神の声と旅立ち( 2002/05/22)
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作者
深海魚
登場キャラクター
ビアモフ・ウィルモッツ



ごうごうと燃え盛る炎の前で腰まで届く見事な髯を蓄えた大地妖精 は自分の鍛えた剣を振り上げ、振り下ろした。その先には見事な色彩の斧槍が刃を上に向けて置いてある。ガキィィンという金属のぶつかり合う音と共に剣は折 れた。

「また駄目じゃったか………」

そう呟くと大地妖精はガクリと膝をついた。


“剣の国”と呼ばれるオーファンの第二の都市グードン。其処に“美髯工房”という鍛冶屋がある。
一月ほど前に其処に一組の冒険者が来た事から事は始まった。

「ビアモフのおっさん、今日は良いもんを土産に持って来たぜ」

そう言いながらパーティのリーダーである戦士のロンドーは布に包れている棒状の物――店の天上に届くほどの長さだ――をゴトリとカウンターに置いた。

「なんじゃこれは?」
「良いから布をとって見てみなって」

ビアモフと呼ばれた大地妖精の問いにロンドーはパーティの仲間と顔を見合わせニヤニヤしながら答える。
やれやれ何時もこいつ等は遠まわしに物を言いよると思いながら布をビアモフは取った。その中身を見てビアモフは絶句した。見事な色彩の斧槍が出てきたから である。それが真銀(ミスリル)で出来ている事は明らかだった。

「恐らくですけど、“色を鍛える者”の作だと思いますよ」
「な、なんとこれがあのソムスカの造った作品か・・・」

ニコニコとした魔術師の言葉に身を震わせながらビアモフは斧槍を手に取り眺めた。まさに逸品という言葉が相応しい、いやそれ以上の物と言っても過言では無 い作品であった。

「しかし、こいつを買い取るほどの余裕は無いぞ」
「ああ、買い取って欲しいんじゃないんだ。貰ってくれ。ビアモフの旦那には駆け出しの頃から世話になってるしな。それにコイツを使える奴が俺達の中にいね えんだよ」
「わしは武器を振るうのが仕事じゃなくて造るのが仕事なんじゃがなぁ」
「な〜に、使わねぇなら店に飾っときゃあ良いさ。この汚ねぇ店もちったぁ見栄えが良くなるんじゃねえか?」
「何じゃとぉ!!」
「まあまあ押さえて下さい。じゃあ、こうしましょうよ。とりあえずこのお店に預けておくっていう形に。それなら良いじゃないですか。ビアモフさんも戦士と しての訓練をつんだことがあるわけですし、興味が無いわけじゃないでしょう?」

そう提案した魔術師の言葉に渋々納得しその斧槍をビアモフはとりあえず預かるという形で受け取った。
魔術師の言った様に戦士として興味があったのは確かである。しかしそれ以上に鍛冶師として興味を持ったのは否めなかった。
ビアモフは毎日それを眺めているうちにこの魔法の斧槍に自分の鍛えた剣が通用するのか知りたくなっていった。そしてある日自分の鍛えた剣で斧槍の刃の部分 を思い切り打ち付けたのである。
その結果脆くも剣は折れてしまった。ビアモフの自尊心と共に。

それから彼は狂ったように剣を鍛え始めた。魔法の武器を越える・・・いや、勝てないまでも負けないために。鉄だけで無く色々な金属を混ぜてみたり、水を色 々と変えてみたりもした。水の代わりにモンスターの血も使ってみようともした。結局は弟子に止められたが。
いつもは行きもしない鍛冶神の神殿に赴き神に祈ったりもした。鍛冶神の信者であったが、彼にとっては多くの武具を鍛え神殿に収める事が鍛冶神の信仰だった からだ。

しかしどれも徒労に終わった。

弟子達の――と言っても二人だが――「いい加減にお店の剣を鍛えて下さい」という言葉を「店はお前らに任せる」と切り返し、何本も何本も剣を彼は鍛えて いった。

そしてある日弟子たちに言ったのである。

「これから三日間店を閉める。そしてわしは店に篭って剣を鍛え続ける。その間この店には入るな。いいな」

これは彼なりに考えた結果だった。もっと自分を追い込まねば神も力を貸してくれず、魔法の武器に負けない剣も鍛えられないだろうと。

ガキィィンという金属いのぶつかり合う音共にまた剣が折れた。すでに彼が篭ってから造った何本目かの物だった。不意に折れた剣が握っていたはずの拳から落 ちた。拾おうとしたが掴めなかった。握力が無くなっていた。彼は自分の手を見てみた。手の平は皮が擦り剥け血が流れていた。

「何故じゃ!!鍛冶神よ!!今の人間には古代王国に造られた武器を越える事はできんのか!!わしは認めん、認めんぞぉぉぉ!!!」

そう叫ぶと彼は床に倒れた。


……………て見せよ
(ん?だれじゃ?もっとはっきり喋らんか)

ビアモフは薄れ行く意識の中で答えた。

…………越えて見せよ
(だからもっとはっきりと喋らんか)

そなたの力で越えて見せよ
(分かっておるわいだからこうやって必死になっておるんじゃろうが)

そしてビアモフは気を失った。


「本当に行くのかい?」
「ああ、もう決めた事じゃからな」
「そうですか。寂しくなりますねえ」

ビアモフは朝靄の中自分の店の前にいた。周りにはロンドーを頭とするパーティ一行と彼の弟子がいた。

彼は店に篭ってから三日目の夜に心配になって見に来た弟子達に気を失っている所を見つけられた。その時衰弱していて今にも死にかけていたのだ。もしもほ おって置かれたら死んでいただろう。
そして元気になった時に急に言ったのである。

「わしは旅に出る」

と。弟子達は何を言っているのだと止めたが、彼は一所にいては魔法の武具を越えることなどできないのだ。そのために旅に出て色んな所をまわって見る。そう 言った。そして店の事はお前達に任せる、とも。

「あの斧槍は置いて行く。もしも自分であの武器を越えられたと思ったときにはまた帰ってくるからその時まで大事に保管しておいてくれ。もっともお前さんた ちが手に入れたものじゃからどうしようと問題ないがな」
「何言ってんだよあれは旦那にやるって言ったろ。それにあれがありゃあまた此処に戻ってくるんだろ?待ってるからよ。」
「ああ、有難うよ。帰ってきたときには真っ先にお前さんたちに武器を鍛えてやるわい」

それぞれがビアモフと言葉を交わしていった。
そして旅立ちの時が来た。

「それじゃあ皆も元気でな」

そういうとビアモフは歩き出した。グードンの東・・・“魔法王国”ラムリアースに向かって。

彼が気を失いかけた時に聞いた声が神の声だと気づくのは数ヵ月後の事であった。



  


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