黎明の乙女 ( 2002/11/07 )
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作者
しろねこ
登場キャラクター
カント・アンジェリコ



ムディールの武装商船『暁の突風』號の檣頭で、カント・アンジェリコは陽気な旋律を見事な口笛で奏でていた。
斜め正面から極上の絹のヴェールのように紺の空を艶やかな薄紅に彩っていく夜明けを眺めながら、楽器はよりいっそう軽やかに演奏者の気持ちを代弁する。
 水兵の花形、檣楼員たるカントは、『暁』號の中でここ、檣頭横材にちょんがけしているのがいっとう好きだった。ここはこの貴婦人の按配をどこよりもよく感じられるし、眺めは良いし、そして何より甲板上では呼子と間違える恐れがあるので禁じられている口笛が思い切り吹けるのが良い。
 そう、ここは自分だけの世界だ。

『暁』號はベルダイン・ガルガライス・ロマール・エレミアで商談を終え、最後の寄港地オランはカゾフへと向かっていた。
2本マスト、横帆装――即ちブリッグ型の『暁』號は、まもなく夜行用に縮帆した全ての帆を広げ、更にはスタンスル(補助帆)まで張るだろう。
そうすれば、この海上で彼女を阻むものなどなにもない。


―― そう、その時こそ、彼女は最高なのだ ――


カントは感慨と一緒に胸いっぱいに空気を吸い込み、遥か眼下の甲板を見下ろした。


「おぉーい、デッキ(甲板)!! 左舷船尾斜め後方に帆影!」


その最高の一体感を味わうためにも、片付けるべきことを片付けねば。



さぁ、取り掛かるとしよう。



  


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