赤いガーゴイル
( 2002/09/22 )
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作者
かいちょ〜文成
登場キャラクター
ビィ・F・イータ
思えばあの道を左に行くべきだったのである。
「いやぁ〜、まいりましたね。」
声の調子からして切実なる状境ではないように思えるが、本人はかなりまいっていた。
ビィ・F・イータは流れのバーテンダーとして街道沿いの街をめぐっていた。
冒険者を始めたさいに購入した板金鎧と、訓練によって身についた戦闘の知識を糧に、名も無き街道を歩いていた。
分かれ道で標識が倒れていたとき、その倒れ具合から進む道を判断したのがそもそもの間違いであった。
うっそうと覆い茂る原生林を、道だけをを頼りにすすんでいく。
陽光の届きにくい原生林の中は、日の入りよりも格段に速く闇に覆われていく。
なるべく早く野営の準備をと、作業を始めたその時、ぽつりぽつりと雨が降り始めた。
『弱り目にたたり目』とは正にこの事である。
しかし、『捨てる神あれば拾う神あり』と言うことわざのとおり、ビィの視界には雨宿りに最適かと思われる大きさの洞穴がぽっかりと口を開けている。
ここまで近付いて何者にも遭遇していないというのは、よほどの運が良いか何者も住んでいない証拠である。
念のためレイピアとラージシールドを構え洞穴に近付く。
目を凝らして薄暗い洞穴を覗き込む。
入り口付近に生き物の気配はないので、ランタンに火を灯して奥を確認しに行く。
数十メートル歩いた所で行き止まりに当たった。
ここまで歩いてきて、特に危険と思われる物に遭遇する事はなかったので、本日のねぐらはこの洞穴に決定した。
入り口に鳴子を設置し、洞穴の真ん中あたりに荷物を降ろす。
雨に濡れた武具を丹念に拭きあげ、磨き上げる。
それから保存食の夕食で空腹を満たし、他にすることもないので眠りに就いた。
真夜中だろうか?ゴゴゴッという物音で目を覚まし、音が聞こえてきた洞穴のおくの方を見た。
突き当たりの壁が開いて、その奥から魔法の光に照らされた人影が出て来る。
それと同時にこの世のものとは思えないほど不気味な咆哮が、奥から聞こえてきた。
ビィはその咆哮によって眠気が吹き飛び、板金鎧の装着を急いだ。
その間も状境は刻一刻と変化している。
奥から冒険者風の4人がでて来て何やら叫んでいる。
そのうち1人は負傷をしているのか、ぐったりとして仲間に引きずられている。
しばらくしてもう1人が飛び出してきて、先に出てきた人が壁を閉めようとしていた。
が、その時、閉めようとしていた壁が炎に包まれる。
そして奥から燃えるような赤い色をした化け物が出てきた。
背中から翼としっぽが生えており、その怪奇な外見は書物などで見聞きしたガーゴイルのものと一致する。
しかし、赤い塗装の施されたガーゴイルなどというのは聞いた事がなく、また、その強さも聞き及んでいたものよりも桁違いに強いことがビィの頭の片隅に引っかかっていた。
そして程なく、冒険者と赤いガーゴイルとの戦闘が始まる。
最後に出てきた板金鎧を着けた戦士が矢面に立ち、後ろの2人が魔法で援護している。
軽装の人物がチェインメイルを着た戦士を引きずって後退している。
どちらかと言うと苦戦して、全体的に押されている感じである。
敵がガーゴイルならば、自分の実力でもなんとか戦闘に参加出来る。そう思って、
「何か手伝える事はありますか?」
と、ビィが冒険者たちに声をかけると、軽装の人物から返事が返ってきた。
「腕に自信は?」
迫力のある声でそう聞かれたビィは、思わず「ありません」と即答した。
じゃあ、コイツを頼むと軽装の人物は言い残し、赤いガーゴイルに突っ込んでいった。
二対一になった事で、戦いは一進一退を繰り返している。
チェインメイルの戦士を安全な場所まで運ぶと、このパーティーの癒し手が応急処置を施した。
その癒し手は精神力を使い果たし、疲労の色が表情に表れている。
それでも献身的に尽くす姿勢は、流石は神官だと感心させられる。
応急処置の最中、あの赤いガーゴイルの事を聞いてみた。
その神官が口にした名は、悪魔ザルバード。
確かガーゴイルのモデルになったレッサー・デーモン。
とてもビィの手におえる相手ではなかった。
軽装の人物に『腕に自信は』と聞かれた時、無いと答えられたことを心の中でラーダに感謝した。
遺跡の奥で遭遇して戦闘になったが、戦士の1人が深手を負ったので逃げてきたと言う。
応急処置が終わった時、事件は起きた。
板金鎧の戦士の剣が折れてしまった。
そのうえ軽装の人物も手傷を負い、後ろに下がってきた。
あの戦士が使うような予備の武器をこのパーティは持っていなかった。
あるとすれば少々貧弱だが、ビィの持っているレイピアぐらいだろう
「敵の注意をひきますんで、これを渡してやってください。」
ビィは神官にレイピアを渡し、ヘルメットのバイザーを下げる。
楯を構え、叫びに近い気合をだし、ザルバードめがけて突進する。
そして、楯を構えたまま体当たりを食らわす。
ダメージを与えるには程遠いが、気を引くには十分すぎるほどであった。
敵の鉤爪がビィめがけて振るわれる。
ビィは楯で受け流そうとするが、流しきれずにヘルメットが宙を舞う。
戦士にレイピアが渡ったのを確認すると同時に、敵の吐いた炎がビィを包みこんだ。
地面を転がりながら火を消そうとするが、そのあいだも炎はビィの肌を焦がしていく。
やっとの思いで火を消したが、どうやら体力を使い果たしてしまったらしい。
薄れ逝く意識の中で、ビィの瞳には悪魔の頭を貫く戦士の姿が映し出されていた。
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