問われしもの〜アレッサンドロ〜( 2004/05/11)
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作者
あいん
登場キャラクター
某冒険者



永遠の一瞬。
そんな緊迫した長い沈黙を破ったのは──甲高い笑声だった。


「ヒッャヒッャヒャッ、はずれて間違って残念賞!」


先刻までの重厚な雰囲気が夢幻であったかのように騒いでいるのは紛れもなく賢者リドの声。
その豹変ぶりに呆気に取られている間にも語は矢継ぎ早に継がれていく。


「何故、この解を選んだのか理解に苦しむわい。円満な家庭に怨みでもあるのかな。それにしても、少し頭を働かせれば解かるサァビス問題じゃったのに勿体無 い事をしたのぉ。ヒャッヒャッヒャッ、脳味噌は生きてる内に使ってやらんと可哀相じゃぞ。ま、何にしても約束じゃからな、悪く思わんでくれよ。ホイッ」


その言葉の真意に思慮を巡らせる暇もなく、刹那の浮揚感に襲われた。












































が、直ぐにそれが正反対の質のものである事を理解した。
空気が頬を駆け上がっていく感覚。


自由落下。
それは言葉の額面程に自由な状態にあるものではない。
むしろ、不自由落下の名こそが相応しい。


立ち位置の床に仕掛け穴があったのだと気がついたのは頭上で扉が閉まるのに似た音が響いたとき。
──やはり、状況を察したときは常に事態は手後れなのだ。


為す術の無さからくる韜晦の了と同時に激しい音と、硬質な軟体のようなものに身体を包み覆われた。
音の正体は着水音。身体に纏わりつく物質の正体は液体──水。
しかも、この水はただの水ではない。


下水だ。汚水と言い換えても良い。味でなんとなく分かる。


そんな事は分かりたくもない事だとは意識的に考えないようにしていた。
──でなければ、惨め過ぎるから。


王都オランの地下には下水道が巡っている。
人の生活を豊かにする技術の粋たる結実が、これ程までに個人の心を荒ませる用途がある事を知った日。
リドに対する憎しみとは別の感情が湧き上がってくる感覚を抑え切れずに、水中で涙した。



いまなら解かる、ブロブの心情が。






  


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