バウマーは街道を歩いていた。彼の後ろに続く影が二つ。一つは歳の頃が13、14といったところの少年がついてきている。口元はゆるみ、あどけなさの残る顔からは時より笑みがこぼれる。そんな表情も目深にフードを被っているため行き交う人に気づかれることはない。誰しも少年よりも魔術師姿の方に目が行くため、気に留められることもなかった。もう一つの影はロバである。優しげな面立ちをしており、背には彼らの荷物が積まれている。テントに毛布、食料まで長旅に備えられるものがそこにあった。
オランを立ちしばらく進むと丘陵地帯にさしかかる。丘を越えればオランの外壁や三角塔は見えなくなる。バウマーは登り道の途中で立ち止まり、振り返った。
オランに来たのは昨年末、路銀が底をつきかけていたため大層ひもじい思いをしていたことが思い出される。荷馬を買いたたいたのが祟ったのか、オランの手前で死んでしまい、売り払う算段が泡と消えた。その予算を当てにしていたため、路銀はギリギリで計算していたのだ。なんとか小さな仕事を重ねて終末祭を迎えることができたが、とても祭りに使える余裕の金などなかった。 それも年明け後、仲間に恵まれたこともあり、仕事が舞い込み、貧相な生活からは抜け出すことができた。そのお陰もあり、今では蓄えもあるくらい余裕がある。だが、そんな生活も終わりであった。
木陰に移り、一息を入れる。これから長い旅路がはじまる。急いで目的地に向かいたい心境であったが、さすがに海路を使うほどの蓄えがあるわけでもなく仕方なしに陸路を選んだ。陸路とて路銀は大層必要であるが、途中で働くことができると考えると、海路より楽な選択であることは違いなかった。 徒歩である以上体が資本となる。マメに休息を取り休まねば、動けなくなっては意味がない。疲弊しきって寝込んでいては休息以上に進むことはできなくなる。
水筒の水を口に含んだあと、無造作にそれを少年に渡す。黙ってそれを受け取り彼も喉を潤す。二人の間に会話はなかった。ロバは芽吹いた若草を黙々と食べていた。 遠くに見えるオランの外壁を見ながら、バウマーはここに来るまでの過程を思い返していた。
3の月の末日、裏通りを通り抜けようとしたとき、バウマーの目端に気になるものが飛び込んできた。雑に積まれた木箱の山の陰から素足が見えたのだ。普段なら気に留めることもないものであったが、その時は何故か隠れ潜む者に対して好奇心をかき立てられた。“感”ともいうべきものか、なにかしら関わり合いのある者が隠れている気がしたのだ。
空の木箱の間に麻袋が無造作にかかっている。それをバウマーは一気に払いのけた。 そこには見窄らしい格好の少年がいた。 次の瞬間、その少年は精神にかかる魔法を仕掛けてきた。呟かれた精霊語にバウマーは咄嗟に意志を固めた。彼の確固たる意志の力が、少年の魔法を弾き効果を消滅させる。 隙を作り出せずにいた少年は体当たりで逃げ道を確保しようとした。いくらバウマーが非力とはいえ、不意打ちもなしに押しのけられるほど柔でなかった。多少よろけはしたものの、逃げようとする少年の服を「むんず」と掴んだ。
ビリィ
袖が付け根から破ける。粗末な服であったため、力一杯もがく少年と、しっかと掴んだバウマーの拳によりそれは簡単に裂けた。 腕が顕わになり、そこに刻まれた模様を見てバウマーの目が見開かれる。 そこには焼き印が刻まれていた。オランでは見ることのない奴隷につけられるものだ。 その刻印を見て、バウマーの忌まわしい記憶が蘇る。
腕を掴まれ泣き叫ぶバウマー。七歳の彼は真っ赤に焼ける鉄に恐怖した。 激痛が全身を貫く。幼いバウマー自分がこんな酷い目に遭うことが理解することができなかった。苛められた仕返しに石で相手を殴りつけたが、それは自分がいつもやられていることであった。疑問ばかりが頭の中を駆けめぐりつつ、彼は気絶した。 それから、その刻印を見る度に自分が“忌み嫌われる子”だということをより強く感じるようになった。 母にもその印しはつけられていた。物心がついた頃から母には刻印があったが、回りの者たちも皆つけていたので不思議とは思わなかった。母はバウマーに泣いて謝っていたが、その理由はわからなかった。後から知ることだが、七歳児に刻印は施さないという。自分が半妖精であり、地区外の子供に怪我を負わせたから焼き印をして懲らしめようということであった。母の留守中にされたことであり、「約束が違う」と訴えたが、奴隷の身分に身を落とした彼女の言い分が通じるはずもなくバウマーも奴隷として扱われるようになった。
彼は自分が刻印をつけられて初めて失ったモノがあることに気がついた。人としての「尊厳」というべきか、「誇り」を奪われたとそれから強く感じるようになった。
バウマーは同和地区で育った。 ここの領主は平民の不満を反らせるために、奴隷階級を作り上げたのである。町や村など不満の溜まりやすい地域に奴隷を配給し、平民より辛く苦しい生活を行う者たちがいることを知らしめたのだ。これは確かな効果が得られた。 当初は罪人などをあてがっていたが、罪人では平民に反旗を翻すことがあると判り、別の問題を生みだしたために断念した。 そこで目を付けたのが孤児や口減らしに売りに出された農家の子供たちである。 幼少の頃から奴隷の立場、身分を教え込み、地方に回していったのだ。
同和地区は十余年で一つのサイクルが形成されるまで至った。それから更に数年の月日を数えより確実なものとして管理された。やがてそれは、この領地にとってなくてはならないものとなる。
そこにバウマーの母、シンシアが入ることになったのは、役人に騙されたこともあるが、彼女自身身を隠す場を求めていたからでもある。
バウマーが生まれると、森妖精である父、フォレスターは姿をくらました。半妖精と森妖精が交われば森妖精が生まれると彼は信じていたのである。それが裏切られる形としてバウマーが生まれたため、彼は失意と共にシンシアの前から消えたのだ。
愛する夫を失ったシンシアも、半妖精を出産してしまった自分を疎ましく感じていた。彼女は森妖精に育てられていたため半妖精でありながらも、考え方は極めて森妖精に近いものを持っていた。人間界を旅して尚のこと自分は森妖精だと感じるようになり、フォレスターと出会うことで彼に惹かれるようになったのだ。 二人は愛し合い、彼女は身ごもった。彼も大いに喜んだ。出産ののち、彼の故郷で育てようという話しまでしていた。シンシアは半妖精ではあったが、極めて森妖精に偏った思考をしていたため、故郷の森の皆にも受け入れてもらう自信があったのだ。子供が森妖精であるなら、長も許してくれるだろうとも考えていた。だからまず子供は森妖精でなければなかったのだ。
楽しい未来予想は脆くも崩れ去り、厳しい現実が二人に突きつけられる。 半妖精と森妖精との交配の結果を曖昧に教えた人物がいたため、起きた悲劇ともいえた。それはシンシアの魔術の師であった。
シンシアは母の言葉を思い出していた。 「恋をしてはいけませんよ。恋は盲目にし不幸を呼び寄せます」 それは母の体験からくる言葉であった。人と恋に落ち、捨てられた母。森に戻ってきて仲間から陰口を叩かれながらも自分を育ててくれた気丈な母。その母に、今の自分を見せる訳にはいかなかった。母の教えを破り、不幸を呼び寄せた自分の姿など見せられるはずもなかった。彼女のプライドは高く、恥を晒して親に甘えるより、苦労してでも自分で道を見出すことを選んだ。
「二人が結ばれれば、まず間違いなく森妖精の子が産まれるだろう」 それは師の言葉である。半妖精が生まれる可能性を示唆しなかったのである。二人はその言葉を鵜呑みにしてしまった。彼女はそんな師にも会いたくはなかった。拡大魔法の使い手である師ならば、“探知”の魔法でいつでも自分を見つけ出すことができる。いつもはそれが頼もしく、安心であった。窮地を救ってもらったことが何度かあるのだが、これからはもう要らないと感じていた。師は信用がおけない。出産して自分たちが乗せられていたことに気がついたのだ。理由は判らなかったが、作為は感じていた。
とは考えてもバウマーを捨てる勇気もなかった。楽しみに夢見て待ち望んだ我が子である。父親が逃げ出したからといって、半妖精だからといって捨てることなどできない。何よりシンシア自身が半妖精である。 彼女は“探知”にかかる物全てを捨て去った。発動体もフォレスターから贈られた指輪も何もかも。 師に見つかれば、母の元に連れ戻される。師は母のいる森妖精の部落に何かと協力を果たし信頼を得ていた。自分が幼少の頃も、母を捨てた夫から金銭を搾り取ってきて渡してくれていたのだ。自分が半妖精を出産したと知れば、部落に連れ戻されるのは目に見えていた。それだけは避けたかった。会わせる顔がない。会えば甘えてしまう。甘える自分が許せない。だから会わない。例え苦労しようとも彼女は一人で育てるつもりになっていた。
それで人目のつかぬ場所、師が探しにきても容易に見つからぬ場所を選んだ。それが同和地区であった──。
バウマーは母が亡くなる九歳までその地区にいた。幼いながらも、自分の境遇の悪さは実感していた。焼き印を押されてそれが確実のものとなる。知恵の発達が遅れていても母や自分が他者より劣っている生き物と痛感させられた。特に豚や牛などの家畜に焼き印を押されたのを見たときのショックは計り知れないものであった。
母が死んでから直ぐに同和地区は解体された。ファリス神殿が圧力を掛けてきたのである。後に知ることになるが、母の師であり、バウマーの師が同和地区の存在をファリス神殿に掛け合ったという。当時、同和地区にはマーファ神殿が建てられ、奴隷たちの拠り所となっていた。マーファも領主に解体を進言したが、領地内の布教活動から全神殿撤去の脅しに屈してしまい、奴隷制度を廃止に至らしめることができなかった。それでマーファは地区の人々の心の救済という立場を取ったが、解体を果たしたファリス神殿からはいい笑い者となった。
解放されたとき、バウマーの刻印はファリスの手によって免罪の入れ墨を施された。それがなければ奴隷のままと判断され、未だ奴隷階級の残る国では人扱いされないと言われた。奴隷のない国でも刻印は罪人と同じような目で見られると教えられ、施しはなくてはならないと説き伏せられた。 しかし、入れ墨をされたところで刻印が消えるはずもなく、それを見つけた者の反応は罪人を見るそれの目と同じであった。
同和地区解体後、バウマーは師に引き取られ魔術を学ぶことになる。外の世界に触れて、今までどれだけ惨めな暮らしを強いられてきたのか知ることとなった。知れば知るほど己の九年間が忌々しいものになっていく。半妖精という立場も呪わしいと考えたこともあったが、奴隷という身分をさせられていた過去の方が更に呪わしかった。 それ故に、権力者、貴族を嫌うのである。
少年の腕を掴んだまま、その刻印を見ていたバウマーは足を踏まれた痛みで現実に引き戻された。袖を千切って逃げ出す少年にバウマーは遠慮なく魔法をかけた。少年が抗えるはずもなく、再びバウマーに掴まることとなった。
彼は少年を近くの宿に運び込む。主人にチップを握らせ口止めを行う。少年を捜す者がいると考えたのだ。隠れ潜もうとするなら少年は逃げ出してきたに違いない。奴隷が逃げ出せば、その罰はかなり惨たらしいものである。見つかってはならない。 もっとも、バウマーに捜し出そうとする方に用事があったが、とりわけ今は少年から情報を聞き出すことが先決であった。
目を覚ました少年をバウマーは罪人でも扱うように尋問した。優しさの欠片もなく。 少年は頑なに口を閉ざし抵抗した。苛立つバウマー。 日も陰り腹が減っていることに気がつき、彼は二人分の食事を運ばせた。少年は運ばれた飯を遠慮なく食べ尽くした。しかし、口は開こうとしない。名前さえも言うつもりがないようであった。彼は更に苛立った。 忌々しい記憶があるため、口調が荒くとても少年の味方に見えないのが彼の短所であった。やがて、少年の体が汚れていることに気がつき、湯浴みの桶を運ばさせる。見窄らしい服も取り替えてやることにした。 それでようやく少年の方から口を開く。 「おじさん、オレを引き渡すつもりじゃないのか?」 「バウマー様と呼べ。誰が引き渡すか。俺様が聞いているのは、お前がその刻印を受けたいきさつと売られる前に住んでいた場所だっ!! ついでに逃げ出してきた先もだ」 このとき少年の誤解が解けた。自分の主人の居所を自白させ、引き渡すことでバウマーが礼金をせしめようと思われていたのだ。バウマーの面と格好からではそう思われても仕方がないが、相手に誤解を与える話し方がそもそもの問題である。
少年の名はナイジェル。異国の地で誘拐され、刻印を押されて売り払われたことを語った。誘拐され、閉じこめられていた場所について思い当たる節があることを口にし、バウマーの興味を引いた。現地に行けばより詳しく案内できるという少年の言葉に、彼は色めきだった。 そして出立することに決めたのである。少年を引き連れて。
翌朝、市場に行きロバ一頭を買い付ける。他にも旅に必要な物を次々に買い込む。ロバ以外は“俺様貯金”と名づける彼のヘソクリを使うほどではなかったため、幾分の余裕はまだ残っていた。とはいえナイジェルを連れた旅となると出費は嵩む。とても仕事なしに目的地に行けるものではなかった。それでも旅に出れば「なんとかなる」とバウマーは考えていた。「天才魔術師にやれぬ仕事はない」というのが彼の持論だが、取りさげた仕事は数知れず、しょせんは魔術師である。やれることは限られている。おまけに拡大魔術師のこだわりを捨てぬが為、強力な破壊魔法は窮地に陥らぬ限り使おうとはしなかったため、単独での仕事など知れていた。 それでも彼は絶対なる自信をもって出かけるのである。
昼頃に“きままに”亭に寄る。バウマーが常宿にしていたところだ。 店員に仲間のことを聞きかけて、ユーニスが遺跡に旅だったことを思い出す。もう一人の仲間、ワルロスも未だ拭い切れぬ汚名を返上するためにギルドの仕事に明け暮れているはずであった。 「ふん、かまわんか。どうせ金になるもんでもなし。さすがのこの俺様でもんなことまで強要する気はねぇよ」 二人をこの件を話そうかとも考えたが、ユーニスの帰りやワルロスの手すきの時間を待つのが鬱陶しく、伝言を残して去ることに決めた。 彼の目的はナイジェルをさらい奴隷として売り払った奴らの掃討である。どうやらその地が大元であるようであった。単身乗り込んで敵う相手かどうかも判らないが、彼の体験が奴らの存在を許しておけなかったのである。それにそんな話しをすれば自分がこだわる理由まで説明しなければならなくなる。それが嫌だった。刻印を受けた者が笑い話としてそれを語れるようになるにはまだ時間を必要としていた。だから伝言で済ます。
筋肉娘とワンコインへ
俺様に特急の用件ができた。お前らに関係ねーもんだから話してもしょうがねー。 帰る当てもねーからパーティは解散だ。つーかオレが抜ける。あとは二人でよろしくやれや。 じゃあな。縁とお前らが死なんければまた会うこともあろうよ。
天才魔術師バウマー・ハルマン
バウマーはカウンターで羊皮紙にペンを走らせると、それを店員に渡した。遠出することを察した店員が行き先を尋ねてくる。彼はこともなげに目的地を話し、その場をあとにした。
バウマーはパーティを組んでもこうして解散することがあった。性格と口の悪さから彼の元を離れる者も多いが、彼自身の勝手な都合で仲間から抜けることも多かった。事情を知らされずに残された者は、訳が分からず彼を恨み裏切られたと傷ついた。それ故、ひとつの場所に長く留まることができず、彼は国々を転々と渡り歩いていた。
少年にロバを引かせて街門に向かう。使い魔の梟は荷物の上に日陰が作られその中で休んでいる。夜行性の生き物と共に旅をするのはなかなか骨の折れることである。ときにはバウマー自ら夜型となり、昼夜逆転の生活を送ることもある。
ナイジェルはフードを被り、素性がバレないようにしていた。少年の話では、買われた先の店に衛視が突然やってきたという。人身売買の件での捜査ということを耳にした。店内は荒れ混乱に乗じてナイジェルはその場から逃げ出した。 衛視たちの踏み込みは鋭かったが、店側の用心棒の方が手練れであり、怯むことなく衛視と対峙していた。ナイジェルが精霊魔法を使っても逃げ出せないと感じていた相手だ。だから衛視に助けてもらうより自分で逃げ出すことの方を選んだ。店がどうなったかは知らないが、あの分では捕まる者はいないと思えた。そうなれば逃げ出した自分を捜そうとするのは間違いない。口を割られては商人たちの首が飛ぶ。ナイジェルは見つかってはならないのだ。 バウマーはその話を聞き、ナイジェルを奴隷として扱っていた店が既にないと判断した。手入れを受け逃げ出さない悪人はいない。それよりもナイジェルの期待できる情報を頼りに大元を叩く方が効果的に思えた。
街門を無事通り抜け街道を歩き始める。あれから一刻が過ぎ、丘の上まで来た。今のところつけて来る者はいない。
「バウマー、腹減ったぞ」 「様をつけろやクソガキがっ! それに晩飯まで待ちやがれ。一ガメルも持ってないクセに空腹なぞ訴えるんじゃねぇよ」 「しょーがねーだろ、事実なんだもん。あんたみたいに森妖精の血流れてないから沢山食わないとダメなんだよ。育ち盛りだぜ?」 「アホ抜かしやがるなっ! どの面下げてんな台詞吐きやがる。水でも飲んどれやっ。行くぞ!」
付き合ってられんとばかりにバウマーが立ち上がる。不満を訴えつつもナイジェルがロバを引き連れ後に続く。 昨日まで奴隷として働かされていた者の顔ではなかった。バウマー相手に軽口を叩ける少年の肝っ玉も凄いが、純粋にバウマーのことを見抜いていたのかもしれない。自分に害をなす人物かそうでないか。精霊使いは勘が鋭い。理屈でなく感性で人の善し悪しを判断したりする。ナイジェルは自国まで連れて行ってくれるバウマーに心底感謝していた。それに自分をこんな目に遭わせた組織を潰そうと言うのである。頼もしくないわけがなかった。奴隷として使役させられた日々と裏腹に、心を解放できる喜びがここにはあった。それが甘えとなりバウマーに絡むのである。
「遅れんじゃねーぞ」 少し先に歩いていたバウマーが振りかえる。 「わひゃってゆよ(わかっているよ)」 ナイジェルはロバの荷から何かを取り出し口に放り込んでいた。 「手前ぇー何食ってやがる」 「ほひにくはけど(干し肉だけど)?」 「大事な保存食を〜」 バウマーは拳を振るわせてナイジェルを捕まえにかかる。昨日と違い、元気なナイジェルが簡単に捕まる筈もなく、難なく逃げてみせる。 するとバウマーの背で駆け出す音が聞こえる。振りかえればロバが雑木林に逃げ込もうとしていた。ナイジェルは手綱を離して逃げていたのだ。 「こら、待ちやがれっ! お前、さっさと捕まえてこんかっ!」 バウマーが怒鳴る。さすがにこれは拙いと思ったのかナイジェルは慌ててロバを追いかけた。その後をバウマーも追う。 二人の長い旅路の始まりである。
<おわり> |