ベイター領顛末記 ( 2003/02/09 )
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作者
登場キャラクター
ケヴィン



ベイター領。
ハザード河口の西側一帯、沿岸部の一角である。
一部の商人の間では最近台所が苦しいなどという噂も流れているが、領民の評判は上々。
自由人の街道から2日ほど南へそれた所という立地のせいか、いささか閉鎖的なものの治安もよい。
ごく平和な1小領といえよう。


冬の冷たい潮風がケヴィンの立っている所まで上がってくる。
まだ若い、少年といっても差し支えないだろう。
やわらかくなめした皮鎧を身につけ、背には三叉槍を結わえている。

目の前には、海に向かってなだらかに傾斜したみかん畑が夕日に照らされている。
この一帯で採れるみかんは特に上等であり、毎年王室にも献上されるとの事だった。


そのみかん畑に怪物が現れ、畑を荒らしているという。
客からそんな噂話を聞いた冒険者の店の主人は、その噂の真偽を確かめさせるべく、ケヴィンを現地に向かわせた。


だが・・・。


「おっかしいな〜?ここも別に怪物に荒らされたって感じじゃないよな?」

そう言ってケヴィンはぼりぼりと頭をかいた。


すでに収穫は済んでいるのだろう。
すっかり葉を落としたみかんの木々が寒々とした姿をさらしている。
だが、ぽつぽつと伐採跡の空き地はあるものの、木がなぎ倒されたり、何かが這いずり回ったりといった様子はまったく見つからない。

そんな村が、これでもう3つ目だった。
さらに奇妙な事に、これまでの2つの村では、畑を荒らす怪物の事など噂にすらなっていなかった。
これは、怪物が出ると言う話そのものがガセだったのかな?…ケヴィンはそんな疑いを抱き始めていた。


目をみかん畑から海岸の方に向けると、小さな集落があった。
海岸に沿って視線を動かすと、端の方にこれも小さな港があった。
港の傍には倉庫があり、見張りがいるのが遠目に見えた。


前の二つの村には港や倉庫といったものはなかった。
まして、見張りなど。


これで何もなかったらサギだよな。
そう考え、ケヴィンはなるべく木々の陰になりながら、ゆっくりと斜面を下り始めた。


日が沈み、辺りが薄暗くなる頃。

倉庫の裏手にたどり着いたケヴィンは、中の様子を伺おうとした。
しかし倉庫の裏手に唯一ある窓は高い位置にあり、ケヴィンの身長ではとても届きそうになかった。
なんとか中を覗こうと悪戦苦闘していると、足音が近づいて来た。
見張りに気づかれたのだろうか?


正面からは足音。
右手は倉庫の壁。
左手は障害物が何もなく、恐らく足音の主から丸見え。

ケヴィンは意を決すると、足音に背を向けるとまっすぐに走り出した。
目の前には海。
迷いなく、綺麗なフォームで飛び込んだ。


倉庫の表から回ってきた見張りは、しばらく周囲の様子を伺っていたが、やがて本来の持ち場に戻っていった。
見張りのつけている鎧は、彼がベイター卿配下の者である事を示していた。


一方その頃。
オランでは、今年は品薄らしいとの噂が流れたみかんの相場が上がり始めていた。




  


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