剣 の力(2003/02/25)
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作者
Maki
登場キャラクター
ザッシュ、バウマー




 買い物に行こうと出かけたバウマーは、河原で一人の男を見つけた。
 以前酒場で話をした男だ。
 金髪に碧眼、西部生まれの顔立ちの二十歳ほどの青年で、名をザッシュといった。バウマー自身、彼の名に覚えはないが興味深いやりとりをしたことで記憶に あった。
 ザッシュは、バスタードソードを両手に持ち素振りを繰り返していた。

「よお、相手してやろうか?」
 ぬかるみに足を取られぬよう土手を降り、ザッシュに声をかける。
 素振りを止めてバウマーの姿を見るや、顔を強ばらせる。
「あなたとですか?」
 思わず丁寧語で応えてしまうザッシュに、バウマーは鼻で笑う。
「魔術師を相手にしたところで、なんら剣の経験にもならんだろう。自分の惨めな姿を晒すだけだ」
 高圧的な態度で答えると、バウマーは上位古代語を唱え小石を放った。

 小石はみるみる膨れあがり、ザッシュほどの背丈になる。ストーン・サーバントだ。
 パペットゴーレムの出現に、戸惑いを隠せないザッシュを余所に、バウマーは説明してみせる。
「剣一筋みてえなこと言ってたな。それがどれほど頼りにならねぇものか教えてやるぜ。こいつにゃ回避しかやらせねぇ。手前ぇの武器にも魔法をかけてやる。 それで存分にたたき壊してみやがれ」
 唖然とするザッシュに、バウマーは構わず呪文を唱え出す。
 ザッシュの剣が淡く輝き出す。
「そら、その魔法にゃ限りがある。時間内に壊してみせろや」
 バウマーの言葉をようやく理解したのか、ザッシュは剣を構えて斬りかかろうとした。だが、相手は石の塊である。自分の剣があの石にどれほどの効果をもた らすのか判らずためらいが出る。
「避けるしか能がない相手でも怖いのか?」
 容赦のない声が浴びせられる。
 ザッシュは、再び構え直し、自分の愛剣を見つめる。バウマーがかけた魔法は確かにかかっているようだ。彼に言った自分の言葉が思い出される。
「それが魔術師の役割だろ?」
 遺跡で剣では対抗しがたい敵に出くわしたらどうするか? という問いに彼自身が答えた言葉である。あのパペットゴーレムがその敵ならば、今求めた状況を 得られたということになる。ザッシュはバウマーの言葉の意味を理解した。そしてためらった自分が悔しくもあった。
「えいやぁっ!」
 剣を思いっきり振るが、ゴーレムを捉えることはできない。力みすぎだと自分を落ち着かせる。二撃、三撃と打ち込むが、当たらない。まだまだ大振りになっ ている。柄を短く持ちかぶりを小さくする。
 ガッ!
 石を削る嫌な音がすると、手に痺れるような痛みが走る。そのまま石に剣をぶつけたような感触であった。剣を当てた先は僅かに石が欠けており、効果を与え たようには見えない。
 剣で石に斬りつけるのは度胸がいった。先ほどの一撃で欠ける辺りから、石の強度は高いとは言いがたい。少なくとも剣でも対抗できる。しかし、それには もっと訓練が必要で、確実にゴーレムの急所を狙うようにせねば効果は薄いと思えた。
「ままよ」
 考えていてもはじまらない。武器に付与された魔法には限りがある。それを越えてしまっては剣は刃こぼれを起こすことも考えられた。
 ザッシュは懸命に剣を振るい続けた。だが、全力で剣を振るうのは訓練のそれとは違う。まして対抗しがたい相手となるとその消耗は比ではなかった。

「足下がおぼつかないぞ」
 剣先が下がり、肩で息をするザッシュにバウマーがからかいの言葉を投げる。自分で駆け出しと言うだけあり、ザッシュには実戦経験が乏しくペース配分に難 があった。
 それでも意地を見せて振るい続ける。何度かゴーレムを捉えるが、やはり僅かに削る程度であった。
「そこまでだ」
 ザッシュが振りかぶった瞬間、剣にかけられた魔法が消えた。止めるバウマーの言葉を無視して、ザッシュは剣を振り下ろした。集中していた彼の耳にはバウ マーの声は届いていなかった。

ガリッ

 鈍い音がして、再び手が痺れる。当たり所が悪いと手首や腕を痛めかねない硬さだ。
「やめろっ!」
 再度の静止でザッシュはようやく魔法が切れたことを知る。嫌な音を立てた剣先を見ると、僅かに刃が欠けていた。あれだけ打ち込んだにも関わらず、他はな んともない。確かに魔法の効果はすごかった。だがその力を借りても有効な一撃を見舞うことはできなかった。避けることだけに専念させたこともあるが、それ でも有効な一撃を見舞うことができなかったのは自分の未熟さと知る。

「それが俺様の答えだ」
 欠けた剣先を指で差しながら、バウマーは嫌味たっぷりに言ってくる。キーワードを唱えるとパペットゴーレムは元の石に戻った。
「剣一筋もいいが、石相手に剣先を潰す覚悟で振るえなければ意味がなかろう」
 自分の剣先を見つめているザッシュを鼻で笑うと、バウマーは「じゃあな」と背を向けて行ってしまった。

 未だ落ち着かぬ心臓と息をなだめながら、ザッシュは彼の後ろ姿を呆然と見送るだけであった。手にする剣の重さを感じて、それを持ち上げる。自分の愛用の 剣だ。柄から剣先までゆっくりと見る。

 剣は最もポピュラーな武器である。扱いやすく効果もあり、万人に受け入れられる形状だ。冒険者の多くが剣を使っていると思われる。しかし、古代王国期に その対策もまたされているものの典型の武器であるとも言えた。刃のついた武器が無効な敵はいる。遺跡であれば尚のこと。ストーンゴーレムは強度が低いた め、剣での効果は上げられるが刃が無傷とはいかない。下手をすれば手を痛めることにもなりかねない。
 剣一筋をあざ笑うバウマーの意図が見えた。
 武器を変えるか、扱える幅を広げるか、一筋で貫くか……ザッシュは一つの岐路に立たされた気になった。



  


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