某 日の訓練場にて( 2003/09/29)
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作者
放浪人まーてぃ
登場キャラクター
アルファーンズ、ヘイズ



「むー…。」
大きく背伸び、後欠伸。温かい日差しに感謝しつつ、行くはマイリー神殿鍛錬場。
今日は珍しく相手がいる。…まあ、いろいろあって。
『ある人物』と手合わせする事となりました。

理由――――髪の毛。


「じゃ、どっちかが至近距離で相手に武器を突きつけた時点で勝ちにするか。」
「よーっし、決まり!負けた方が勝った方の言う事を一つ聞く!!」
そんなこんなで、この手合わせはぼくの大声から始まった。
「後で泣き見ても知らねーからな、箱入り!」
相手は「戦う知識人」こと、アルファーンズ。
背丈はぼくより20cm弱ほど低い。ついでに言えば、歳も下らしい。(ぼくの方が下に見えているんだろうけど…。)
そんな彼はいろんな知識を知ってる。石の事について教えてもらった事もあるし、お世話になってるのは事実。
だけど、今回ばかりはお世話になっていても手加減は出来ないわけで。
…彼は練習用に借りた刃の潰された槍を構えている。リーチが長い分、剣としてはちょっと不利かもと勘繰りつつ、その台詞に笑顔で応対。
「そっちこそ、後で痛い目見ても知らないぞー!」
びしっと指さしてから、ぼくも練習用に借りた剣を構える。前まで使っていた皮鎧は着てない。重たくなって着られなくなったから、新しく新調した柔らかい皮 鎧。
しばらく、お互いにらみ合う。まだ、2人とも動かない。

―――――――――――――。
事の発端は、さる9の月某日…。
どうやら巷ではぼくがとある女の子とデキていたという噂があるそうな。
結論? ―――きっぱり、全否定っ。
何処をどうしたら、女性恐怖症であるこのぼくにそういう噂が流れるんだ!?
い、いや、自慢する事じゃないけど!
しかも相手はぼくが最も恐怖とする相手!本日只今を持ってオランが滅亡したってそんな仲にはなりゃしない!!
とまあ、否定に否定を重ねるうち、どこかの拍子でプッツンいきまして…。
アルの髪の毛を、こう、くしゃくしゃーっ!と。
それがきっかけで、「ぜってー潰す!」「望むところだ!」となって…現在に至るのでありました。
―――――――――――――。

「……。」
「……。」
真剣な面持ちで、睨みあう事数十秒。
そりゃ、負けたら相手の言う事聞くんだもん。何言われるか解らないし。
「―――――!」
…そして、ついにアルが一瞬動いた。彼が踏み込むと同時に、ぼくも動く。
(悪いけど、初速では負けられない!)
槍は確かに剣よりもリーチが長い。でも、懐に入ればそこまで怖い武器じゃない。
でもアルはその攻撃を受け止める。ニヤリと笑って。
「ナヨってる割には、速いじゃねーかっ!」
勢いつけて弾き返される。身軽なのをいい事に、体勢を立て直す。
「ただじゃ終わらないと言った以上、本当にただじゃ終わらないからな!」
ぼくもにっと笑って、次の攻撃に移る。
剣なのにひ弱で、打たれ弱いけれど…回避には自信がある。
それが取り柄なら、最大限に生かさなきゃ。

――上段から振り下ろす、下段から受け止められる。
――突きを繰り出される、横っ飛びに避ける。
――踏み込み、薙ぎ払い、弾き返し、受け流す。
しばらくそれが続いて、同じタイミングでお互いが得物を突き出す。
頬に槍がかすめて血が流れる。金髪が数本はらりと地面に落ちる。
「どうした、もう息が上がってるみたいに見えるけどな?」
ふふんと笑われ、自分がすでに肩で息をしている事にようやく気付いた。
やっぱり、8日意識不明で寝たきりのブランクが大きい。
「なんの、まだまだ〜!」
ぼくでは届かず、アルだと届く距離からの攻撃。
ギリギリでかわして、間合いに入り込む。
「おおっ!?」
アルが槍を引き戻すけど、多分間に合わない。このまま突っ込めば確実にいける。
防御をかなぐり捨てて、突撃。剣をアルの目の前で突きつければ勝ちだ。
「この勝負、ぼくの勝ちだ…っ!」

そうだ…こんな所で負けていたら絶対ダメだ!
ぼくはもっと強くなって、ウィトに手を届かせるんだ!

そう、そしてぼくはアルの目の前で……。
―――――がつ。
「……へ?」
剣を持ったまま、ド派手にズッコケをかましたのだった。
原因は、弱っていた足にあったようで。
おまけに全力で走っていれば、その結論は…見える、わけで…。
顔面モロ強打。
剣すっぽ抜け。
激しい摩擦…。
「ぎゃ〜!!!」
…変な生き物のような、すっごい悲鳴と一緒に。

「お、おーい、生きてっかー…?」
しばし綺麗な花畑の中で悦に浸っていたものの、その一言で現実に戻った。
「―――うあ〜…。」
額から、鼻から、ぼたぼたと血が流れる…よほど打ち所が悪かったのか、頭もふらふら。
とりあえず、鼻血を止めるべく鼻を押さえる。…あ、止まりそう。
よれよれになりながら起き上がると、ぴたりと喉元に槍の穂先が…。
「とにかく…この勝負、俺の勝ちだな。」
上を見上げると、太陽の光を背にアルが笑っていた。
悔しげに見上げるけれど、これは自己管理不行き届きのツケだから文句は言えない。
「むー…。」
定番の唸り声(?)を上げて、彼を見上げるばかりだ。
「ま、箱入りが俺に敵う事は無かったわけだが…。」
爽やかな笑みで、彼は続ける。
「箱入りの割には、上出来。」
しかし、爽やかなのはそこまでだった。
笑顔は爽やか、だけど…オーラに恐ろしいものを感じる。
「ぴっ!?」
思わず変な悲鳴と一緒に後ずさりしようとした、が槍に取り押さえられる。
(あれ、ぼくって何か他にアルに対して恨みを買う事言ったっけ!?)
――――ああっ、あるじゃないか〜…!
「その顔だと、解ってるみてーだが…高らかに宣言させてもらおうか?」
ぶんぶんと首がもげ落ちそうなくらい横に振る。潤んだ目で見上げてもみる。
「ええい、野郎にそんな目で見られたって嬉しかない!往生しやがれ!」
「ぐ〜〜〜っ…!!」
では、結論。びしっと指を差されて…。
「ふっ…。――来年の夏祭り、俺と同じ屈辱的な思いをしろ、箱入りー!」
というわけで、ぼくは来年の夏祭り、女装する事になってしまったのでした。

―――――――――。
…ハザード川のほとりで、この回想をしつつ…ぼんやりと思う。
アルと手合わせして、結構楽しかったし。いや、最後の自滅は痛かったけれど。
楽しい事やってると、今までの苦悩が馬鹿やってるみたいに見えてきて…。
(……やっぱ、無理はやめよっかなー。)
それは…ばーちゃんの事であり、家庭の事であり、憧れの人の事であり、
お世話かけた人への言葉であり…女装の服をどうするかという深刻な問題でもあり。
今はちょっと考えてもいいアイデアは浮かばない。
その内…いい考えが浮かぶさ。そうやって、いっつも切り抜けてきたんだから…そうしよう。
また悩む事はあるだろうけれど、今のところはどーでもいいような気がする。
「…よっし、きままに亭に戻ろう。」
よくよく現実を見れば、今は宿代が最優先。
おっと、まだ手合わせの約束もあるんだっけ。忙しくなりそう。

「よーし、頑張ろー、ぼくー!」
夕陽を浴びながら、ぼくは大きく伸びをして、今の家に帰るのでありました。






  


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