『歳月、ヒトを待たず?』
あー、朝っぱらからエール飲むのは問題かねえ…。ま、いいや。――ぷはー、美味い!…って、こんな感じか?…うーん、もうちょっと考えないとな。 ああ、昨日は酒場でバカ騒ぎして、一緒に騒いでたロルルってダチに部屋へ送ってもらったんだ。また会ったらお礼しなきゃな。あの話の続きも聞かないと気がすまねえ。嫌でもオランに数日居座らないとな。 何、奢ってくれる? …そうだな、じゃあ、お近づきの印にちょっとした昔話でも聞かせてやろうか。ま、酔っ払いの戯言だと思って、適当に聞いてやってくれよ。
…オレは八年前にこのオランを飛び出して、あちこち旅して寄り付こうとしなかった。オランが嫌いってわけじゃないけれど、何だか寄り付きにくかっただけなんだ。その辺の詮索はよしてくれよ。 ガルガライスで数年過ごして、ベルダインとか、タラント、ファン、タイデルなんかをぐるぐる回って八年を過ごしたんだ。…悪い、ドレックノールには行ってない。そこまでの技量はないんでね、何しろ一人旅が多かったもんだから…ちょっと不安だったわけよ。 んで、ちょっと故郷の弟分を思い出してね、ここに立ち寄ったってわけ。次の仕事はアノス方面だからさ。いや…旅してないと、落ち着かないんだよ、うん。
…ああ、その弟分? …そいつはオランの市街地に住んでたんだ。でさ、昨日会いに行ったわけよ、ついでに、『一緒に来ないか』ってさ。そしたら、だぜ?そこの親から目くじら立てて怒られてさ。あー、オレが何をしたって言うんだ…。昔っからここの家族は怒りっぽいし八つ当たりが多かったんだよ。そこン家の次男坊だったな、あいつは。 性格、ねえ…。八年前のままなら、絶対ヒトには懐かんだろうな。まず、疑って掛かる。敵対的な態度を取らなかったら、まず次の日は雨通り越して大嵐が来るぜ。ああいう家庭環境だったからな、人間不信の塊みたいなヤツ。おまけに病弱だから、何かにつけて諦める、どうしようもなく素直じゃないヤツ。…と、今の今まで思ってたんだぜ、この八年、ずっと。 それが、ねえ。ワーレンって衛視に聞いたんだけど、何か180度変わってるらしいんだ。素直、オレに似てる――豪快って所がなのか、嘘が苦手って事なのか、その辺は不明――、そーんな感じらしい。 聞いた時? そりゃもう、仰天したよ!悪いもんでも食ったんじゃないかって思ったぜ! …でも、違うって。一体、アレに何があったんだか。会って真相を確かめたいトコだが、残念ながら二日後には向かわないと間に合わねえ。ま、気長に待ってみるか。アレは意外と執念深いからな。
背中ばっかり見てたヤツが何処まで追っかけてくるか、試してやろうじゃん。
…なんてね、そんな事考えた一日だったよ。
―――…え。何? …オレが女ぁ!? うわ、エール吹いちまった…って、そうでなくて。ど、どど…どうして気付いたんだ、何がいけなかったんだ!? 声か!声なのか!? リグベイルやワーレンに看破されただけでもショックだってのに〜! …何で男装してるか? こっちは一人旅。自衛手段が必要だったんだよ。 …これからも一人旅は続けるさ。アノスに行ったら、次は物見遊山でミラルゴにでも行ってみようと思う。…ちょくちょく帰ってくるかどうかは、また悩んでる。 オランは苦手でね。長居する気にはならねえよ。 …あいつは、騙し通すつもり。オレは女だって事に負い目は感じないけれど、あいつが男だと思っている以上、夢を壊したらいかんかな、とね。 あー、いろいろ聞いてくれてありがとな。スッキリした! ああ、最後に。オレはウィト。見ての通り、そこそこの『剣』だぜ。
…また、縁があったら会おうや。
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