恋 心(後編・カトレア、イキシア)(2004/08/02)
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作者
U-1
登場キャラクター
アル




カトレア


様々な出会いと別れを繰り返し、ボクは21になっていました。
ボクは、毎年恒例となっている地元の“仮面祭”で、一人の冒険者に恋をしたんです。
髪を肩くらいで切り揃えた青い目の戦士でした。

いえ、勿論女性ですよ。
殊更“女性冒険者”とか“女戦士”とかって言う必要をボクは感じませんね。
そりゃ筋力に劣りがちな女性が戦士を生業とするのには色々と大変でしょうけど、結局のところ個人の資質と修練次第でしょ? 冒険者自体が実力勝負なもので しょうし、性差をどうこう言ったって始まりませんよ。ボクが戦士を本業にする方がよっぽど不自然でしょうしね。

そもそも本質的には男より女性の方が強いと思いますよ、ボクは。
ええ。彼女がそれを実感させてくれたんです。

ボクらは、互いに一目で惹かれ合い、恋を重ね、結婚を考えるようになりました。
まあ、それまでの過程をお話しても惚気話を聞かされるようで、御不快でしょうし、正直、ボクも照れ臭くて遠慮したい気分ですので……。ともかく結婚の話が 二人の間で出るようになったんです。と言っても具体的な話に進むとボクが話題を持ち出しては、彼女と喧嘩を繰り返すといった感じになりましたがね。

「なんでだい? なんでボクとの結婚を真剣に考えてくれないんだよ、カトレア?」
「考えてるわよ。アル、貴方こそ良く考えてちょうだい。私は冒険者なのよ。私と貴方じゃ住む世界が違い過ぎるでしょう」
「それは、そうかも知れないけど、君だっていつまでも冒険者でいられるわけじゃないだろう。早めに引退して、商家の若奥様 になれば良いじゃないか。勿論、商売の事なんて君が考える必要はないさ。ボクが必ず君を幸せにするから。君は、ボクの支えになってくれさえすれば良いんだ よ」
「貴方は、それで良くても、貴方の御両親は? 御兄弟や使用人たちは? 家事一つ満足に出来ない元冒険者の嫁なんて認めて もらえるはずがないじゃない」
「周りを気にするなんて、君らしくもない。疎まれようと馬鹿にされようと女だてらに戦士をしてるのは、そういった偏見を見 返すためだって言ってたじゃないか? 自分らしく生きられるかが大事なんであって、周りの言うことなんて気にしてたら人生損だって」
「それは……そうだけど……」
「だったら何の問題があるって言うんだい? 例え周りに何を言われてもボクがいるじゃないか。いや、ボクが周りに何も言わ せないよう頑張るから、だから、君がそのボクを支えてくれよ」
「……アル……」

そういった感じの諍いが耐えなくなりました。
無論、彼女に対する愛情が減ったわけじゃありません。むしろ将来を真剣に考えている分、自分の愛情は増しているんだと思ってました。彼女さえ側に居てくれ れば、自分はもっと頑張れると思ってましたし、彼女の為と思えば、どんな事だってできるって信じてたんです。
そうですね。ボクがいくら真剣に考えても所詮、親に庇護されながら商売を手伝う程度の力量しか持ち合わせていない“おぼっちゃま”の発想ですからね。冒険 者として世間の表裏を経験している彼女にとってみれば、非現実的な夢想でしかなかったのかもしれません。
でも、その自覚がボクに全く無かったわけじゃないんです。

例え世間知らずの世迷い言だったとしても、それを実現させる努力を惜しむつもりはありませんでしたし、その気持ちをこそ信じて欲しいと思ってたんですよ。 矛盾しますけどね、ボクは現実的な将来なんて、いくら考えても想像の域を出ないでしょうし、多かれ少なかれ困難はあるのだから、今この時の二人の気持ちを 信じて一緒にやっていく決意をして欲しかったんです。ええ。そう決意してくれさえすれば、ボクはどんな事だってしたでしょうから。ですからね、いっそ「商 家の嫁にはなれない。だから貴方が冒険者になって」とでも言ってくれてた方が良かったんです。いや、今だから言える事ですけどね。

そのうち彼女は議論を嫌い、ボクとの会話を避けるようになりました。
当然ですね、会話をすれば喧嘩になると分かってますから。喧嘩になってしまえば、どんなに相手を想っていても、やっぱり嫌な想いも抱いてしまいます し……。ボクは、そんなカトレアの態度に酷く傷付いたんです。二人の将来を考える、その事を放棄したんだとね。ええ。喧嘩になったとしても会話を無くすべ きではなかったんですよ。少なくとも当時のボクらには、喧嘩を繰り返し傷付け合いながらでも前進するしか手段がなかったんですから。そうですね。二人とも 若すぎたんでしょう。今ならね、喧嘩を避けながら話し合う事ができると思います。或いは喧嘩をしても根底にある気持ちを疑ったりしないか……。
ともかく、お互いが一方的に相手の気持ちを誤解して、そのまま破局を迎えるような稚拙な真似はしないでしょうね。

ええ。彼女とは結局、破局してしまうんです。
ボクは彼女と離れても彼女を想っていました。別れを切り出したわけでもありませんでしたしね。
一時は結婚まで考えた二人です。「今はお互いの気持ちがスレ違っているけれど、数カ月会わないくらいで二人の気持ちが死滅するはずはない」とそう妄信して いたんですよ。早く一人前の商人になって彼女が安心して嫁げる人間になろうって必死に働きました。年下の彼女を保護し、包み込める人間になろうと。ええ。 支えて欲しいと彼女に告げはしましたけどね。寄りかかる気なんてなかったんです。ふとした瞬間に心の拠り所となって欲しかっただけなんですよ。そういう時 以外はボクが彼女を守るつもりでした。

ある意味でボクは背伸びをしていたんでしょうね。
しばらくして再会した彼女に言われたんです。

「アル。貴方は無理に早く走ろうとして転んでしまう子供みたいだったわ。危なっかしいのよ。私は貴方のお母さんじゃない の。そんな時に手を差し伸べ続ける人生なんてゴメンだわ」

何も言い返せませんでした。
ええ。ボクは本質的な想いを伝えきれてなかったんです。
ですから、彼女の目に写るボクは甘えん坊の世間知らずに過ぎなかったんですね。
そうですね、そんな男でも彼女は好いていてくれてたはずなんですけどね……。
諍いが激化する前は彼女も結婚を喜んでくれてましたしね。

ともかく、彼女はすでに別の男と恋をしていました。
ええ。ボクの方だけが取り残されていたんです。忘れることも割り切ることも出来ずにね。
カトレアの新しい相手は、彼女より年下の冒険者でした。

そうなんですよ。ボクから見れば彼の方こそ子供のようでした。物事を深く洞察するわけでもなく、将来を考えるでもなくといった感じでしたからね。でも、そ の分、背伸びだけはしていないようでした。
歳がいくつになったとしても無理をしている男ってのは、女性にとったら子供っぽく見えるのかもしれません。例えその背伸びの裏にどんな想いを抱いていたと してもね。
つまりは、それだけ女性は無理をしないって事なんでしょう。背伸びなんて必要ないくらい強いんです。個人差もあるでしょうけどね。少なくとも自分の感情を 自分で操作する事ができるくらいには強いはずなんですよ。恋に夢中になってる内は夢中である事を自分が許してるだけなんです。だから、夢中でいる必要が無 くなるとさっさと忘れて次の男を探す……一生、夢中でいても良い男を見つけるまでは。

そうですね。いつものボクには似合わない表現かもしれません。
当時は多少、女性不信に陥りましたしね。それが尾を引いているのかもしれません。
でもですね。顧みてみるとお互いが抱いていた想いに嘘偽りは砂の粒ほども無かったんですよ。
彼女に裏切られて……少なくともボクは、そう感じたんですが、それでも彼女が好きでした。もしかしたら、彼女も好きという気持ちに背いたわけじゃないのか もしれませんしね。多分、余計な事を考えず、お互いの気持ちだけを信じていれば、それで幸せになれたんでしょう。その当時のボクには分からなかった事です けどね。

結局、あの恋愛を通してボクが学んだ事っていうのは、単純な事なんですよ。
つまりですね……。

女性は男より強い。でも、もしかしたら純粋な想いは、もっと強いかもしれない。<><>




イキシア


イキシア……それが、いまのボクが想いを寄せている女性です。
勿論、ご迷惑がかかるといけませんので、仮名ですけどね。彼女は今までお話した女性の容姿や職業、仕草なんかを併せ持った女性でして……。ええ。ですから ボクが最初に彼女に惹かれた理由は他の女性の面影を追ってという事になるんでしょうか……。そうですね。あの方にしてみたら失礼な話ですよね。

いえ、まだ、それほど深くあの方を存じ上げてるわけでは、ありません。
ほんの二、三度、会話をさせて頂いただけですしね。ええ。ですから、実際にどんな性格なのか……それは、表面的な事しか知らないんですよ。もしかしたら過 去の女性たちに似通った所が、おありなのかもしれませんし、まったく違うのかもしれません。その辺りは今後お話しさせて頂いてるうちに分かってくるでしょ うね。まあ、だから「恋している」というよりは、「惹かれているかもしれない」といった程度のアヤフヤな気持ちなんですよ。

そうなんです。“気になっている”という状態でして……。
でも、過去そういう気持ちを抱いた時の経験からすると、大概、恋に落ちてるんですよね。
よく「恋は病と同じ」などとも言いますし、症状がはっきりとしていないだけで、すでに感染し潜伏しているだけなのかもしれません。ええ。神殿へ立ち寄る 時、“きままに亭”にお邪魔する時、いつでも彼女に会えるかなっと僅かながらも期待してしまう自分がいますしね。

そうですね。彼女にも同様に想って頂けてたら嬉しいですけど……でも、それはどうでも良いことかもしれません。何故ってボクは彼女に想いを伝える気が今の ところ無いからですよ。ええ。例え幸運にも想いが通じ合うのだとしても性急に事を運ぶ気は毛頭ないんです。フリージアが吟遊詩人とそうであったように冒険 者仲間での恋愛は色々と弊害を生むことがあるでしょうしね。

だからボクは今のままで良いと思ってるんです。
伝えなくてもボクの中に彼女への想いがある……今の状態のままで。
彼女の笑顔を想うだけで元気になって、日々の生活に張り合いがでる、そういう今を受け入れて変えずにいたいと思ってるんですよ。リラとの時が、そうだった ように……。

それに、きっと今のボクでは、イキシアさんに釣合わないでしょうから。
ええ。彼女に見合う男になろうって無理するのは意味がないですからね。それこそカトレアのように愛想をつかされてしまうのが関の山でしょうしね。そんな無 理をしないでいれば、彼女は今と変わることなく微笑んでくれるでしょうし、ボクは今のところ、それだけで満足なんですよ。

そうですね。もし一緒に冒険する機会に恵まれて、より親しくなった時は、この気持ちも変化する可能性があるでしょうね。
そうなったら伝えるかもしれません。

「イキシアさん、ボクは貴女が好きです。初めてお会いした時から惹かれていました」と。



蛇足


本当に長い話にお付き合い頂いて、ありがとうございました。
ええ。そうですね。例え報われないものだったとしても、誰かを想うっていうのは、良いもんだってボクも思います。
ですから、過去の想いも今の想いも大切にしていこうって。

あははは。やっぱり気障でしたか。女性の仮名を花からとるのは。
いえね。花には、それぞれ象徴する意味っていうのがありますしね。まあ、書物によって多少意味が変わる場合もあるんですけど……。ええ。学者を志す者とし て、また、詩人の端くれとして、そういった隠喩を込めてみようかと思いましてね。そうなんですよ。

ええ。あとはそうですね……彼女たちの共通項としてですかね。
え? ああ、それは、こうですよ。

彼女たちはボクにとって、高嶺の「花」だって。



  


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