約束の酒で (2003/07/16)
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作者
うゆま
登場キャラクター
ネリー、リディアス



【商業地区、若鷹広場】

” 時の流れ いかな術 ありても 逆らえず もがく

  人も物も 時の川の 優しくも 大いなる 流れに

  夕暮れの 赤い色に 朝の日の 白銀光る 輝きに

  歳月巡り 朽果てる 別れの日 迎えるも しても

  嘆くな友 いつしか 等しくも 訪れるは その日 … ”

リュートの弦を軽やかに弾く。
そして最後の音を奏で、一礼する。ほんの僅かな静寂の後、拍手。
今日もまた仕事が終わった。

夕暮れが広場を赤く染める。
その夕暮れを見ると不意に思い出す。
昔のこと。

かの”旅人たちの王国”ロマールを出たのは大体二年前。
幼い頃から吟遊詩人であった両親と旅をしていたが、たった一人で旅に出るのは初めてのこと。

旅立ちは私が決意し、ある日突然、両親に話を切り出した。
突然の申し出に、成人したばかりの一人娘を手放すのは、親として辛かったはずだろう。
でも、いつしか親から子は旅立つものだと、母は泣きながら、父は力強い笑顔で、私を見送った。

夕暮れのその日に別れた。親は予定通り西方に、私は逆に東方へ。
いつしかまた、めぐり合うその日まで、胸を張って生きていることを約束して。

オランに辿り着く約二年間、色々あった。

娯楽の無い村で思わぬ歓迎をされ、予定外に長く滞在することになった事。
途中、隊商と同行して山賊に襲われ、危うい所で命からがら逃げた事。
大洪水で橋が半壊し、宿場町で半月以上も滞在して財布が空になりかけた事。
酒場で歌っていたら、男に騙されて怪しい宿屋に連れこまれそうになった事。
途中で知り合った同業者が、実は詐欺師で次の日に私の財布と共に姿を消した事。
街道で足を痛めた老人を助けたら、オランの盗賊ギルドの幹部だった事。

人生って本当色々と浮き沈みがあるものだと、一人旅してようやく認識した。

【気ままに亭】

「…悪いな、ネリー。明日から仕事があるから、また今度な」

すまなそうに、言いながら、目の前の戦士が銀貨をカウンターに置いて去る。

「んーん、いいよ。お仕事頑張ってね、リディ。約束は守ってね〜」

「おう、そっちもな」

軽くお酒の入った私は陽気に見送る。
しかし、彼の姿が見えなくなると陽気さも影を潜める。
折角会えたと思ったら、ちょっとしか話せなかった。
やけっぱちにエールを飲み干す。

「…ま、忙しいのだからしょうがない、よね」

自分をそう納得させる。
約束しているし、必ず帰ってくると思えば、これぐらい何てことは無い。

(…ちゃんと帰って来てよ、リディアス…飲ませてくれる名産ワインの約束、守ってもらわないと…怒るから…)

そう思ったけど、人に限らず、自分の心は複雑とつくづく実感。

「…歌にしてみようかな?」

今日は適度に酔って、歌を歌って、寝るとしよう。



  


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