光色におけるマナの流動、反 射、集積、及び摘出について( 2002/04/24)
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作者
magisi
登場キャラクター
ターレス=アトム



『がたん』
派手な音がした。
決して整頓されているとはいえない・・・いや、乱雑この上なくなっている
机の上に積み上げられた分厚い書籍の一部が床に落ち、盛大に跳ね返った音だ。
部屋の主は、そんな事お構いなしに机の上に頭を預けて寝息を立てていた。
ただでさえ限界に近い積載量を要求されている木製の机は、その持ち主である人物の頭髪の
寂しくなった頭まで抱える羽目になり、ギシギシと文句を言い続けている。
春先の、大層天気のいい日である。
部屋の主の灰色のローブもそろそろ暑さを感じさせるものになって来ているが、
初老に入り体力にとぼしいその男にとって転寝で風邪を引いてしまう可能性を考えれば
かえって良いことなのかもしれなかった。
男の手には、羽根ペンが握られたままで、頭の下には幾枚もの羊皮紙が下敷きになっている挙句、
男の頭によって皺を刻まれていた。
おまけに、握られたままの羽根ペンのインクが大きな黒い染みを造っている。
積み上げられた書籍の上に止まっていた大きな烏が、一声情けなく『カァ』と声をもらした。



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 ここまで終えて、ご理解いただきたいのは、前回の私の研究が”誤り”であったことに他ならない。
その”誤り”で判明した事というのが以下に挙げる2大点である。


1:通常物質(ここで言う通常物質とは、最小物質である”マナ”が既に目に見える形を取っているもの
 を指す)における”色”の発生と”マナ”における”色”の発生は異なる性質をとる。
2:現時点の”明り”において発生する光は"白”単色ではない。


 先ず、1に挙げたものから説明させていただきたい。
普段我々人が認識できる色はまさしく万色と表現されるほど多種多様に満ち溢れており、
一様に分類することは容易ではないが、おおよその所、6つの色に全てが属するように考えると
その作業が可能になる。即ち、その6つの色とは、”どの色を混色しても発生しえない色”であり、
”これらを混色することによっていかなる色でも生み出すことが可能”なものであり、
”源”と呼ぶに相応しいものである。よって、以後この6つの色を”原色”と呼ぶこととする。
私は、”色”を構成するマナは世界において6種存在していると認識する。
その研究の過程において、私が気づいたことは1に挙げた通りのことであるが、
かいつまんで説明すれば、こういうことである。
”通常物質”においての色は混色すれば暗色となるが、”マナ”における純粋な色の粒子とも
呼ぶべきものを集積した場合は、”明色”へとその方向を変えるのである。
例を挙げると、たとえば色インクのように”通常物質”に色がついているものを混色させていくと
それは”黒”により近づいていくというものである。もう一方は太陽光のような”光”を
色ガラスなどに透過させ、上手く光の集積点を集めた時、重なった部分が白に近づいていく
ことで証明されるだろう。
この概念を説明した上で、2に挙げたものを考えて頂きたい。
現在、私等が使用している”明り”において生み出されるマナの光の波動も”白”として
眼にうつる。以前、私はこの”白”を単色としてとらえていた。
しかし、”明り”で生み出されたマナの波動は”通常物質”を生み出す物ではなく
”純粋な光”つまり手に取れる形をなさないものである。
”マナ”において発生した”色”の集積の表れが”白”であるとするなら、
”明り”によって生み出された”白い光”は、即ち”全ての色の混色体”であるということが
仮説としてたてられる。
つまる所、”有色の光”を生み出す為には”不必要な色のマナ”を取り除いてやればいい
という事になる。
言い換えれば”必要な色のマナ”だけを摘出し、他の色を透過させないこと”を実現させてやる
ということだ。
 
ここで一度前にもどり、”通常物質”の混色の場合、なぜ暗色になるかということについても
触れておきたい。
この世界において、”色を持たない通常物質は存在しない”ということを認識して頂きたい。
しかし、私の仮説では実の所”通常物質には全て色は存在しない”と言わせて頂きたい。
この矛盾をどう説明するかというと、簡単である。
すべての”通常物質”には、”色のマナ”を”反射”するマナが混合されていると考えたのだ。
”光”として世界に溢れている”色のマナ”は、”通常物質内に含まれる反射のマナ”によって
限られた色だけが反射され、我々の目に”色”として反映されているのではないか。
”通常物質の混色”という行為は、すなわちその”反射のマナ”も混合することになり、
その行為によって反射が鈍くなり、光を失い”黒”へと転じていくとしたら合点が行くのでは
ないだろうか。また、”光”の無い場所では、全ての物質は色を無くし”黒”として眼に
映るのである。全ての物質の根本色は”黒”であり、それは何も無い状態である。

 ”通常物質”について考えることで”反射”についての概念を得た私は、それを利用して
”光からの限定色の摘出”が可能であるとしたい。
つまり、”反射物質”のみを集積し、光源に被せることにより有色の色を摘出することが
できるというものである。
次の項からは、その”反射物質”について―――


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「お借りしてた本の返却にきたんですけど!」
「ターレスさん?」
男に比べたら、子供か孫かといった年頃の二人組みの男の子達が、部屋を訪ねてきたのは
彼が寝入ってしまってやや経った後の事だった。二人とも、おそらくまだ
杖は授かっていない見習いだろう。
数度のノックになんの反応も無かったことにいぶかしみ、そっと開いた扉から、行動力に溢れ、かつ礼儀にさほど聡くない若い男の子達はそのまま部屋に上がり こむと机に突っ伏したままの初老の魔術師に近づいていった。
「あっ」
「ぴっかりさん、寝ちゃってるのか」
「道理で何も返事がないと思った」
もう一度、烏が情けなさそうな声を出した。
その烏の声に、初老の男が僅かに身じろいで目を醒まし、目を擦りながら頭を擡げた。

その男の顔を見たやいなや、二人の見習い魔術師たちは、大慌てで本を返却して礼を述べるとその部屋から逃げるように外へ走り出ていった。
未だ寝ぼけ眼だった初老の魔術師は、その少年等の行動に訳がわからず、使い魔である烏と顔を見合わせる。
「どうしたっていうんだろうねえ、あの子ら・・・何か悪い物でも食べたのかしらん?」
『一先ず、顔を洗ってくることをお薦めしますがね。ワタシでも笑っちゃいそうですから』
扉の外から、少年達のけたたましい程の笑い声が響いてくる。
魔術師の顔には、研究の痕が明瞭に映し出されていた。



しっかりと、黒いインクで。



  


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