暁闇( 2004/01/29)
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作者
琴美
登場キャラクター
ユーニス



11の月の末に、ユーニスはミードに派遣された傭兵のひとりとして到着した。
目的はプリシスとオラン間の、場合によってはプリシス城砦から勢力下の戦略拠点への物資輸送である。
 オランや周辺の村落との交易が城塞都市であるプリシスの財政を支えているのは戦時下といえど変わらず、
つまり経済力の低下は戦力の減衰に直結する。当然交易は最大限保護せねばならなかった。
 ところがこの秋、ミード・プリシス間を結ぶ”白刃の街道”沿いは例年より頻繁に妖魔らしき者の襲撃を受けており、
またロドーリル側の工作員の関与も否定できないことから通常は冒険者が担当する隊商の護衛などについても
傭兵が担当すべし、ということに相成ったのである。
 しかしロドーリルの侵攻で長期間緊迫した情勢にあり、人員も物資も不足がちなプリシスには
護衛にまわせるほど余剰人員が少なく、急遽ミードの傭兵ギルドに依頼してオラン王都のギルドに応援要請をしたのだった。

 オラン王都のギルドから派遣された彼らは、王都から大量の物資をミード経由でプリシスに運搬する命を受けていた。
ちなみにその後は現地で一ヶ月以上輸送等の任に当たるべし、という契約である。個々の任は現地の司令官から拝命すべしとなっていた。

 ユーニスはミード到着後、早速プリシスへの物資運搬の任に就く。剣士でありながら野伏と精霊使いを兼ねる彼女は
比較的重宝がられたが、彼女の所属する隊の副長からは疎まれていた。彼は、女性が戦場に出ることに対して否定的だったのだ。
 襲撃に際し、躊躇わずに戦う彼女の姿に、副長も少しずつ態度を軟化させたものの、基本的には憚ることなく「小娘」呼ばわりし、
仲間というより半人前のお荷物扱いをしていた。

 ようやく副長と彼女の間に信頼関係が築かれつつあったある日、プリシスの城砦から間道を抜けてとある砦に
物資を運ぶ任務を受けた彼らは、敵の小隊と遭遇する。苦戦を強いられたユーニスたちは辛くも敵を敗走させたが、
その折に数名が重傷を負い、特に副長は致命傷を負った。
 自らも負傷しつつも、ユーニスは必死に野伏として副長に応急手当を試みるが、出血量や傷の状態から彼が助からないのは明白だった。
何より生命の精霊が去ろうとしているのが精霊使いとして未熟な彼女にもはっきりと感じられる状態だった。
 自らの末期を悟った副長は、彼女に手当てをやめさせ、止めを刺すよう願う。それは「一人前の仲間」である彼女への、最初で最後の願いだった。
 
 躊躇った後、結局自らの剣で止めを刺すユーニス。
 初めて、仲間を殺した瞬間だった。

 その後、契約した一ヶ月間が経過するまで彼女は黙々と働き、契約を更新することなくミードを後にする。
 所詮は戦争の中で戦わされるだけの手駒に過ぎない。自らの意思で適した仕事を選び取って戦うことに慣れていた
ユーニスにとって、死すら報酬に含まれ、殲滅や略奪が当たり前の世界は馴染みきれなかった。

 だが、当初からどこか心地よさを感じている自分にユーニスは気付いていた。そして、その快感が戦いそのものに起因するのだと
剣、つまり力を振るうことによるものだと気付き愕然とする。
 以前、彼女は剣を手元から離せない状況に陥っていた。それは恐怖ゆえであり、まず自分の恐れを認めるべきなのだと、
傭兵仲間のフォッグやリディアスと話していて気付いた。ミードに向けて旅立つ以前の話である。
 それからの彼女は熱心に体術を学ぶなどして剣に頼らぬ戦いを覚えようとしていたのだが、今回仲間を守れず殺したことによって、
自分が恐れていたものが剣に託した「戦いを望む心」と「自身の殺傷する力」、そして「命を慈しむ気持ち」の鬩ぎ合いであると気付き、絶望する。
 なぜなら、剣を手放せないのは「誰かを守る」ために「何かを切り捨てる」のを正当化してきた自分の弱さゆえ、言い換えれば
どんなに言い訳をしても最終的には障害を排除することで問題を打開してきたその手段、自分の望みを手放せないのと同じだったからだ。
 それでは、いかに剣を手放せるようになっても、自らの力を振るう限りは同じことだと、ユーニスは気付いてしまった。
やはり自分の本質は「剣」であって「癒し手」ではないのだと、時折「人殺しの剣」などと自嘲してきた自分は
、実は言葉だけ理解していてその本質を突き詰めようとしていなかったのだと気付く。
 「相手を殺せる剣を、抜きうる心」を持つ自分は「普通」ではないと理解していたはずなのに、まだ認識が甘かったと痛感し、
そこに自分の闇があるのだと、理解した。

 それでも、なお、剣を持つか?
 剣を捨てて、この生き方を捨てて、別の人生を歩むか?

 戦場の空気に身を浸し、死と隣り合わせの時間に僅かながらもふれたユーニスは、決意する。
 自らが抱く「戦いを望む心」を知り、それを一生御しながら剣を取り続けることを。
 
 そう決意したとき、彼女を取り巻く闇は初めて彼女の呼びかけに応えた。

 「ずっと、そこにいたんだね。いてくれたんだね……シェイド。そして、ウィスプ」

 ユーニスは、痛みと共に、精霊を呼ぶ声を得た。516年の1の月のことだった。
 生死を共にした仲間を殺して痛感させられた、自分の望みを苦い思いで受け止めながら。





 あらすじ版です。長文がお好きでない方にも読んでいただきやすい長さを目指したつもりです。もし長文の本編に興味がおありの方がおられましたら、こちらへどうぞ(別窓が開きます)。






  


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