剣
( 2002/02/09)
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作者
ミソラ
登場キャラクター
ミソラ
513年 10月某日。
父さんが死んだ。
正確には死んだと聞かされた。
父さんと冒険をしていたと言う人たちが私の家に来てそう言っただけだ。
遺体は無い。
ただ父さんの使っていた剣をその言葉と共に渡されただけだ。
これしか持って帰ってくることが出来なかったらしい。
どんな死に方をしたかは聞いていない。
大して興味もなかった。
子供の頃は何度か父さんとお母さんと一緒に色々なところに出かけたことがある。
神様達の話。魔法が支配していた世界の話。現在に残るそれらの痕跡。世界の様々なところに存在している奇怪な動物達。それらに挑む冒険者達がどんな生活を しているのか。
旅先で話してくれる父さんの話は大好きだった。
でも、いつの頃からか父さんは変わってしまった。
何週間も何ヶ月も、ひどい時は1年近く家に帰らず、帰ってきてもいくばくかのお金を置いてまたすぐ居なくなる。そんな日が何年も続いた。
お母さんはそれこそが本来の父さんなんだと言っていた。
ずっと家にいるよりも世界を渡り歩く父さんの方が余程素敵だと言っていた。
私には分からない。私は私の記憶の中に居る優しい父さんが好きだった。
あの優しかった父さんはどこにも居なくなっていた。
お母さんが事故で死んだ時も父さんは家に居なかった。
お母さんが死んでから何日も経ってやっと帰ってきた父さんは一言「そうか・・・」とだけ言っただけでまたすぐどこかへ行ってしまった。
そして3年後帰ってきたのは一振りの剣だけだった。
だから死んだと聞いたときも全然実感がなかった。ずっと前から居ないも同じような状態だったから。
あぁ。ほんとに死んだんだ・・・。
そう思っただけだった。
私の中で父さんはずっと前に死んでいたから。
父さんが死んだと聞かされたあの日から一月ほど経ったある日、ずっと部屋の隅に置いてあった父さんの剣を手にとってみた。
握りは手垢で真っ黒になっている。
鍔に彫られた彫刻も擦り切れて何が掘ってあったのか分からない。
刀身には無数の傷。何度も打ち直したり、接いだりした跡が有り表面には歪な模様が浮かんでいる。
素人の私が見ても明らかに耐久限界を超えている。
ここまでボロボロじゃあ買いなおした方が安いんじゃないかとさえ思った。
ふと刀身の付け根近くに小さな彫り物があるのに気付いた。
ずいぶんと擦り切れているけどどうやら文字が掘られている。
「エリカからラップへ」
何とかそう読む事が出来た。
それを見た時、父さんは決してお母さんのことを忘れた訳では無かったことに気がついた。
気がついてしまった。
何度も何度も傷を治し、こんなになるまで使い込むのはただの愛着からじゃない。
きっと、お母さんにもらった物だったからだ。
どんなになってもこれ以外の剣は使いたくなかったのだろう。
急に父さんの事が知りたくなった。
どんな生活をしていたんだろう?
どこに行っていたんだろう?
何をしていたんだろう?
私やお母さんを置いてまで父さんが追い求めた物を見たくなった。
お母さんが素敵だと言っていた父さんの本当の姿を知りたくなった。
オランに行こう。
父さんの生まれた街へ。
父さんが冒険者になりお母さんと出会った街へ。
父さんとお母さんの剣と共に。
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