知 者と愚者(1)〜ドワーフ村殺人事件〜
(2004/07/14)
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作者
U-1
登場キャラクター
ワーレン、アル
「平和だよなあ」
ワーレンが言った。
「そうですねぇ」
アルは答えた。
最近ワーレンとアルの間で、挨拶にも等しい頻度で交わされている会話であった。
……という程でも実はない。偶々、橋の下で英気を養っているワーレンと彼を見つけたアルが、暇を持て余して、川面を眺めていただけだ。
・・・
「そうだな。お前さんも時間があるなら、ちょっとした問題に挑んでみないか?」
ワーレンが言った。
「問題って……?」
アルは答えた。
「なあに、大した事じゃないさ。俺が以前に関わった事件から出す、ちょっとした判断力を試すようなもんさ」
“にんまり”という形容がぴったりの笑顔。ワーレンが、この表情を浮かべる時は、大抵、悪巧みだ。控えめに表現したとしても「悪戯心に火が点いた草原妖 精」くらい不吉である。
「はあ……」
アルは、曖昧に頷く。確りと拒絶しないのは、やはり好奇心からなのだろう。それが、猫どころか、己の命を奪うと彼は知らないのだ。
・・・
それは去年のことさ。
俺は、とある事件の裏付けを取るためにドワーフの村へ立ち寄った。
まあ、調査事態は空振りだったんだが、その村でちょっとした揉め事に巻き込まれちまったのさ。というのも、その村の長老というか、村長というか、まあ役人 の下請けをしていた年寄りが亡くなったばかりでな。誰がその後釜に座るかっていう熾烈な後継者争いの真っ最中だったのさ。
一人は、若者中心に人望があるものの、革新的で伝統を軽んじるダグダ。
一人は、年寄り連中から好かれるものの、些か頭の固いガルベ。
一人は、強行的な論旨と態度で鉱夫たちを従えるものの、知恵の巡りに劣るアザス。
一人は、温厚で社交的な性格を女性に支持されるも、弱腰日和見と揶揄されるベンダ。
まあ、この四人が候補だったわけだ。100人に満たない小さな集落で、皆がそれぞれの候補を擁立しようと分裂して対立している。そんな状況に俺は、のこの こと足を踏み入れちまったのさ。
んでな。外からの客観的意見ってのを求められた俺は、たった一言をもってその紛争を鎮静化させちまったのさ。ああ。そいつが問題だ。
問題:俺は何と言って村人の対立を終わらせたか?
まあ、それだけじゃ難しいだろうから、ヒントをやるよ。
俺が言った言葉は、どういう奴が頭領に向いているのかってことさ。
さて、アル。お前さんにこいつが解けるかな?
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さてっと。日も傾いて来たし、そろそろ時間切れだな。
俺は、こう言ったのさ。
正解:この争いを治められる奴が後継者に相応しい
・・・
「……それって本末転倒じゃありません?」
アルは言った。
「だが、事実だろ?」
ワーレンは答えた。
無論“にんまり”と笑顔で。
「その後、どう決着したんですか?」
しばらく納得しがたいものを感じていたアルが尋ねる。
「さあな。俺も言うだけ言って、オランに戻って来ちまったからなあ」
ワーレンは、服についた草を払いながら答えた。
「なら、きっと、その村の今の村長は、ワーレンさんってことになってますね。なんせ、争いを治めた知者ですから」
絶句するワーレンに、してやったりという表情のアル。
オランは今日も平和だった。
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