星をつかむまで (2003/04/10 )
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作者
琴美
登場キャラクター
ユーニス



 王都に荘厳なる佇まいを見せるチャ・ザ様の神殿。オランに来てから随分通いなれてしまった祈りの場所に、私は来ている。

 朝の鍛錬を済ませ、チャ・ザ神殿への道を辿る。鍛錬をしてきたマイリー神殿からここへ来る為には大体「きままに亭」の前を通ってくる事になる。いつもの酒場、『彼』が定宿にしていた場所。
 何となくあの店の佇まいを目にするのが切なくて、いつも通る道を選ばずに遠回りをしながら神殿へと向かった。

 今日も、参拝する信者の方々が絶えない。私は精霊と絆を結ぶものであり、神を一心に信じて心を預けるような祈り方は出来ないけれど、ここの空気は大好きだった。とても優しいから。
 礼拝所の空いている場所に陣取り、深呼吸して指を組み、瞑目する。

               ☆  ★  ☆

 チャ・ザ様、今日もまた、まかり越しました。どうか私の祈りをお聞き届けください。
 私の大切な人が旅に出てしまいました。せっかく出逢うことができたのに、自分の胸の内に気付くのが遅すぎて、大切だと伝えることすら出来ませんでした。わが身の愚かしさに悲しくなります。
 彼は無鉄砲なところがあります。きっと、旅先でも色々無茶をすることでしょう。どうか、そんな彼が苦しかったり辛かったりしませんように、ひとかけらの幸運を彼にお恵み下さい。そして、彼の行く先に、よき出会いがありますよう、お導き下さい。あ、でも美人さんとかの出会いはできれば無い方が嬉しかったりします……。
 もとい。私自身のことについても、お願いがございます。癒しの力を得るためにも自分の魔法の力を高めていきたいと思っています。これまで以上に修行に勤しむ心積もりでおりますが、できれば自ら求める以上に、自分を成長させる出会いを賜りたく思います。どうか、少しでも早く成長できるように、私を伸ばす存在との出会いにご配慮くださいませ。そして、いつかまた彼に逢わせてください。

 たくさんのお願いをする代わりにもならないでしょうが、チャ・ザ様の御前にて誓いがございます。

 私が傷を癒せるようになるほど、精霊との絆を得るまでは、再び彼に逢えたとしても自分からはこの思いを告げません。自分が彼に相応しいと最低限思えるようになるまでは、告げることはありません。
 
 どうか、まずは彼をお守りくださいませ。

 
               ☆  ★  ☆

 自分勝手極まりない祈りの数々を神前で捧げ終えて、席を立つ。今払いうる精一杯の寄進を納め、神殿を後にする。春にしては綺麗に澄んだ空を見ながら、家路を辿る私には、もう迷いは無かった。
 
 朝方鍛錬を終えて、汗を流したときに何だか目の前がクリアに見えた。全身に血が行き渡ったお蔭で少しだけ冷静さを取り戻したのかもしれない。
 彼を想いながら生きる事は、自分の生き方を曲げることではないと思う。彼の行く道を自分の道と重なるものに思えたから、それを自分に認めただけのこと。どんなに好きでも歩む道が違いすぎたなら、きっと私はこんなにも惹かれはしなかったと思う。
 彼への想いは、私の今の原動力ではあるけれど、それが全てではない。いうなれば、陽光を生きる道標にする私が、そっと心に抱く自分だけの星明かり、そんなところ。
 彼の力になりたい、その熱い気持ちは本当。けれど彼への想いとは関係なく自らの力を限界まで、もしくは限界以上に伸ばしたい欲もまた昔から変わらずに存在している。
 だから、この恋は私の成長のために大切なステップになる、と思う。こういうのは打算だろうか?
 好き、という想いに形や理由をつけたがるのは、まだ心が恋になじんでいないからだろうか。

 
 私の大切な「星明り」……もしかしたら「凶星」かも知れないその人に、いつか会える日まで。
 きちんと自分の人生を生きて、彼ともし道が交わるなら、もう一度彼とゆっくり話したい。そして、そのときまた未来を紡ぎ始めればいい。全てはこの先、自分がどう生きていくかともう一度出会えるかにかかっている。
 いまはとにかく、歩き出そう。考えるよりも先に、心の導きを信じて。神に誓う前にまず自分に誓おう。決して歩くのを止めない、と。


 ……そして私は、今日も明日も、疲れを癒すために「きままに亭」のカウンターへ足を運ぶ。

  <終>




  


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