或る日の店員の 一日
( 2004/01/03)
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作者
うゆま
登場キャラクター
ハリート
オラン北部 テトラ伯領
朝、鶏が鳴く前に、我、起き。
昼、腹が鳴く前に、我、釣り。
夕、烏が鳴く前に、我、働き。
夜、鼻が鳴く前に、我、眠り。
是、我の或る日の一日である。
新王国歴486年 ワリュウス・ディッセン 執事見習 二十歳に記す・・・
夜の帳も薄れ、一刻すれば日も昇る頃、自然に目が醒める。
粗末ではあるが、古く確かな丈夫さの木の寝台より身を起こす。
昨晩汲んでおいた水で顔を洗い、髪を濡らし、口を濯ぐ。
”コックドゥドゥー”
其の頃に、借家の大家ネリオフ氏の鶏が夜明けを告げる。
窓を開けば、冷えた空気が私の頬を優しく撫でていく。
火打石にて小さな暖炉に火を燈し、着替え始める。
これが私の一日の始まり。
部屋隅の箱から必要な物を取り出し、弁当を袋に詰め、支度を終える。
薄らいでゆく暗い空、朝日に染まり行く明るい空が混じる頃に外へ。
石造りの借家が並ぶ軒先をゆらりと歩く。
「やぁ、ハリート、今日も下手な釣りか?」
「ええ、日課で御座いますから」
渡し守のディエゾ様に桟橋で声をかけられて、いつも通り釣りを始める。
やや冷え込む風の中ではあるが、釣りをするに問題は無い。
後は、ただ、河の流れに耳を済まし、空の風に心を透かし、待つ。
待つは実に長い時を要し、其の機は訪れるは実に一瞬。
釣りは”静と動”の同居する、一瞬の戦いとも評されるもの。
実に、心の修業とも言えます。
尤も、釣果はいつものように一匹も釣れず、本日は枯葉一枚。
太陽が真上に来て、空腹の音色で釣りは中断。
持ってきた弁当に一時の休息。
日が傾きかけた頃。
釣竿を部屋に置きに帰り、身支度し、店に出勤。
宿泊している御客様や来店される御客様の夕食を仕込み始める。
また、昼の勤務の先輩店員より、酒、食料等の在庫を聞く。
不足分は可能であれば、近くの市場か食料店に買出し。
”クァー、クァー”
厨房での仕込みが一段落する頃、外の烏が鳴く。
店の中庭にて、薪割しつつ一時の休息。
そして、冒険者の御客様への仕事等の羊皮紙を整理。
宿帳を確かめ、宿泊する御客様と空き部屋の確認。
夜の帳が落ちる頃、カウンターや店内にて仕事。
「よう、この店の料理は美味いんだろう?」
「ええ、勿の論で御座います」
実に、天職。
真夜中を過ぎ、交代の時間にて勤務終了。
借家の部屋に戻り、着替えて就寝の支度。
近くの井戸より水を汲み、明日に備えておく。
そして、寝台に身を預ける。
一つの欠伸で深く意識が沈む。
”ず、ず・・・”
寒さに鼻が鳴るが、すでに意識は夢の中。
オラン首都 ネリオフ氏借家
朝、鶏が鳴く前に、我、起き。
昼、腹が鳴く前に、我、釣り。
夕、烏が鳴く前に、我、働き。
夜、鼻が鳴く前に、我、眠り。
是、我の或る日の一日である。
新王国歴516年 ハリート・ディッセン 店員 二十歳に記す・・・
父の二十歳と変わらぬ、私の一日で御座います。
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