深 き闇の底より
(2004/07/27)
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作者
うゆま
登場キャラクター
ディヴィス
(詳細は”宿帳「ヒヨッコ冒険者相手の詐欺事件!?」”を参照されたし)
「おのれ・・・」
暗闇の深い、乾いた空気に、怨嗟の声が響く。
「まさか、あんなところで邪魔が入るとは・・・少々見縊り過ぎたわ」
短い古代語で”燈光”の魔法を唱える。暗闇が揺らぎ、魔法の灯火が周囲を照らし出す。次に負傷の痛みに気付き、古代語魔法とは違った言葉・・・暗黒語 で、我が神に奇跡を願う。
・・・
祈りが聞き届かれ、瞬く間に負傷が癒されていく。同時に痛みから解放され、初めて周囲に目をやる。いつもの自分の研究室だ。所狭しと、異形の怪物達の遺 骸が硝子瓶に入れられて並んでいる。
「不覚である・・・」
懐から、輝きを失った水晶の欠片がさらさらと衣を伝って地面に落ちる。折角、ロマールの闇市で、大金を叩いて手に入れた”退避の水晶”を、あっさり使う 羽目になるとは。”瞬間転移”の魔術までには今だ届かぬ己の不甲斐無さを実に思い知る。奥義を学ぶ前に、己の研究が世にとって危険と弾劾し、学院を追われ たゆえに、こうも余計な月日を消費し・・・今に至る。オランでの研究は有意義ではあったが、其れを縮めるには少々足らぬ。いや、まだまだ不足であるのだ。 人を強くするには、弱さを捨てるには、死を遠ざけるには。
「・・・」
研究室に二人分の影が現れる。魔法の灯火の範囲には近付かぬ為に、その姿は朧げであるかのように、周囲の暗闇と同調している。輪郭は人間の男女の其れで はある事は辛うじて判断できる。
「我が息子と娘よ、父が帰った・・・留守番ご苦労だった」
影が静かに揺れ、頷く素振りを見せる。そして、網の中に入った数体分の頭蓋骨を床に放る。乾いた音と共に、ひび割れた頭蓋骨の眼窩の窪みが己を見る。こ れこそが愚か者の末路である。
「ほぉ。今月はこんなに無粋な客が来たか。良くやった、良くやった」
満足し、二人の子供を称賛する。流石は我が研究の産物。
「しかし、父は疲れておる。すぐに休ませてもらおう・・・悪いが、今少し、番を頼むぞ」
全く返事は無いが、それは我が子供達が「はい」と言ったのと同じである。娘が我が脱ぎ捨てた血に汚れた衣を拾い上げ、息子は我が寝室の扉を開ける。
「・・・そうだ、我が子らよ。暫くしたらオランに連れて行ってやろう。礼を返さねばらなぬ奴らがおるのでな、自慢のお前達を紹介してやりたい。勿論、お前 達の大好物は沢山あるからな、楽しみにしておくが良い」
「・・・クス・・・スス」
子供達から微かな笑いの声が漏れた。心地よい声である。先ほどまでの怒りに塗れた我が心は静かに落ちつく。まぁ良い、暫くはオランの事は忘れるとしよ う。研究の時間はまだまだある。
「おやすみ、我が子らよ。また明日の朝に」
寝室の扉を閉じ、我は寝床につく。深き闇が我を包み、静寂の底へと誘う。とりあえずは休息が必要だ・・・
(続く?)
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