ア ルカンシエル( 2002/01/30)
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作者
あいん
登場キャラクター
母と娘



※執筆者註:本編中に出てくる暦は登場キャラたちの聚落のものであり、公式設定に準じているとは限りません。悪しからず。


◇◆◇◆


アネモネのつき みっか はれのちくもり


あした、あたしとママはしゅーらくをでていく。
それはフラウがダンスしてたころに、ちょーろーとママがおはなしして、きまったこと。
だから、きょうはそのじゅんびでいそがしかったの。

いっぱいあるくことになるから、これだけはぜったいにもっていきたいものだけをえらびなさいって、ママにいわれたから、いちばんのトモダチのクルミのおに んぎょーのフランシーヌちゃんをえらんだ。とーぜんのせんたくなのだっ。

となりでは、ママがおきにいりのテーブルをにらみながら、うーんうーん、と、うなってた。
そのテーブルとセットのイスが、ママのバックパックからはみでてた。



アネモネのつき よっか あめ


きょうは、しゅっぱつのひ。
あさからザァザァとあめがふってた。おそとも、おそらもドンヨリとくらかった。

あたしよりもおそくにおきてきたママは、おそとをみてイヤそうなおかおをして、また、ベッドにもどっていった。

そしたら、しゅっぱつのひが、いちにちのびちゃった。

おかおをまっかにした、ちょーろーがなにかをいいにきたけど、ママのほうがもっとこわかった。
ママのおやすみをじゃますると、グーでパンチされるのだっ。



アネモネのつき いつか はれ


あらためて、きょう、あたしたちはしゅーらくをしゅっぱつした。
おでかけするまえに、ちょーろーがむづかしーことをいってたけど、ママはちゃんときいてなかったみたい。
でも、せんべつをあげるといわれたとたんに、うれしそーにしてた。

ところで、せんべつってなんだろう?

ママがもらってたものは、せんべつじゃなくて、ほーせきなのに。
みんな、そんなこともしらないのかな?



アネモネのつき むいか はれ


たびはじゅんちょーだ。
でも、ひとつこまったことがおきちゃったの。

しゅーらくでママになついてたイヌが、あたしたちについてきちゃったのだ。

むぅ。あたし、このコ、キライなのに。
だって、すぐほえるし、とびかかってくるし、あたしをたべようとしたこともある、コワイやつなんだもん。

なのに、ママはうれしそうだった。
あたしは、いっしょけんめーにハンタイしたけど、ママのけってーはぜったいなのだ。
しょぼん。

でも、あたしだってむりそーなのに、ママはぜったい、このコにはのれないとおもうだけどなぁ。



アネモネのつき なのか くもり


しゅーらくをでて、みっかめ。
ちょっと、こまったことなっちゃった。

もりで、まいごになってしまったのだ。

きのうまで、じしんまんまんだったママのおかおがブルーになってた。まっさお。
あたしがいうのもなんだけど、もりでまいごになるエルフってめずらしいとおもう。たぶん、きっと、ママぐらいじゃないかなぁ。

でも、くちをすべらせちゃうと、パーでペシッとされるから、だまっておかなきゃ。にははっ。



アネモネのつき ようか くもり


ママのカンほどアテにならないものはないっておもった。

きょうもまいごだったあたしたちは、もりをグルグルとあるきまわっているうちに、みおぼえのある、おがわにでた。
これって、しゅーらくからみてシルフのもんのほうにあるおがわだ。ちょっととおいから、めったにこないけど。

でも、あたしたちはウンディーネのもんのほうにある、ファンっていう、にんげんのさとにむかってたはずなのに。
あたしが、いちど、しゅーらくにもどろーよっていったら、ママは、はじはさらせぬっていって、おがわをわたりはじめた。

そしたら、もくてきちがファンからファンドリアっていうところにかわった。

しょぼん。



アネモネのつき ここのか くもり


たいへんだっ。
たいへんなことがふたつもおきたからピンチなのだっ。

ひとつめはママのバックパックにおーきなアナがあいちゃって、なかみがイッパイなくなっちゃってたこと。
ママのもちものだけじゃなくて、たべものがぜんぶはいってたから、たべるものがなくなっちゃった。

ママは、たぶん、なにかでひっかけたのであろうっていってたけど、あたしは、ごーいんにイスをつめこもうとしてたからじゃないかとおもうなぁ。だって、パ ンパンだったもの。

もうひとつは、ママのからだのせいれーりょくがちょーわをみだして、きんこーがくずれてしまったのだ。
って、ママはときどき、むづかしーことをいうから、いみはよくわかんなかったけど、おカゼをひいたみたい。

たべるものがなくておなかがすいたから、うごけないママのかわりにしょくりょーちょーたつにいこうとしたら、ぜったいにダメってしかられた。むぅ。あた し、ひとりでだってできるのにぃ。

でも、グーでパンチはイヤだからガマンした。
そのかわり、おなかがグーだった。



アネモネのつき とおか くもりのち、ときどきあめ


きょうもママのおからだはわるいままだった。
でも、たいよーがまうえにあるころに、もうだいじょーぶになったっていって、くだものをとってきてくれた。

すこししかとれなかったから、おなかいっぱいにはならなかったけど、ちょっとだけおなかのむしもならなくなって、とってもうれしかった。だって、ママがい つもよりやさしかったから。

なのに、また、ママはおからだがわるくなって、よこになっちゃった。
しょくよくがないっていって、くだものもぜんぜんたべてないし。あめもふってきちゃったし。しんぱい。

でも、よるはすこしだけげんきになったママと、いっぱいおしゃべりした。
しゅーらくをでていくことになったのは、ママがほかのひとたちと、なかがワルいからっていってたけど、たぶん、それはウソ。

ほんとうは、あたしのみみがみんなよりちょっぴりみじかいから。

どうして、あたしのみみだけみんなよりみじかいのかな? せいちょーがおそいのかな?
じゃあ、もっとおおきくなって、みんなとおんなじみみになったら、しゅーらくにもどれるのかな?

なんて、それがムリなのは、あたしがいちばんよくしってる。

そういえば、あさからどこかにいってた、あのコはなにかエサをみつけて、たべたみたい。
むぅ。ズルイなぁ。やっぱり、あたし、あのコはキライだ。



アネモネのつき とおかあまりひとひ あめ


きょうはあさからずーっとあめがふってたから、なにもできなかった。

ママがまた、くだものをとってくるっていったけど、おねがいして、やめてもらった。
おなかはすいてたけど、でも、あめにぬれちゃったら、ママのおカゼがもっとワルくなっちゃうから。

あのコもきょうはずーっとおとなしかった。でも、ゆだんならないんだから。



アネモネのつき とおかあまりふつか あめのちくもり


きょうは、いろんなことがあった。
ほんとうに、いっぱい、いろんなことがあった。

あめはちっともやまなくて、ザァザァとふってた。
だから、きょうもたべものはなし。それに、ママはまだしょくよくがなかったみたい。

でも、ゆうがたになって、やっと、あめがやんだ。
これで、あしたはママといっしょにたべものをとって、それをたべてママがげんきになったら、また、たびをさいかいできるとおもった。

でも、きゅうに、あのコがほえだした。
いつも、あたしにほえるのとは、すこしちがうカンジだった。

そしたら、しげみのおくから、なんびきものイヌが、ううん、イヌじゃなくてオオカミがでてきた。
あのコよりもずーっとキバがとがってて、つよそうで、こわそうだった。

ママがあわててサラマンダーにおねがいして、オオカミをおいはらおーとしたけど、おなかペコペコだったのは、あたしたちだけじゃなかったみたい。いつもな らサラマンダーをこわがるはずなのに、ちっともこわがってくれなかった。

あたしはこわくて、ただ、ふるえてた。
ママはいっしょけんめー、サラマンダーをよんだり、ナイフをふってた。
あのコはいつのまにか、いなくなってた。きっとにげたんだ。やっぱり、ゆだんならなかった。

こころのなかで、がんばれーってママをおーえんしてた。
でも、たぶん、きっと、ママはつかれてるはず。だって、ものすごく、くるしそーなおかおをしてたから。

そのとき、アッっておもった。
オオカミがいっぴき、あたしのほうにむかってきてる。

にげなきゃ。

でも、あしがうごかなかった。
ふるえてたから。こわかったから。

ママもそれにきがついたみたいだったけど、どうしようもなかった。
だって、ママはもっとたくさんのオオカミとたたかってたから。

オオカミがはねた。

あたしは、やっぱり、うごけなかった。
もうダメだとおもった。

でも、なぜか、だいじょーぶだった。
ちっとも、イタくなかった。

だって、あのコが、にげたはずの、あのコが、いつのまにか、そのオオカミにとびかかって、かみついてたから。
フガー、フガーって、うなりながら、じぶんよりもおおきなオオカミとたたかってる。でも、まけそうだった。いっぱい、いっぱい、ちがながれてた。とっても イタそうだった。

かてるはずがないよ。だって、オオカミのほうがつよいんだもん。
カラダだって、キバだって、ツメだって。ぜんぶ、オオカミのほうがつよいんだもん。

でも、あのコは、あたしをまもってくれているんだ。
あたしをたすけてくれたんだ。それだけはわかった。

なんで? あたしはあのコがキライで、あのコもあたしをキラってたはずなのに。

アッとおもうよりもはやく、オオカミがあのコのノドにかみついた。
いままでよりも、いっぱい、ちがながれてた。でも、あのコはカラダをうごかしてなんとかしようとしてた。
だけど、ちょっとずつ、そのうごきがよわくなっていってた。

そのとき、サラマンダーがほのおをはいた。
ママがおねがいした、サラマンダーだった。
いちどに、いくつものサラマンダーにおねがいしたみたいだった。
オオカミたちはみんな、ケガをして、あわててにげだしていった。

ママのてのひらから、ひかるカケラがこぼれてた。

いそいで、あたしがかけよったとき、あのコはもう、めがみえてないみたいだった。
ハァハァと、くるしそうにしてた。じめんは、ちでイッパイだった。

どうやったら、このコをたすけてあげられるのか、あたしにはわからなかった。
だから、ママにきいてみた。

なのに、ママは、もう、たすからないからラクにしてあげようっていった。
あたしはぜったいにイヤだっていって、たすけてあげてっておねがいしたのに、ママは、あたしのおねがいをきいてはくれなかった。

ママなんて、だいっきらい!



アネモネのつき とおかあまりみっか くもり


ゆうべは、いつ、ねむっちゃったのか、おぼえてなかった。
でも、おきたら、めがハレてたのはわかった。

ママは、きのうのたたかいで、つかれてたみたいだった。
でも、あんなヒドイことをしたから、もう、いっしょー、くちをきいてあげない。

そう、いったはずなのに、ママはあたしにはなしかけてくる。

さいしょはずーっとムシしてた。だけど、だって、しかたなかったんだもん。ママって、しつこいんだもん。
それに、あたしからじゃなくて、ママのほうからはなしかけてきたから、やくそくをやぶったわけじゃないもん。

あと、ママがあしをケガしてたから。
きっと、オオカミにかまれたんだ。イタそうだった。あるくのもツラそうだった。
だから、すしこしだけ、しんぱいしてあげた。

あたしがおきたときから、ずーっと、ママはあさごはんのしたくをしていた。

ごはん?

くしやきにした、おにくを、ママがあたしにくれた。

おにく?

ハッとして、あのコをさがした。
まだ、おはかはつくってあげてなかった。
だけど、あのコのしたいはドコにもなかった。

そのことをきいてみた。
そしたら、やっぱりだった。

あたしはおこった。きのうよりもいっぱい、おこった。
ひどいよって。ひどすぎるよって。
そして、おにくをなげすてたら、おもいっきり、たたかれた。

パーでバチンだった。

ママはヒョコヒョコとあるいて、あたしのすてたおにくをひろい、ドロをはらうと、それをたべはじめた。
まだ、しょくよくはなさそうだったけど、いっしょけんめーにたべてた。

そういえば、ママはおにくをたべないひとなのに。

だから、きいてみた。
どうしてって。

でも、それにはこたえてくれず、おにくのささった、べつのくしをくれた。
ママは、にほんめをたべていた。オオカミたちとたたかってたときよりもこわい、おかおで。

だから、あたしもたべた。
おにくはちょっとクサくて、とってもあたたかった。

あんまり、おいしくないねっていったら、うむっていわれた。
あんまり、やわらかくないねっていったら、うむっていわれた。
でも、たべなきゃダメなんだよねっていったら、うむっていわれた。

だから、あたしはたべた。
おなかはイッパイになったのに、かなしかった。



アネモネのつき とおかあまりよっか くもりのちあめ


ママのケガがまだよくならないので、きょうもずーっとジッとしてた。
そのかわり、どうしてもわかんなかったことをママにきいてみた。

あのコはどうして、あたしをたすけてくれたのかな。
それは、そなたのことをすいておったからにきまっておろう、っていわれた。

でも、あたし、いっつもほえられてたよ。
それは、かまってほしかっただけじゃ、っていわれた。

でも、あたし、いっつもとびかかられてたよ。
それは、じゃれておっただけじゃ、っていわれた。

でも、あたし、たべられそうになったことあるよ。
それは、かおをなめられただけじゃ、っていわれた。

そうだったんだ。

あしたも、めがハレてるかもしれないとおもった。



アネモネのつき とおかあまりいつか はれ、ところにより、にじ


ママがあるけるようになったので、たびをさいかいすることになった。
しゅっぱつのまえに、おはかのまえで、てをあわせた。

ママはかみさまをしんじてないから、そんなあたしをふしぎそうにみてた。

でも、あたしはパパのちが、はんぶんだけながれてるから。
ちょっとのあいだだけ、パパのさとでいっしょにくらしてたから。
みんなよりみみがみじかくったって、それでイジメられたって、しゅーらくにいられなくったって、あたしは、はじめて、それがほこらしかった。あのコのこと を、いのってあげられるのだから。

ママもクビをひねりながら、あたしのマネをして、てあわせてた。
それをみて、ちょっぴりわらったら、パーでペシッとされた。

シルフのもんのほうがくのそらに、ひかりのはしがかかってた。
あたしたちは、そのはしをわたってファンドリアにいくんだ。


◇◆◇◆


新王国暦513年
四の月 十二日 晴天


あれから何度めの、この日を迎えたのだろうか。
時間の流れは着実に哀しみを癒してくれている。
でも、それは決して忘却ではない。

何年、何十年たっても、あたしはあの日のことを忘れはしないだろう。
あの哀しみも、辛さも、そして、温かさも。

半妖精のあたしは人間(ひと)よりも、それを抱えていく期間が長くなりそうだ。
それが幸福なのか、不幸なのかは分からないけれど、ママの方がもっと長くなるのだから、あたしが弱音を吐いてちゃ叱られるよね、きっと。グーでパンチか な。

ファンドリアに着いてからも色々とあったっけ。
ここには書ききれないぐらい。本当に色々なことがあった。

パパのこと。
本当のママのこと。
あたしの名前の由来のこと。

もし、あのまま聚落に残っていたら、きっと、これらのことは教えてもらえられなかったに違いない。
だから、あたしを連れて出奔してくれたママには物凄く感謝してる。

そして、あたしの、二度めの旅立ちを許してくれたことにも。

命名するにあたって、パパがあたしに何を託したかったのか。
どうしても、それを確かめたいから、墜ちた都市のある街に行きます。

少しの間、離れ離れになっちゃうけど、きっと、無事に戻ってくるね。

だから、あたしのこと忘れないでよ。
雨あがりの空を見たら、ママの娘のこと、ちゃんと思い出してね。

じゃあ、いってきます。


◇◆◇◆


新王国暦515年
オラン王都、雪花亭にて


「あれ、読書とは珍……わわわ、グーでパンチは勘弁してくださいよ」
「たわけ。これは書物ではない。日記じゃ、日記」
「日記、ですか? そっちの方がもっと意外……わわわ、チョキで目潰しも勘弁してくださいよ」
「たわけ。わらわのではないわ」
「え、じゃあ、どなた……駄目ですよ、盗み読みは……アイタァッ!」
「ふん」


──よもや、あの子を追って東国まで来ようとはな。姉上よ、わらわも過保護になったものじゃ。吾ながら呆れはてるわ。


「ぬ。来客であるか。ようこそ参られた」


………
……



「じゃから、当店ではわらわの目が黒い内は肉料理は出さぬと申しておるじゃろうがー。帰られよ!」



  


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