ぼくが旅に出る理由。 (2003/07/23)
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作者
放浪人まーてぃー
登場キャラクター
ヘイズ



「…ヘイズ、また風邪か?」
 昔は体が弱くって、ぼくはよく風邪なんかを引いていた。そんな時、いつも見舞いに来てくれたのは、幼なじみの友達だった。

『ぼくが旅に出る理由』

「もうちょっと体力つけろよ、そうでないと、ナンパにも連れて行けないぜ?」
 気も弱くて、病気がちなせいで外にも出られない。だけど、彼はいつも明るく笑って背中を叩いてくれる。何となく、側にいると安心できた。
 家は冒険者でも、貴族でも、学者でもない。ごくごく普通の家で、家族のほとんどは、『ぼくは役に立たない』と怒鳴っていた。だけど、結局風邪が悪化したり、他の病気を併発したりで、ぼくはまともに返事が返せなかった。そんな悲しい時や悔しい時、へこんでいる時に限って彼は来た。決まって、楽しい話を持ってきて。
「よーし、ヘイズ君!冒険者のルールって話を聞かせてあげよう!まず、冒険者たる者…真っ先にしなきゃならない事は―――。」
 その話が嘘だと気付くのは後々になってからだけど、そんな事は気にしなかった。一緒に笑う事が、その時のぼくにとって、何よりの薬だった気がする。気が滅入って泣きそうな時も、外に出た時にいじめっ子にからかわれた時も、彼はいつもぼくの前にいた。体格もいいし、身長だってぼくよりずっと高かった。

 …そうだ、ぼくは…彼の背中しか見ていない。

 そう気付くのに、長い時間なんて掛からなかった。彼はぼくの親友であると同時に、その日からぼくの目標にもなったんだ。今もそれは変わっていない。
 おじさんの狩りや家の手伝いで少しは体力をつけて、病気がちでは無くなったけれど、体力面や筋力、それに伴う体格は諦めるしかなかった。175cmあるのに、何だか「すらりと高い」というより「ひょろっと高い」感じ。…勇ましい顔って感じでもない。
 今はもう二十歳だけど、まだ子どもっぽい顔。家族が言うに、頭の中も子どものままらしい。それを誉め言葉か、貶し言葉か、どう取るのかは悩むところだけど、彼だったら悩まないだろうと思って、ぼくは考えなかった。

 今までは、狩りの手伝いがぼくの「冒険」だった。他のヒトからすれば、ちっぽけかもしれないけれど、命の重みは味わえる。気がついたら、ハンターの技術をかじっていたり、剣士としての腕もそこそこ自身を持てるようになっていた。
 だけど、その時に別の事にも気付いてしまった。

 …前にいたはずの『彼』が、いつの間にかいなくなっていた。後ろを見ても、先を凝視しても、姿が見当たらなかった。
 彼が後ろにいるなんて思えない。だとすれば…。
『置いていかれる。』
 そう思って、ぼくは訳も解らない衝動に突き動かされて走り出した。どうして走るのかは解らない。でも、心の何処かでその理由が解っている気もした。
『追いつかなければ。』
 ひたすらそう思っていた。
 その夢を、今でも見る。いつも、一人で走っている夢だ。何処まで走っても先が見えず、それどころか、足元さえも見えない不安な道を、ぼくは延々走り続けている。そういう夢を見るときに限って、ぼくは思い出すんだ。

 こんな非力なぼくでも、出来る事がある。

 それを彼の前で証明するという誓いを。ぼくは強くなる。そして、きっと先にいる彼に追いついて、今度は肩を並べて歩くんだ。そうすれば、いつも見るのは背中じゃなくて、きっと顔になる。
 ちょっと欲を言うなら、彼の先を歩いてもみたい。
 でも、まずは…。

「探さなきゃな、このアレクラストの何処かにはいるんだから。」
 当て所も無く彷徨う彼を、見つけなきゃならない。今までは機会に恵まれる事もなかったけれど、大きく風向きは変わって、ぼくにもついに転機がきた。
 その最大の転機とは、初めて酒場に行ったときだ。
『いつか強くなってやる!』

 ―――― そう言った自分が本物かどうか。ぼくはこれから確かめようと思う。ヒトよりも軽いブロードソードに、皮の鎧を着込んで。髪は括った。背負い袋の荷物も持った。彼から貰ったペンダントは…もちろん、首から下げている。
「大丈夫…行こう。」
 誰に言うとも無く、ぼくはそう呟いて歩き出す。


 雲のようにつかみ所の無く、渡り鳥のような我が親友よ。
 願わくば、再び生きて逢い見えん事を。



  


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