草陰の中で 壱 (2003/07/21)
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作者
うゆま
登場キャラクター
ホッパー・ビー



さぁぁ

糸のような細かい雨が降りしきる薄暗い昼間。
緑に萌える草の中に僕は長弓を構え身を潜めている。
薄い革鎧。矢筒。腰に小剣。
それ以外に僕は何も持っていない。

きり…きり…

僅かな呼吸音すら、相手に気付かれると僕は思った。
長い長い深呼吸の後、息を止める。
静かに長弓を引き絞り、ボロ布を被った見張りの妖魔に狙いを定める。

ひゅ

雨と空気を裂く音が鳴った。



放たれた矢が見張りの妖魔の喉に吸い込まれるように食い込む。

「 ハ ッ シ ヘ 」

警告の声を上げようと乱杭歯を剥き出しに口を広げる。
だが、声は出ない。空気が漏れる微かな発声音だけ。
そして、矢を引き抜こうとするが、両手は虚空を仰いだだけ。

どさ

もがき苦しむ暇は無く、そのまま後ろへ倒れこむ。

「…まず一匹」

周囲に仲間がいないことを確かめ、倒れこんだ妖魔の骸に近づく。
ボロ布をめくると白目を剥いた顔が目に飛び込む。

「…コボルト」

大地の妖魔と呼ばれるコボルト。
体の大きさ人の子供と同じくらい。
その頭部は醜い犬のそれで全身は体毛と鱗に似た表皮。
非力で臆病、それ故、妖魔の中では奴隷的な扱いを受ける。
特にこれといった能力は無い。妖魔特有の暗視ぐらいだ。
大地の妖精族ドワーフ達の伝説によれば銀を腐らせると言われる。

絶命している事を確かめ、骸を近くの草陰に隠す。
雨の中ならば、しばらくは仲間も気付きはしまい。
流れる血も雨に流され、僕の匂いも掻き消してくれるはずだ。

「…あと、八匹…」

もう一度、周囲を見渡し、僕は去った。
仲間が来ないうちに。

「絶対に、帰る。約束したんだ」

雨の中、呟きながら足跡の残らぬよう、草の上を踏んでいった。



海から湿った風と山から吹きつける冷えた風が霧を生み出す。
その霧の中に一つの村がある。
オランより東三日歩いた所にあるビーラス村…そこは僕の故郷。
もう二度と寄る事は無いと誓った場所。

何故、僕がそこにいるのかは…

もうちょっと詳しいことを話さねばならない。
だが、それは次の機会までしばらく、しばらく…

<壱 終わり 弐へ続く>



  


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