遺失物と下水と 怪物( 2003/12/06)
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作者
うゆま
登場キャラクター
ワーレン



(ことの詳細は宿帳「衛視詰所日誌」の”515/12の初め頃? 遺失物と下水の怪物”を)

〜あらすじ〜
十二の月の始まり、夕刻から降る雨、暗くなる空、凍えそうな風。
そんな中、裕福な階級のリーミテルト夫妻が詰め所にやって来る。
娘のセアリがまだ私塾から帰ってこない、探してくれと。
降りしきる雨の中、動ける衛視をリリエ第参隊長が緊急召集。
一刻早く出勤する羽目になった俺ことワーレンは娘のいそうな場所を聞き出し、市内を駆け回る。
しかし、他の衛視達との働きも虚しく手がかり一つ得られない。
最悪の結果がよぎる。そして、一度報告の為に詰め所に戻った俺だったが・・・



「すまん!本当にすまん!」

本来俺の口から出るであろう言葉は。
リーミテルト氏の口から何度も何度も繰り出される。

奥の椅子には片手の掌に頭を乗せて複雑そうなリリエがいる。
兎にも角にも話しを聞きに、報告する。

「だった訳だが・・・なぁ、リリエ」

「第参隊長と呼びなさい」

「あー・・・第参隊長、どういう事だ?」

リリエによると。
行方不明になったセアリは最初から屋敷にいたそうだ。

流石に脱力する、ぞ。

良く見れば母親と一緒に謝っている女の子がいる。
半べそで謝罪の言葉もまともに出ない様子だ。

そもそもの原因。

リーミテルト家には家宝がある。

『雪の乙女』

その家宝とは超のつく”高級装飾人形”。
一流の中の一流の人形職人、今は亡き”人形達の古老”ベムザッパルの作。
生涯で最後の作品となった人形が家宝のそれなのである。

で、だ。
有名な私塾に通ってはいるが、まだまだ遊びたい年頃のセアリ。
しかし、屋敷には彼女の遊び玩具は無く、本ばかりが彼女の部屋を独占している。
ところがある時、セアリは家宝の装飾人形を見つけた。
その人形が凄まじい価値を持つ家宝とは露知らず、セアリは唯一の玩具にする。
まぁ、子供からすりゃ、世の中のものは玩具に見えるんだから仕方ない事と言える。

で、だ。勿の論、親に見つかれば大変な事。
セアリは何となくそこは分かっていた様で、見付からない様に人形と遊んでいた。
まぁ、子供の勘ってやつかねぇ?おっと、そして・・・事件の日。

朝から人形と遊んでいたセアリ。
私塾に共に通う友人に人形を自慢したくて、こっそりと持ち出してしまった。
ところが、屋敷の近くであろうことか、転んだ拍子に下水溝に人形を落としてしまった。

慌てて下水溝を覗き見るが、時既に遅し、人形は濁流に飲み込まれて行った。
セアリはこの時、始めて自分がとんでもない事をしたのに気付いちまったんだろう。
屋敷に戻って、親に告げるべきだろうが・・・子供つぅのは怖いと、つい、嘘をついたり逃げたりしちまう。
結果はどうにもならないのに、な。おっと、そこで所詮はガキとか、大人分って笑うなよ?
大方、アンタも子供の時に経験したはずだからな?

まぁ、そんで怒られるのが怖くて、そのまま屋敷に隠れていた・・・と。
事の起こりは何とも、子供らしいとは言えるが、道理ですぐに大人の考えでは見つからない訳だ。

・・・で、だ。

セアリは見つかったから、はい、それまでよ・・・といかないの辛いところ。
今度はリーミテルト氏から下水溝に流れちまった人形を探して欲しいってんだ。
冗談じゃない。衛視の領分じゃないっつぅの!・・・と叫びたいところだが。

リリエに腕を引っ張られて隊長室に連行される(あれ?)

「ワーレン?分かってるわね。これも衛視としての立派な勤め・・・」

背を向けて、雨の降る夜景を見つめている。

「こう言う時こそ、衛視の実力を見せ付ける時」

振返ったリリエの顔はにんまりしていた。うへぇ・・・野望に燃えてる顔だ。
ここで名家のリーミテルト氏の信頼を得て、衛視隊内部の評価を上げようと。

で・・・案の定、俺に命令が下った。
「ワーレン、リーミテルト氏よりの依頼を実行しなさい」

・・・俺一人?
リリエが真面目な顔に戻る。

「協力が欲しいなら自分で見つけて頂戴。書類管理部の予算内で、ね」

待て・・・

「今月の予算つっても金貨四枚と銀貨七十五枚だろ?どう見ても受けてくれる酔狂な奴は・・・」

リリエが懐から何かを取り出し、またにんまりする。

「リーミテルト氏からココロばかりの・・・ね」

金貨二枚が机に置かれる。

「これでも不足?」

・・・怖い、怖いよ、アンタ・・・昔の同期だとはとても思えねぇ。
諦めて腹を括った俺にリリエは言った。

「そうそう、報告によると今回の下水溝のあたりに怪物が出たってね」

笑顔で言うな。

「そう言う訳で・・・他の衛視は巻き込まないこと」

あー、そういうことかー・・・・・・・・・・・・待て。

「って、俺はッ!!??」

「あら?普通の衛視じゃないでしょ?」

待て、どう見ても・・・多少はアレ、だがよ、衛視だぞ、俺もッ!

「ただでさえ、貴方が衛視になれたのも、存在意味の不明な書類管理部があるおかげなのに・・・申請を取り消そうかしら?」

わーった、分かった。
仕方なく俺は、いつもの所に出向く事になった。

そう、”気ままに”亭に。
どっか、適当な奴はいないか・・・少なくとも、魔法が使えて戦えるよーな・・・

俺はこの後、実に幸運を実感する事になる。
その”報告”は次に。






  


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