傭兵稼業( プロローグ・登場・殲滅戦)
( 2003/08/16)
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作者
蛇
登場キャラクター
サイカ
プロローグ
セッツ砦。
オラン辺境地域に隣接するこの砦には司令官である騎士1名、
騎士の従者である兵士長5名、一般兵を指揮する小部隊長であるベテランの兵士長
が4名、各兵士長の指揮下にある一般兵士が5名ずつ、合計30名の正規部隊が
配置されている。
本来、大きめの村に駐屯していてもおかしくない規模であるこの騎士隊が小さな
砦に集中配備されているのは、この砦が辺境からオランに向かう間道のひとつを
制する位置にあり、辺境警備に当たる部隊からさらに離れて、正真正銘、オラン王国
防衛の最前線にあり、日夜警戒にあたっているためである。
直接戦闘に加わる兵士たちのほか、騎士の働きを王に伝える軍監が1名、補給・経理
を担当する書記官が1名、騎士の少年従者が1名この砦に起居している。
数は少ないながら、少年従者を除いて彼ら文官の地位は高い。軍監は兵士の
指揮権をもたないながらも、身分上、騎士と同格であり、書記官は隊長、軍監に続く
砦のナンバー3である。
砦は100人程度が生活できるスペースがあり、見張り用の塔一本を備えている。
警戒という任務の性質上、この砦には伝令用の馬が戦闘員の人数分以上に
確保されている。
警戒部隊の手に余るような敵が現れた場合は、すぐさま後方の主力部隊に連絡し、
状況次第では篭城戦を行い、主力到着まで時間を稼がなければならない。
砦は村を見下ろす山の中腹に存在し、塔からは川沿いにはるか遠くを見通すことが
できる。
村人は緊急の場合、家畜などの主な財産をすべてこの砦に持ち込んで、正規兵
もろともに篭城する手はずになっている。
何よりも際立った特徴は、この砦が少数の傭兵部隊を常設していることであろう。
騎士にせよ、正規兵にせよ、あくまで騎士団同士の戦闘を前提に組織されている。
しかしこの辺境の砦において、戦う相手は主に蛮族や怪物であり、正規兵の戦い方
とは性質の異なった戦法、技能が要求される。
傭兵は主に警戒、偵察、奇襲の任に当たり、この小さな砦でもっとも重要な役割を
になっていた。
登場
夏の日差しが茂った木の葉を通して顔にあたった。せみの鳴き声がそこらじゅうに
溢れている。
暑い。仕事を切り上げて家の中でのんびりとしていたい、そんな気分にさせる
強烈な暑さであった。加えて山中特有の湿気があり、板金鎧などを着込んでいては
到底戦闘をするのは不可能だと考えられる。
サイカはその暑さの中、地面をはいつくばって草を掻き分けていた。
前方の台地にはゴブリンが7匹、だらしない格好で寝そべっている。草の間から
様子を窺い、サイカは仲間の傭兵に手で合図を送った。
後方10メートルほどの地点に待機していた仲間は、うなずいて木々の間をぬって
集結地に向かって下がって行った。
山でウサギを追っていた猟師がゴブリンを見かけたのが事の発端だった。
ゴブリンが近くの山中に住み着けば、村が襲われることはほぼ間違いない。
繁殖力が強く山中で生活するゴブリンは、その強さではなく、どんなところからでも
人間の領域に侵入し、放っておけば害虫のように増えていく点が厄介であった。
砦の司令官である騎士コウンは現れたゴブリンを殲滅する決心をした。
一匹、二匹であってもどこがどうなって増えていくかわからない。
害虫は早いうちに、一匹残らず除去してしまう必要があった。
砦の部隊は夜の明けきらないうちに戦闘準備を整え、偵察の傭兵4名を先遣して、
主力は山を包囲して、虱潰しに捜索を開始した。
サイカと仲間がゴブリンを捕捉したのは昼過ぎである。
足跡からおおよその位置を判断した後、二人はやや迂回してゴブリンを見下ろす
位置に移動した。仲間が集結地に下がり、サイカが残ったのは、ゴブリンが移動
した場合に備え、かつ地形を利用して有利な状況を作為するためである。
ゴブリンが寝転がっている場所は、小川からやや離れた台地状の広場である。
サイカは広場の隅に盛り上がった丘の茂みに隠れ、ゴブリンの様子をうかがった。
この丘と小川の向こう側を押さえて、台地から小川のある谷間にゴブリンを落とし込めば、
そこでゴブリンを包囲し、皆殺しにすることができると思われた。
2時間ほどで仲間がサイカの元に帰ってきた。すでに日差しはだいぶ和らいでいる。
待機している間に彼の体には蚊がたかり、首筋にいくつも赤い腫れができている。
サイカは発声はせず、手振りで合図を送った。「状況 変化なし」
仲間が手をかざしてこたえる。「了解」
仲間は再び下がって行った。主力部隊に状況を報告するためである。
じきに戦闘が始まる。サイカは愛用のクロスボウを静かに取り出した。
サイカの目に見えない位置では、他の傭兵が二人、部隊の侵入経路を確保する
ために動いていた。正規部隊に彼らのような隠密行動の能力はない。
地形を利用して短期間に包囲網を完成するためには、先行して部隊を誘導する
必要がある。
「準備できましたぜ。」連絡した傭兵に、騎士コウンは無言でうなずいた。
「レンの隊は右から小川をふさげ。他は私とともに左から攻める。」
騎士コウンの命令に従って、主力部隊(20名程度ではあるが)が二手に分かれて
進んだ。
殲滅戦
兵士が藪を掻き分ける無遠慮な足音が次第に大きくなった。
完全に寝入っていたゴブリンたちもさすがに異変に気がついて体を起こす。
サイカの前方、ゴブリンたちを挟んで反対の斜面に、仲間の傭兵が走りこんできた。
戦闘が開始されたのを見計らって、サイカは狙いを定めて矢を放った。
独特の太い矢は、狙い通りに一匹のゴブリンに突き刺さった。しかし致命傷には
至っていない。
サイカはクロスボウを地面に投げ捨てると、愛用の長剣を抜いて坂を駆け下りた。
「おおぃ馬鹿ゴブリンども!こっちだ!」
ゴブリンたちがいっせいにサイカを振り仰いだ。怒りの声を上げて突進しようと
するところに、騎士コウンの率いる兵士たちがサイカから見て右側から襲いかかった。
ゴブリンたちは側面を突かれた形になって浮き足立った。
そのまま崩れて、やや谷状になった小川の下流、別働隊の待ち受ける死地へ
転がり落ちた。
サイカは方向を変えて小川と平行に走った。包囲網を縮めてゴブリンたちを
完全包囲するためである。
細い谷川を別働隊がふさぐのが見えた。逃亡しようとしていたゴブリンがあわてて
急停止している。サイカから見て反対側の斜面では、仲間がやはりサイカと同じように
下流へ向かって走っている。
小さな谷川で、殺戮が行われた。
もともとゴブリンにたいした戦闘能力はない。数を頼んでいっせいに襲いかかるのが
この妖魔の常套的な戦法だが、今回は数においても人間側が上回っている。
勝ち目があろうはずがなかった。
一匹のゴブリンが兵士の手を逃れてサイカがいる坂を駆け上がってくる。
サイカはそのゴブリンに蹴りを入れて、兵士の群れに突き落とした。たちまち数人の
兵士が群がって、ゴブリンを肉塊に変えてしまう。
何の変哲もない山の小川は、ゴブリンたちの血で染まった。
「よし、死体を回収して引き上げる。傭兵隊は周りを警戒、残りのもので死体を集めろ。
肉食動物が寄り付かんように、きれいに掃除してしまえ。」
コウンの命令に従って、兵士たちはゴブリンの死体を集め始めた。
早くも血の臭いをかぎつけて、上空にカラスが集まり始めている。死んだゴブリンの体から、
ノミやシラミが、新たな宿主を求めて這い出している。
「いい身分だな。後片付けもしないでよ。」
「その分あんたらより苦労してるのさ。」
毒づいてきた兵士に、サイカはにやっと笑ってこたえた。警戒・監視は特に神経を削る。
これで死体の処理にまで付き合わされてはかなわない。
蚊に食われた首筋を、サイカは皮手袋をつけたまま、ぼりっと掻いた。
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