風はない。気温がかなり低いことを証明するかのように、細かな雪がただ降り注ぐだけだ。
崖の下に仰向けで寝ころんだまま、白い空を見上げた。うすぼんやりと、雲を通して太陽が見える。けれど、それすら、大量に舞い落ちてくる雪にかき消されそうになっている。
冷え切った汗で、肌が粟立つ。どうせ近場にしか行かないのだから、と、厚手のマントを1枚羽織ったきりだった。
真っ白に染まりゆく視界に、思わず息が漏れる。フラウには、実はまだしっかりと触れたことはなかった。こうしていれば、うっすらと気配は感じる。そこに、シルフにも似た……それよりも冷たくて透明な気配を感じる。けれど、その意志にはまだ触れていなかった。
ただでさえ、何の用意もなく登るにはきつい崖だ。片足が動かないなら尚のこと。ここから少し南にある橋を誰かが通るなら、そこまで声は届くかもしれない。が、この季節に薬草採りに行く馬鹿はいない。
何か助けになるものはないかと辺りに視線を走らせる。そのついでに、精霊力感知も試みる。が、感覚に触れるものはおそらくはフラウの気配だけ。
戻れない。なのに、不思議と怖さは感じなかった。
戻れば、親父と顔を合わせる。こんな精神状態のまま、親父と顔を合わせれば、親父は気づくだろう。いろいろと……そう、俺の中の、エルフに対する感情を。
多分、親父は気づいてる。俺が口に出さないことも察している。……親父に、これ以上気を遣わせたくはなかった。
もしも親父の口から、出てしまったら。
『私さえいなければ、おまえはここを出ていける』
それは、俺がさっき思い浮かべた言葉。
彼にそう言われたら、俺はその瞬間に迷わずにいられるだろうか。馬鹿なことを言うなと即座に否定できるだろうか。一瞬でも迷えば……その一瞬が親父を傷つける。
降り続く雪と、濃淡のない真っ白な視界。
身動きひとつせずに、雪の中で仰向けに寝転がったまま、目を閉じる。耳元で、かすかな音がした。
それは、雪が降り積もる音。
息をひそめて、なるべく音と気配を消す。
しゃらり、と音がした。何か他の音が少しでもあればそれに紛れて消えてしまうほどさやかな音。
さ、さ、さ、と。一度気づけば、それはあちらこちらから聞こえてくる。当たり前だ。今この瞬間、雪は数え切れないほどに降り注いでいる。
自分の顔の上に、手をかざす。そうして腕を伸ばして、掌を自分から遠ざけた。
無数に降り注ぐ雪を受け止めようとしたわけではない。吸い込まれそうな白い空と、俺の存在を綺麗に無視してくれている雪たちに、せめて抗ってみたかっただけかもしれない。
かすかに吹く風に、容易くさらわれてゆく雪。けれど、さらわれた分を埋め合わせるように、絶え間なく降り続く。
雪を、風の花と呼ぶ理由が分かったような気がした。降りしきる花びら。真っ白な羽毛にも似た、柔らかな手触り。そこに感じるのは冷たさではなく……。
吹く風の中に、シルフの姿が見える。それは、薄青い半透明な女性の姿。アーモンドの形の瞳と尖った耳先。……エルフの姿に良く似ている。
『何故、同化出来ぬ』
エルルークの言葉が蘇る。
何故、だって? 決まってる。俺はエルフじゃない。
シルフもドライアードも、そしてウンディーネも、エルフの姿によく似ている。もちろん、そうじゃない精霊たちもいるけれど、それは例えばドワーフに似ていたり、人間に似ていたり……決して、人間混ざりに似てはいない。
純粋であることが求められている、と思った。
すでに混ざった者である自分は、これ以上何かに混ざることは出来ない。混ざることは溶けること。エルフとしての自分を溶かせば、人間としての自分が残る。人間としての自分を溶かせばエルフとしての自分が残る。ならば自分は、結局溶けきることは出来ない。
エルルークの言うように、初歩の魔法だけでも覚えられたのは奇跡なのか。だとしたら自分はこれ以上の上達は望めないのだろう。
それならそれで構わない……と、ぼんやりと思った。
精霊魔法の遣い手としては上達していなくても、精霊界に触れていることだけは変わらないなら。こんな自分でも、精霊たちは認めてくれたから。彼らに触れ続けていることが許されるなら……。
精霊界の存在をはっきりと認識出来たのは、7年前だ。あれから7年経って……そしてこれ以上は上達しないなら、それはそれでいい。もともと、上達することだけが目的なんかじゃない。ただ……そう、ただ、あの世界を深く知りたいと思ったから。彼らのことをもっと知りたいと思ったから。
──諦めよう。
エルルークの言うように、同化しきれない自分には所詮無理なことなのかもしれない。
右足の痛みは、今では痛さというよりも熱さに変わっている。半分、麻痺しかけているような、それでいて痛みと熱さだけは絶え間なく。
息を吐き出した。大きく。
かすかに視界が揺らぐ。
「……ち。あの野郎……調子に乗って、魔法使わせ過ぎだよ……」
その瞬間。
ふ、と。頬を撫でる感触。
シルフとは明らかに違うその感触に、顔を上げる。真っ白な瞳が俺を見返していた。シルフによく似た……つまりは、エルフによく似た姿。ただ、髪も肌も瞳さえ真っ白で、その全身から発するのは透明な冷たさ。そして、溶けそうな儚さと……何故か、優しさ。
「
……フラウ…? 」
尋ねた俺に、微笑んで頷く。
「
やっと、会えた 」
「
どうして? 俺は見ようとしてた。なのに…… 」
「
あたしたちはいつもいるわけじゃないから。機会とか時期とかそういうの 」
フラウを感じた瞬間から、どういうわけか、寒さが薄らいだような気がした。
「
……わかんねえよ、その言い方じゃ 」
苦笑する俺に、フラウが笑う。噛み合わない会話。でもそれでも構わなかった。もともと精霊たちとは意味のある会話が成立することは珍しい。
なのに、俺は聞いてみたかった。答えを求めた。
それはエルルークに向けて吐き出そうとして、それでもそれは矜持が許さなかった疑問。精霊に尋ねてもおそらくは答えなど返らない。それならそれでいい。
「
なぁ? どうしておまえたちは……エルフに似ている? 」
「
なぁに? あたしたちはあたしたち。誰にも似ていない 」
「
似てるよ。エルフに似てる。その瞳の形も、耳の長さも。おまえたちは、純粋な者だろう? だから純粋な者の形をとるのか? だとしたら……純粋じゃない者はやっぱり、おまえたちに同化できないのか? 」
「
わかんない。わかんないこと言わないで。でも、さっき貴方は他のことはわかったはずなのに。あたしたちの囁きを聞いたでしょう? あたしたちが舞い降りる音を聞いたでしょう? その時に冷たさ以外のものを感じ取れたでしょう? 雪を冷たいとしか思わない人には、あたしたちには触れられない。貴方は、それ以外のものを感じ取ったから 」
嬉しそうに、俺の頬に手を伸ばすフラウの……それは冷たさではなく。優しさでもなく。温かさでもなく。ただただ透明で純粋で。
切なさ。
熱に触れれば抗いもせずに溶けてゆく彼女たちが教えてくれたのは、一瞬の煌めきにも似た、柔らかな切なさ。
ふ、と。自分が溶けてゆく感じがした。
フラウたちの切なさが、心の内に入り込んでくる。俺はそれを拒否しなかった。柔らかく受け止めて、彼女たちを溶かさないように包み込む。
かじかんだ指先。冷え切った肌。マントの内側に入り込む冷気。その瞬間、怪我の痛みも忘れた。
ただ、溶ける。
認めてもらうとかもらえないとか。そんなことがどうでもよくなった。自分はただ、ここにいるだけなのだから。フラウたちと同じに、何かに触れたなら一瞬にして溶けてしまっても不思議はないほどにちっぽけな存在。
自分の存在が稀薄になる。薄れ、混ざる。周囲に満ちるのはフラウたちの気配。それに混ざるシルフたちの気配。いつでもそこにあるのはウィスプとシェイド。いつものように、伸ばした手に触れる感覚じゃない。それは、全身で感じるもの。自分の肌がなくなり、肉がなくなり、骨が溶けていって、その先で感じるもの。自分を構成するものの全てが溶けて、周りと混ざる。そして混ざり合ったものがまた、自分に近寄ってきて、自分を再構成しようとする。
ああ、そうか、可能なのか、と思った。もともとは何もかも同じものだから。生命の精霊が他の精霊たちをとりまとめてるに過ぎないのだから。だとしたら、その中の幾つかが取り替えられたとしても、それは結局もとと同じもの。
自分であるか否かさえ、そこでは関係がない。誰がどれであってもいい。そうなら……確かに、種族なんか何の関係もない。
──同化するとはこういうことか。
自分を手放すのは。薄められ、混ざり合って。溶けてゆくのは。
心地よい。
快感と表現するには、言葉が足りない。自分を構成するもの全てが、解き放たれる歓喜。高揚し、賦活する俺の中の何か。何にも縛られず、羽のように浮遊する感覚。熱さも冷たさもなく。
「
これが、あたしたち 」
涼やかな声。頭の中に直接響く……いや、まるで自分が自分に向けて呟いているような、そんな音のない囁き。
俺は、ゆっくりと目を開けた。
白く舞い落ちる雪が睫毛にかかる。瞬きでそれを払って、今まで忘れていた息を吐き出した。
「
……わかった。これが、溶け込むということか 」
「
そう。貴方はあたしたちの一部。あたしたちは貴方の一部。もとは同じもの。だから怖がらなくていい 」
「
そうだな。……怖くはない 」
言われてわかった。多分、今までは怖がっていた。同化しろと言われて、出来ずにいた。それは俺が純粋ではない者だから所詮は溶け込めないのではなく。
わかった。
けれど、もうひとつわかったことがある。
それでも俺は溶け込めないのだということが。自分を精霊に委ねる感覚はわかった。けれど、俺はあの中で魔法を使うことはきっと出来ない。
あの瞬間、俺は忘れた。自分のことを。親父のことを、お袋のことを。
──それは、俺じゃない。
「
なぁ。溶け込まなくても……おまえたちは俺の傍に居てくれるか? 」
「
あたしたちはあたしたちが居たいところに居る。時々、精霊界からこっちには来るけれど 」
同化する感覚がわかって、そうして、自分はそれじゃ駄目なこともわかって。そうすると、他のことも見えてきた。いつも、俺がどうやって精霊たちに手を伸ばしているのか。
それはエルルークが言ったように力尽くなんかじゃない。
俺は、呼んでいるんだ。
俺の傍に来てもいいという精霊たちを探して。俺の声に応えてくれる精霊たちを呼んでいる。全ての精霊たちを従わせようとするなら、力尽くにもなるだろう。そして、全ての精霊たちの意志を感じ取ろうとするなら同化するしかないだろう。
けれど俺は、全てじゃなくていいんだ。
それは俺の世界を構成するものと同じ。全てじゃなくてもいい。例えば、親父が笑っていてくれるなら。お袋が安心して仕事をすることが出来るなら。俺は、親父とお袋に望まれて生まれてきたのだから。彼らの幸いがそこにあるなら、俺の幸いもそこにある。全てなんか……望んでいない。
誰が否定してもいい。認めてもらえなくてもいい。全てじゃなくていいんだ。幸いと呼べるものが確かにそこにあるなら。
だから俺は、俺の声に応えてくれる精霊たちがいれば……それでいいんだ。
「
ありがとう。おまえたちはいつも優しい。それだけで……十分だ 」
精霊語でそう囁いて、目を閉じる。意識が、なにか柔らかいものに包まれる感触。その中に落ちる寸前、ふと思いだした。
……ああ、そうか。忘れていた。まるで逆じゃないか。
『親父さえいなければここを出ていける』んじゃない。
親父がいるからこそ……例えここでだって、生きていけるんだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……ん。……いてぇ。……いてぇぞ、ちくしょうっ!!」
目を覚ましたのは、痛みのせいだった。
がば、と跳ね起きて、その動きだけで右足に随分響くと顔をしかめて……そうして、自分がベッドの上にいることに気が付いた。
「……汚い言葉を使うな。おまえにエルフ語を教えたのは私だ。なのに……どうしておまえは、そうまでこのエルフ語を崩せるのか……ある意味それも才能だな」
呆れたような言葉が降ってくる。見慣れた銀髪。エルルークだった。
「なんで、俺はここに?」
「覚えていないのか」
「全然」
「…………」
黙り込むエルルークの顔は見慣れた無表情で。もしもエルルークが俺を捜しに来たんだとしたら、その時に俺は何か口走ってしまっただろうかと不安になる。
「なんだよ」
「……おまえを見つけて、戻るから立てと声を掛けたら、『うるさい、馬鹿野郎』と怒鳴った。帰りたくないのかと聞いたら、『放っておけ』とふてくされた。じゃあ勝手にしろと言ったら、私のマントの裾を掴んだ」
「…………」
今度はこっちが思わず黙り込んだ。それは……うっすらと記憶にある。ような気がする。
「……常々思っていたのだが」
「…………なんだよ」
「おまえはかなりの見栄張りなのか? 怪我をしてるから立てない、と何故そのひと言が言えない。記憶にないということは、ほとんど無意識だっただろうに」
「言おうが言うまいが同じだからだよ。たかが人間混ざりが1匹。死んでくれたほうがあんたらには都合がいいだろう」
エルフたちは、俺に視線を合わせることすらしない。このエルルークと、親父と、親父の従姉妹以外は。
「…………実際、拗ねたまま戻ってこぬならそれもしょうがないと思ったが。死なれても寝覚めが悪い。何より、おまえが死ねば我が友サーヴァルティレルが哀しむからな」
親父の名前を出して、ぶっきらぼうに呟くエルルーク。
「……ふん。そして……ここは? どこだ?」
「施療所だ。癒しの魔法でも骨を接ぐわけにはいかんからな。……まったく。子供というものはどうしてこんなに元気なのか。この森ではしばらく子供を育てておらぬ。忘れていた感覚だ」
「……ガキじゃねぇって言ってんだろ」
「子供だよ、おまえは。……混ざり者と我らとでは作りが違うのやもしれんがな。言っておくが、熱はまだ相当高いはずだ。それでそれだけ反抗出来るのだから、子供というものは凄い」
言われて寒気に気づく。それでも、そこでおとなしく毛布に潜り込むのも癪に障る。
「……うるせぇな。腹減った。何かメシ食わせろよ。シェイドの力を考えると、どうやらもう夜だろ。半日食ってないんだからな。寝る前にメシくらいよこせ」
「…………半日ではない。2日半だ。まぁ、食事を抜くほどに私は非情ではない。私に手間をかけさせた償いは後で考えるとして……シェイドの力、と言ったな。また力尽くか。体力も弱ってるであろうに、それをするだけの気力ならあると……」
「力尽くじゃねえっ!」
怒鳴り声が足に響く。耳を塞いだエルルークよりもきつく眉を寄せて、その衝撃が過ぎるのを待つ。そして、あらためて口を開いた。
「……力尽くじゃない。気づいたんだ。フラウが教えてくれた。……同化するということ、溶け込むということ……あんたが言ってたことはわかった。それは、自分自身を稀薄にして、全てを精霊に還元することだろう? 還元して混ざり合って、その中に意識を委ねて」
「…………気づいたと?」
ぴくりと動くエルルークの片眉を見て、どうやらあれはやはり正しい方法だったのだと知る。
「ああ。気づいた。そして、あんたにいつも説明しようと思って出来なかったことにも気づいた。……精霊に同化すれば、俺は俺じゃなくなる。俺は俺のままでいないと、精霊と触れあうことは出来ない。それは決して力尽くじゃなくて。俺は……親父のような精霊を探していたんだ」
ベッドの脇にある椅子に、エルルークが腰を下ろした。視線だけで話の続きを促す。どうやら聞く耳だけは持っているらしい。
「精霊たちは……まるでエルフだ。その姿かたちが表すように。シルフもドライアードも…そしてフラウまで。物質界に現れる時には、エルフに似た形を取るから……だから俺は、彼女たちに同化出来ないと思ってた。けど、同じ理由で……親父のようなエルフだっている。森の外に出て、半妖精を愛するエルフだっている。だから……精霊界から出てきて、俺に従ってもいいと思ってくれる精霊たちだっているはずなんだ。
俺は……同化してしまえば、そのことにきっと気づかない。だから、同化しないで……物質界から1歩だけ進んで、狭間に立ったままで、そこから手を伸ばすんだよ。そして呼びかける。混ざり合わずに、ただ呼ぶんだ。俺のもとに来てくれ、と。力尽くじゃなく。……そうすると、こんな俺でも、覗きにきてくれる精霊はいる。だから……俺は彼らの力をそこで借りる。精霊界に入り込まずに。物質界と精霊界との狭間に立ったままで。……あんたは、それでもやっぱり認めないか?」
一気に説明して……そうして反応を窺った。エルルークの長い銀髪が揺れる。考え込んでいるのがわかった。
互いに黙りあったまま、さすがにそろそろ体を起こしてるのがきつくなってきたな、と思う頃。エルルークがゆっくりと口を開いた。
「……私にはわからぬ。そのような使い方をしたことはない。だが、エルフのうちにも、サーヴァルティレルのような者がいるのは確かだ。だからこそ、おまえのような存在がある。……認めることは出来ぬよ。それは我らエルフの在り方にも関わることだから。けれど……否定することはすまい。おまえのようなやり方で上達が望めるとも思わぬが、それはそれで、おまえの限界であろうから」
「上達なんざどうでもいい。でも……そうだな。俺は15でここまで来た。あんたが15の時にはどこまで出来た? …………いつか、あんたを追い越してやる。俺は俺のままで。あんたはエルフの在り方にこだわる。だったら俺は、人間混ざりの在り方にこだわってやる。それはあんたに認めてもらう必要はない」
結局は、認めてもらえない。それはわかっていた。けれど、別に構わなかった。それにこだわる必要はないと、フラウが教えてくれたから。
所詮、最後は何かに混ざりゆく。人もエルフも。きっと混ざり者もそうやって生まれてきた。なら、何かに混ざる時まで、俺は俺のままでいる。そして、精一杯足掻いてやる。
フラウが教えてくれたものは、刹那の煌めきにも似た切なさ。精霊たちはひとつひとつ、俺に教えてくれる。だとしたら、もっと他の精霊たちを知ることで、もっと知ることが出来る。
知ることは武器だと思った。
せめて抗うための。そのための武器。
「……弟子は師匠を超えるのが義務だ。やれるものならやってみるが良い。その短い寿命で、出来る限りのことをな。…………食事を運ばせよう。食事が済んだらおとなしく寝ていろ。さっき使いをやったから、そろそろサーヴァルティレルもこちらに来る頃だ」
部屋を出ていくエルルークの銀髪を見ながら、俺は頷いた。
そう、寿命は限られている。エルフに比べればほんの少しの一生かもしれない。けれど、エルフだって、精霊に比べれば短い一生だ。それは決して永遠ではないから。
それなら……100年も200年も、そして1000年も。たいした違いじゃない。
この森では、確かに、エルフとエルフじゃない者とが暮らしている。
けれど、それはどちらにしろ、精霊ではない者という意味でなら同じなんだろう。だとしたらもう少し……そう、もう少しだけこの森にいてもいいような気になった。
<続>