拳闘士( 2003/10/28)
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作者
案山子
登場キャラクター
アハト



新王国歴で500年の夏、祭りの喧騒の中数え歳14になったアハトは家を捨てる事になった。傭 兵であった父は領主同士の小競り合いに雇われ、戦場で行方不明になったと報告された。残された僅かな財産は瞬く間に消え、働きに出る必要があった。しかし 数え14の少年が口に糊出来る程稼げる仕事は少ない。
 考えた結果、ロマール闘技場へ入ると決めた。与えられた部屋で眠り技を磨き試合い金を貰う闘技場での生活に、少年は憧れを持ち結局父同様に武力によって 金を稼ぐ道を選んだ。
 闘技場での生活は楽ではなかった。元々長身ではあった為に同年代の少年とは当てられず二十歳近い冒険者紛いや剣闘士奴隷とばかり当てられた。彼等の木の 太刀を顔面に喰らう度に鼻の中がきな臭くなり、目の中に星が飛んだ。
 時折まぐれ当たりで相手を倒せる事もあったが連戦連敗で、怪我の為に稽古がままならないという悪循環に陥ってしまった。
 ”岩の”イアーゴーに出会ったのはそんな折だった。早朝稽古中、慣れない手付きで木剣を振るうアハトに声をかけた。
「お前、それ楽しいか?」
 図星だった。3ヶ月の間、指導の下に木剣を振り廻しても借物の木の枝でも振り回しているかのような不安に駆られてた。その気持ちを見透かされたような気 持ちになり、振り返る。
「腰をもっと落として、背中の筋肉で振り下ろすんだ。そして手の内を締めて」
 異様な男だった。身の丈六尺に満たないにも関わらず体は横に広く、ドワーフが岩妖精ならこの男は岩としか形容出来ない。
「ほら、どうした、もっと腰を落として。二度言わせねえで。」
 岩某の言葉は風貌と相俟って説得力を帯びており、アハトは従った。
 するとこれまで自重で流れていた木剣が意志を汲み取ってくれたように、動き、止まる。
「是で多少楽しくはなった。しかし、武術にはこの先がある。」
 武術、アハトが聞き返すと笑った。
「人の子を獅子にも変える魔法だよ。獅子がこんな木の枝使うか?」
 答える前に岩某は己から答えた
「使わないだろ?」
 是迄想像だにしなかった思想を目の前にして戸惑っていた。声すら出ない。
 岩某は続ける。
 獅子に成りたくは無いか
 木剣を打ち捨て、獅子に成りたいと叫んだ。
「この小僧、貰ってくぜ」
 岩某は幾ばくかの銀貨を闘技場の飯場係に渡し、アハトを連れ去った。

 岩某の姓名を聞いたのは明朝だった。十人に満たない弟子と共同生活する岩某の家兼道場で目を覚ますと岩某は名を告げた。
「イアーゴーだ。闘技場での技術指南をしている。」
 アハトは首を傾げた。三ヶ月の間闘技場で修練を積んでいたが、イアーゴーと言う名前には聞き覚えがなかったからだ。
「闘技場って言っても、その、お前が在籍してた武器を使った戦いじゃない。」
 アハトが声を出す前にイアーゴーは拳―岩のような拳を―を突き出して言った。
「獅子になりたいんだろ?」






  


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