雛 鳥たちの帰還(2004/07/03)
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作者
U-1
登場キャラクター
アル



新王国暦516年、8の月、6の日……オラン、若鷹の広場にて。

悪意 それは闇の御使い 人知れず巡らされし 邪悪な企み
不幸 それは時の気紛れ 穿たれし墓穴の如く 人を喰らう

「行方知れずとなった“ひよっこ冒険者”
 かの者たちを探すため一人の衛視が立ち上がったのでございます
 単身人攫い共の元へ乗り込みし勇敢なる衛視
 自ら新米冒険者に扮し敵を探ろうとの思いにございます
 己の身をも顧みず愛する街と救うべき人のため無茶を承知で働きし者
 その身に宿るは至高神の正義か はたまたマーファの慈愛か
 非情なるは暗黒神の御使い
 邪法を修めし者により彼の衛視は神の御元へと召されたのでございます」

尊ぶべきかな 彼の者の御心 救い求めし数多の雛たち 彼の衛視に希望を授かる
その希望 綺羅星の如く 燦然と輝く救いとなりて 雛たちの心に宿る
冬の暖炉 その暖かさの如く 優しく包む安堵となりて 雛たちを励ます

「時を同じく 彼らと衛視を救うべく 闇を探りし一団が居たのでございます
 一人は衛視 皮肉な口調に義侠心を隠した熟練の戦士
 一人は青年 物静かな言動と見目麗しい容姿を持ちし金髪の冒険者
 一人は女性 情報に長け探索と調査を得意とする
 そして いま一人は拙い“ひよっこ”吟遊詩人にございます」

四方より 救いの御使い集いて 闇を探らん
他方より 交流の神に導かれて 助力訪れん

「一人は戦士 歳若くも熟練の技量と豊富な経験を備えし冒険者
 一人は道化 黒き衣と仮面に身を隠し闇に潜むもその心は光に満ちし者
 一人は女性 勾引されし仲間を案じた心優しき冒険者
 そして いま一人は“疾風”の如き草原妖精にございます」

毒持ちて 雛を操りし邪法の御使い 八つの光に慌てふためき 街に魔物を放たん
その時 街に救いあり 穂先砕けし槍持ちて 弛まぬ勇気を駆り立てて
突き立てし一撃病み砕き 悪意の獣に慈悲を齎す 街を愛せし其の心
魔獣となりし心に届く 衛視に救われし其の魔物 毒に喘ぎし雛へと戻らん

「かくして毒により魔物と化した哀れな被害者は衛視の手により救われたのでございます
 一方その頃 毒の正体を看破した面々にも 邪悪なる脅威が迫っておりました
 魔物を街に放つ程の凶悪なる敵 それは暗黒神の使徒でもある邪術師でございました
 うら若き少女を傀儡とし 荒ぶる魔力を武器にして
 かの邪術師は街を守らんとする全ての心ある者に迫ったのでございます」

黒き髪を風に靡かせ 稲光の如き斬撃は風を切り裂き 悪意を受け流す盾は風すら止める
剣士は果敢にも己が勇気のみを友とし 悪意に誑かされし少女を救わんとす
剣風俄に鋭くなりし時 予てよりの友人 救いの手を持ちて現れん
姿形こそ幼子なれど 瞳に宿るは熟練の冒険者 瞬く間に現れし其の姿 正に光の如し
草原妖精に続きしは 三つの巨星と一つの小さき光

「夜の闇に紛れるように迫る邪悪 その魔の手より街と人々を守らんと
 五人の勇者としがない吟遊詩人が毒に操られし少女の前へと立ったので御座います」

灼熱の渦 魔手となりて勇者を襲わん 心優しき冒険者
雛を救わんと自ずから悪意に飛び込む
邪悪の雷 凶手となりて勇者に迫らん 見目麗しき冒険者
仲間を救わんと白刃持ちて悪意に向かう

「恐るべき禁断の魔術により冒険者たちは甚大なる被害を被るので御座います
 なれど敵もさる者 続けざまに魔術を放ち彼らを一掃しようと企ていさむ
 その時で御座います
 姿を見せていなかった最後の勇者
 彼の者の死角をつきて 救いの刃を打ち立てたので御座います
 狼狽の極に達した邪術師 少女を駆り立て勇者に向かわせ
 自らはさらなる魔術の詠唱を始めるので御座いました」

悠久なる刹那 勇者の叫び 悪魔の詠唱 吟遊詩人の調
闇にとつとつと 雛にせつせつと しじまに朗々と
調と声 想いと願い 救いと終結

「驚くべき事に事態を解決したのは しがない吟遊詩人の詩で御座いました
 拙い調では御座いました 貧相な詩で御座いました
 所詮は詩人 奏で語る事しかできはしません
 なれど その詩歌が少女を悪意の呪縛から解き放ったので御座います」

呪歌 それは神の御使い 夢を齎し人を救いし 奇跡の調
幸福 それは泡沫の夢 なれど我等の取り戻せし平和の夢

「これにて“雛鳥たちの帰還”終焉で御座います」
アルはそう告げて瞑目していた瞳を開く。節を付け曲を奏でていた竪琴から指を離し、周囲の聴衆を見渡した。些か照れ臭そうに、多少不安げに。




  


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