失った日の想い 出
( 2003/11/20)
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作者
MASASHIGE
登場キャラクター
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(腰に剣を差した男が1人、酒を飲んでいる)
ん?いや、仲間がいないわけじゃないんだがね。たまには1人で飲みたくなるんだよ。
今はこれ一本で生きていってるが、そうじゃない頃があったってのを思い出した時とかはな。
仲間には見せたくねぇんだよ。今の仲間は、俺が至高神の声を聞けた頃のことを知らない。
あー、やっぱこういう時は口が滑っちまうもんか。
……なぁ、付き合ってくれるか?俺が信仰を失った日の想い出に。
俺はね、アノスの生まれでさ。親兄弟、友達なんか含めて環境全てがファリスの秩序の元にあった。
別にそのことに不満なんざ一つもなく、俺だって至高神の教えのままに品行方正に……いや、悪ガキだったがね。ファリスの裁きはちゃんと受けてたさ。
神官戦士団に入ったのは15の頃か。
昔っから腕っ節は強くてね。餓鬼の間の喧嘩じゃ負けなしだった。
ファリスの与えられたこの身体を生かすためにはそれに相応しい職業に就かなきゃいけない、ってんで俺は神官戦士団に入ったのさ。
いやー、甘いってことを思い知らされた。徹底的にしごかれたし、叩きのめされた。だからこそ今もこの身体があるんだがな。ま、その頃はまだ俺はファリスの 一信徒、ってだけだったが。
その俺に神の声が聞こえたのは、18の時。
ゴブリン討伐の遠征隊に組み込まれて、意気軒昂に向かった先。そこにはファリスの秩序がなかった。
よりによって至高神のお膝元、アノスの国内でファラリス信仰を掲げている集団がいてな。
そこは、正に弱肉強食だった。
ゴブリンを率いた魔術師に支配される村。秩序も正義もあったもんじゃなかった。
俺達は、至高神の正義の元で、ゴブリンを叩き斬った。
凄惨な戦いだった。魔術師の魔法で1人ずつ減っていく中、生き残った者だけで先へ進み、妖魔を切り伏せていく戦い。
ただ、魔術師へと一太刀浴びせるために半分以上の遠征隊が命を落とした。
仲間の屍を乗り越えて、魔術師を斬った時に、俺は神の声を聞いた。
「この場だけではない」
という御言葉を頂いた。
こんな屍の山を築かなくてはいけない戦場が他にある、ということか。
それとも、悪の魔術師がいる場所が、なのか。
どちらかは知らないが、少なくとも俺が神の声を聞いたのは、それぞれの場を俺が収められる、ってファリスが思ったからだ。
それから俺は聖戦士として旅に出た。
長い?まぁ、あとちょっとだよ。俺に神の声が聞こえなくなったのは、本当にすぐだったんだ。
旅に出て5年だったかな。
俺は気の合う仲間と一緒に冒険者になってた。志は当然あったが、それだけじゃ飯は食えないしな。
俺自身は融通が利かない方じゃなかったし、1人じゃ何も出来ないこた知ってし。
冒険者になってから、懺悔の回数は格段に増えたけどな。大義のためには目をつぶらなきゃいけないことが多すぎた。
それでも俺の信仰は失われなかった。俺は神の声を聞いていた。
だが……5年目だ。
一度アノスに戻ってきていた俺は、イストンで仲間と仕事を受けた。
仕事の内容は妖魔退治、だった。グロザムル山脈から流れて来た妖魔が、巨人像の辺りに巣くった、って話だった。
その近くの集落から、出た依頼だった。
その依頼の最中に、俺は信仰を失っちまったんだ。
依頼自体は簡単なものだったよ。妖魔の数だって大したことなかった。後ろに黒幕がいたわけでも、妖魔の中にオーガがいたわけでもなかった。
ただ、な。
森を抜けた先に。
視界が開けた先に。
それを見ちまった。
巨人像。
腰から下が埋まったまま、悠然とそこに在ったそれを見た時に、思っちまったんだよ。
でけぇ、ってな。
そりゃ、オランの三角塔やらと比べたら相当に小さい。だがな、人の形としての巨大なそいつを見た時に、俺は思わず言っちまった。
でけぇ、って。
それで俺は、神を見失ったんだ。
何でか、って?そりゃホントのトコは神のみぞ知る、ってヤツだが……
俺は多分、この巨人像ってヤツに惚れちまったんだろう。
古代王国の遺跡だと言われてるが、どの文献にも一切出てこない上に、如何なる力を持っても傷つけることが出来ない謎の巨大な像だ。何のために、誰が作った のか、全く分からない。ただずっとそこに在るもの、だ。
それを偉大だと感じたことで、信仰心を失ってたのかもしれない。
こいつを崇めてるヤツがいる、って知ったのはその後、さ。
まぁ、ただのきっかけだったのかもしれないけど、な。
話はこれまで。
何かつまんねぇ話、しちまったな。悪い。
この酒で……アノスの赤で許してくれねぇかな?
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