンズ、エルメス、カイ、ミトゥ、レイン



12月の初めごろ、パダのとある遺跡にて。
最奥部で、剣の掛けられた壁に刻まれた古代語に向かい合う5人の姿があった。
自称「知識人」を称するアルファーンズを筆頭とした、ミトゥ、エルメス、カイ、レイン。
この遺跡のリドルに挑んだ冒険者達だ。
彼等の目の前の古代語にはこうある。
遍く者は我の身の中に、真実はそなただけが知る、我の下僕は虚空を眺め鍵を護らん。幻の断片に伸ばした指先触れたるならば夢に消えゆく
頭を抱える5人。それぞれが思う意見を述べようということになったが、全然意見が出ていないのであった。
「なんでも良いから思うこといわねーとな・・・」
文献の地図とリドルに視線を交互に向け、アルファーンズが呟く。
「・・・ボク、頭使うの苦手なんだよなぁ」
「同じく。悪いな、ひゃひゃひゃ」
暢気な笑いを浮かべて、ミトゥとエルメスが頭を掻く。
アルファーンズが歯軋りをしながら、思わず叫ぼうとした瞬間、それを遮るレインの一言。
「あのさー、「我の身の中に」ってゆーのは、この遺跡の主の私室にあった大きな魔術師像の中ってことだと思うんだよね、僕」
「なるほど、ってことは、「遍く物」を財宝とするなら、財宝は像の中ってことかな・・・」
持ってきた羽根ペンにインクをつけ、さらさらと書き込む。
それを発端に、頭脳派(?)のアルファーンズ、カイ、レインがあーだこーだと推測を述べはじめる。肉体派(滅)のエルメスとミトゥはやることが無いよう に、壁に掛かった壮麗な宝剣を眺めていた。
「ねぇ、アルファ。これも財宝なんでしょ?アルファって魔剣を捜してるんだから、これも貰っちゃえば?」
ミトゥが何気なしに宝剣へと手を伸ばす。
「・・・・!ちょっと待った!」
鋭く声を発し、それを制したのは他でもない、暇そうにミトゥと一緒に剣を眺めていたエルメスだった。
「ちょっと思ったんだけど、これって罠なんじゃねーのかな?」
呆けた顔の4人。特にミトゥは、手を伸ばした格好のまま動きを止めている。
「そりゃ、何があるかわかんねーから、触らずに置いといたけど。何で罠だって思うんだよ?」
アルファーンズも、ミトゥの横に並んで剣を眺める。見れば見るほど美しい剣で、アルファーンズは手を伸ばそうとするのを自制するのに大変だった。
「あー、根拠は無いんだけど、あたしの直感っていう奴?ほら、リドルにも「幻の断片に伸ばした指先触れたら夢に消える」がどーたらこーたらってあるだろ? これってもしかして、この剣のことを言ってるんじゃないかなーって」
それから、剣に触ると他の財宝が消えるんじゃないか。ま、「鍵」の直感だけどな。と付け加えて、ひゃひゃひゃといつものように笑い飛ばすエルメス。
しかし、頭脳派の3人は納得したような顔を互いに見合わせた。
「ね、ね。それって案外あってると思うんだけど、僕。それに、この剣これ見よがしすぎて、怪しすぎるよね絶対。凄いね、エルメスちゃん♪」
レインが嬉々とした表情で、板金鎧をがちゃつかせながらエルメスの手を取って飛び跳ねる。レインの馬鹿力に翻弄されながら、エルメスも満更でもない笑みを 浮かべる。
「ああ、そりゃ考えられるな。今の解釈で良いとするなら、後は前半部分だけだよな」
再度ペンを走らせ、アルファーンズが座り込む。自然と指で羽ペンをくるくる回す。彼が真剣になって考え事をする時の癖だった。
「ん・・・「我の下僕」か・・・。やっぱ昔の魔術師の下僕って言えば、、魔獣か魔法生物とか・・・ガーゴイルか?確か悪魔像はあったけど、動かなかった し・・・」
「・・・あの、「真実はそなたのみが知る我の下僕」で、そなたっていうのはやっぱり、私たちみたいにここに挑んだ「冒険者」のことだと思うんです。下僕 は、遺跡に入った者しか知ることの出来ない物、つまりその悪魔像のことで合ってると思うんですけど」
アルファーンズの言葉に続いて、カイが意見を述べる。
確かに、悪魔像のことは文献の地図にも記されていない。遺跡に実際に入らなければ知ることの出来ない物だ。
しばらく思考して、手をぽんと鳴らすアルファーンズ。納得顔でさらにペンを走らせ、顔を上げる。
「ほうほうほう、なるほど。これじゃあ知識人としての面目がねーな・・・殆ど皆の意見じゃん」
ペンを持ったまま鼻の頭を掻いた拍子に、頬にインクの線が走り皆を笑わせた。
リドルが解け、納得良く答えが出て嬉しそうな面子の中、ただ一人、ミトゥが浮かない顔をしていたが。
「つまり、纏めるとだな・・・。『全ての財宝は魔術師を模した像の中に。財宝を解放するための鍵は、遺跡に入らないと分からない、据え置かれた悪魔像が見 つめている。罠に手を出せば、財宝は失われ何も残らない』と。これが合ってることを信じて、さっきの悪魔像のところまで行ってみるか」
新しく引っ張り出した羊皮紙に、自分達が導き出した答えを書き、アルファーンズが立ち上がる。
「よっしゃ、やっとお宝とご対面か、楽しみだな」
「ええ、たくさんあると良いですね」
「じゃ、早速行こうよー、皆♪」
念のため、鍵のエルメスが先頭に立って、わいわいきゃあきゃあと女性陣が歩き始める。
ただ、ミトゥだけが俯きながらそれに続く。
「・・・どした、ミトゥ?いつもなら一番うるさそーなのによ」
笑いながら語りかけるアルファーンズにちらりと視線を向け、歩みを速める。
「何でもないよ。ほら、早く行かないと置いてかれちゃうよ」
首をひねるアルファーンズを他所に、ミトゥも加わった女性陣はずんずん前の部屋へと引き返し始める。
アルファーンズは慌てて短槍と円形盾を拾って、その後を追うのであった。


大きな部屋の端に、意味ありげに据え置かれた2体の悪魔像。
残念ながら、魔術師が居ないため《魔力感知》で本物のガーゴイルかどうか調べられない。だが、前も今も部屋に入った時点で動かないからその可能性は無いと 踏んだアルファーンズ達は、悪魔像の周りを調べ始めた。
よくよく見れば、どちらの悪魔像も壁にある同じ一点を見つめている。
「なんかありそうだよな。よし、いっちょ調べてみるか」
ぽきぽきと指の関節を鳴らしながら、エルメスが壁に向かい、念入りに調べ始める。
程なくして、壁に一箇所だけ別に手を加えられた所がある。
「たぶん・・・・これだな。たぶん罠も無いはず・・・。むしろ、隠してあるものに罠があるって可能性は少ないと思うし」
全員の了解を得て、エルメスがその地点をぐいっと押し込む。
・・・がこん。・・・・・がらがらがら・・・。
小さな物音、次いで遠くから何かが崩れるような大きな音。
「っしゃー!ビンゴかっ!」
アルファーンズが手近なミトゥとカイの手を取って、万歳した瞬間。
無言で佇んでいた悪魔像が動き出したのだった。
「アル君っ、動いたっ!」
いち早く気づいたレインの鋭い声。アルファーンズはミトゥとカイの手を解放して、構える。エルメスも慌てて腰から細剣を抜き、ミトゥも小剣を構える。カイ はランタンの火を松明に燃え移らせる。
「ちっ、仕掛けを作動させた者に襲い掛かるように命令されたか、仕掛け自体がガーゴイルを動かす作用も兼用してたかってことか」
飛び掛ってきたガーゴイルの爪を、何とか円形盾で受け流す。
「ていやあっ!」
そこへレインの大剣がガーゴイルの胴を薙ぐ。ガキッと石質の物体を叩いた時のような音を発し、火花が散る。
「うらぁっ!俺を舐めんなよー!」
気合一発、胴を薙がれてふらついたガーゴイルを目標に、愛用の短槍で突きを入れる。が、空中に飛び上がったガーゴイルの足をかすっただけだった。
・・・火蜥蜴、わたしに力を貸して
背後からカイの精霊語による呟き。傍らに置かれた松明が激しく燃え盛り、2本の《炎の矢》が高速で放たれる。
火の粉を散らして飛んだ矢は、狙い違わずガーゴイルに直撃。そして残りの1本も、エルメスと鍔迫り合いをしていたもう1体のガーゴイルに命中する。
「さんきゅー、細剣じゃいつ折れるか心配で・・・っと!」
少々よろめいたものの《炎の矢》に耐えたガーゴイルが、すぐさまエルメスに攻撃を再開する。
「やああっ!」
後ろに回りこんだミトゥの残撃。だが、所詮は威力の低い小剣。大したダメージも与えることなく、再び飛び上がるガーゴイル。
戦況は芳しくなかった。空中から攻撃を繰り返すガーゴイル。地上からでは苦戦を強いられる5人。
「ちっきしょー!降りてきやがれ!」
エルメスの罵倒をあざ笑うかのように、天井ギリギリから一気に降下して爪を振るう。素早い身のこなしでそれを避けるが、攻撃が及ぶ前に再び空中へ。
「くそっ、文献で読んだとおりだな・・・卑劣な知能だけはあるよーだぜっ」
槍を突き出すが、身長が足りないせいもあって、足さえかすらなかった。次いでガーゴイルが大きく口を開け、牙を光らせて突っ込んでくる。
アルファーンズは楯を構えてそれを甘んじてその攻撃を受け、気合の声を上げて楯でガーゴイルを押し返す。
地面を無様に転がるガーゴイルにレインが飛び掛り、重たい一撃をその頭へと叩き込む。
「・・・・・・!!」
巨大な刃は、止まるところを知らないほどの勢いで、石質のガーゴイルの体を粉砕していく。体の左半分を粉微塵にされたガーゴイルは、声も立てずに膝から地 面に倒れ伏す。
「やったぜ、レインおねーさん!」
ぐっとガッツポーズを作るアルファーンズだが、レインは顔を横に振って神聖語をその口から紡ぎだす。
勇壮なるマイリーよ、汝の力をここに示せ!
大剣を傍らに置き、右手を力いっぱい突き出す。《気弾》の神聖魔法だ。
・・・火蜥蜴、もう一度あなたの力を!
さらに、カイも負けじと巨大な《炎の矢》を生み出し、ガーゴイルに向けて発射する。
《気弾》と《炎の矢》が閃き、ガーゴイルの後頭部へと突き刺さるように、炸裂する。思わずぐらりとふらつき、高度を落とすガーゴイルに、エルメスとミトゥ が同時に剣を突き立てる。細剣は羽を貫き、小剣が胸を抉る。その一撃で、二人の武器も相当なガタが来たがそれはガーゴイルとて同じことだった。
「うどらあっ!!!!」
エルメス、ミトゥがガーゴイルから離れると同時に、アルファーンズは手にした短槍を思い切り投擲する。見事首筋に突き刺さり、胴体と首が離れて地面に叩き つけられる。
「あーー・・・・まじで辛かった」
エルメスとミトゥがずるずるとガーゴイルだった石くれに腰をおろす。カイも精神力を使いすぎたかのように、その場で荒い息を付いている。
「ったく・・・ガーゴイルがこれほど強敵とは思っても無かったな。やっぱ、どんな書物よりも実践に勝るものは無しか。わははは」
力なく笑って、アルファーンズもレインと共に元ガーゴイルの残骸に腰掛けようとしたその時。
突如として体の左半分を失ったガーゴイルが起き上がり、アルファーンズに鋭い爪で切りかかった。不意を付かれたアルファーンズに出来たことは、上体を反ら す事のみ。爪は胸、そして三つ編みを縛っていたリボンと髪を数本を切り裂いた。
「・・・・がふっ!」
鮮血が噴出す胸を押さえ、うずくまるアルファーンズ。
「・・っきゃ・・・アルファ!!」
敵を倒してなお塞ぎこんだ表情をしていたミトゥが、小さく悲鳴を上げる。が、途端キッと表情を引き締め、足元に転がるアルファーンズの槍を拾い投擲した。
先ほどの激戦の最後の一撃を再現するかのように、槍は空中に舞い上がったガーゴイルの胸を目掛けて一条の光となった。



目の前に広がるのは、魔昌石や宝石の山。
ここは、像が立っていた魔術師の私室。仕掛けによって魔術師像が真っ二つに開き、中に隠された財宝が姿を現したのだ。
「うっひゃー、こりゃすげーな」
折りたたんだ大きな袋を広げながら、エルメスが心底嬉しそうに手近な魔昌石を掴み上げる。
「ええ、これくらいあれば、銀の剣なんて余裕で買えますね」
にっこりと青玉や紅玉を眺めている。しかし、ちゃっかりポーチや袋に詰め込んでいるところが冒険者らしい。
「僕もこんなに見つかるとは思って無かったよ〜♪アル君様様だね〜」
せっせと大きな魔昌石を探すレイン。だが、見つかるのは小さな魔昌石が主で、大きいものはなかなか見つからない。
一生懸命財宝を詰め込む3人を他所に、ミトゥだけはやはり浮かない顔でそれを見ていた。
「おいー、まぢでお前らしくねーぞ、調子狂うな」
さすがに気にしたアルファーンズが、両手に幾つかの古文書と思しき羊皮紙の束を抱えてやってきた。
「・・・・だって」
ぽつりと呟くように話だす。
「・・・だってボク、今回何にも約に立たなかったんだもん。罠の剣触りそうになるし、リドルの意見も全然出せなかったし、戦いも全然だったし」
押し殺したような声で、一言一言紡ぎだす。拳を強く握り、物凄く悔しそうに情けなさそうにしている。
「・・・えーと・・・んなことねーだろ」
何時もと違うミトゥの様子に、アルファーンズはうろたえながらも語りかける。
「ほら、さっき俺を助けたのは他でもないお前じゃん。お陰で、ほら、何とも無いぜ」
爪で切り裂かれた部分、ローブはずたずたになってはいるが、体には赤い3本の薄い爪跡が残るのみ。ミトゥが投擲した槍でガーゴイルが完全沈黙したことを確 認し、レインが即座に《癒し》の奇跡を施したのだ。たいした痕も残らず、綺麗さっぱり回復している。
「槍の穂先は粉々だけど、俺はこのとーり元気だし。俺に取っちゃ、十分すぎるほど役に立ってんだよ。ありがとな」
慣れない台詞に、自分が照れたように顔を背けてアルファーンズは呟く。
ミトゥが顔を上げ、何かを言いかけた。
「おーい、アル、ミトゥ。何やってんだ?早くしねーと全部貰っちゃうぜ!?」
が、それを遮るようにエルメスが両手に抱えきれないほどの財宝を見せて声をかけてくる。
「そーそー♪早くしないと、めぼしい物全部エルメスちゃんに取られちゃうよ」
「私達も、これが目当てだったんですから、要らないんなら貰っちゃいますよ。・・・・あ、これラスのお土産にしよう」
ちゃっかりした3人、声をかけながらもめぼしい物を漁り続けている。
「あ、このアマ、俺も要るに決まってんだろ!ほれ、行くぜミトゥ!」
子供のように駆け出し、ほどけた金髪をかき上げながら魔昌石や宝石、本棚に納められた書物を漁り始めるアルファーンズ。それに負けじと、部屋中を漁り始め る3人。
その光景を見て、久しぶりに笑顔を取り戻したミトゥ。
「・・・もぅ、ばかみたいだな。・・・ボクも居るんだからねー!」
ミトゥも、調度銀の短剣の取り合いをしていた4人の中に加わって、見事それを満面の笑顔でゲットしたのであった。




  


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